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奴隷少女とダンジョンを突破するのはダメなのだろうか  作者: 生くっぱ
一章 異世界転生と奴隷の少女
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【第五話】初めての救助

 荷馬車は勢い良く走り去り、その場には興奮の限りを見せるゴブリンが複数体。しかもラージが何体か入り混じっている。単体ならまだしも、あの数では走り去りたい気持ちも理解出来る。だが囮として人を放置した事は許されない。お前ら商人どもの下劣な声色、覚えたからな。


「やだ……来ないで……」


 善意でやる訳ではない。そう、情報収集だ。


「助け……!?」


 俺は今にも少女に飛び掛かろうとしていたゴブリンの首をスパッと跳ね飛ばした。今のレベル、超集中のスキル、これらを踏まえて考えるに、この戦場は取るに足らない筈だ。落ち着け。


「じっとしていろ、すぐに終わる」

「……ぁ」


「ギギャッ」

「ギッ」

「ギィィィゲバッ!!」


 スキルにより思考力を底上げした俺はゴブリンの集団の中、隙間を縫う勢いで駆け抜け、去り際にナイフで首を切り落として回った。何が起こっているのか理解の追いつかないゴブリン達は、敵を敵と認識する暇もなく、その全員が骸となり、その場で魔石となった。


「悪いが全員逃さないぞ」

「ギッ!?」

「ゲバッ!?」


 ナイフを振り抜きながら我ながら呆れてしまう。身体は良く動くは敵の動きはハッキリ見えるわで、貰った【特典】の凄さを思い知らされるよ本当に。レベルが低い今の自分で既にこの勢い。これは確かにやたらと他者に晒す訳にはいかないな。


 散在したゴブリン達はあっという間に塵と化した。さて、魔石は……あったあった。結構な数になって来たな。収納が無ければ今頃諦めている頃合いだろう。手に持たなくても良いってのは戦闘時に大きな利点となる。有難い限りだ。

 さてー


「あ、あの……」

「怪我は無いか?」

「はい、大丈夫です。そ、その……」


 手枷に足枷を付けられ、このまま放置していてはやがて死ぬだけだろう。だからといて滅多矢鱈と人助けして回りたい訳でもない。どうしたものかー


「助けて頂き、ありがとうございました」

「物のついでだ、気にするな」

「どうお礼をして良いのか、何も思い付かなくて」


 ……お礼?

 この状況で?

 お礼をするというか、手枷足枷をされて、その上で持ち物も何もない。そんな状況で、命を乞うでも無く、助けを求めるでもなく、お礼をする?


「せめて、これくらいだけでも……」


 自身の着るワンピースの裾を千切り、犬耳の少女は俺の靴を磨き始めた。泣くでも無く、喚くでもなく、罵る事も、呪う事も、恨む事すらせず、こんな極限の状況で、こいつは……。


「もし何かありましたら、是非何でもお申し付け下さい、命の恩ですから」

「……この後はどうするんだ?」

「この後、ですか?」


 犬耳の少女は少し考える様子を見せ、そして答えた。


「動けませんので、ここで貴方に感謝しながら過ごします」

「過ごすってお前……」


 それはつまり、死を許容しているって事か。


「命のご恩の上、今私が何を口にしても、貴方様に迷惑を掛けてしまいます。なので、私はー」


 いや違う。

 そうか、コイツは感謝しているんだ。


 与えられた物の価値を正しく理解し、返し切れないと判断、そして出来得る限りを尽くし、せめて真摯であろうとしている。


 こんなヤツが存在するのか?

 この極限の状態で?

 なのに何故こんな事になっている?


「いえ、私の事はお気になさらないで下さい。助けて頂いた御恩、決して忘れませんので」

「なら、その恩に報いる方法を教えよう」

「……はい」


 犬耳の少女は、少し身体を震わせた。

 けれど俺はー


「お前の人生を教えてくれ」

「……え?」

「そして、俺の知らない知識を貰う。それでチャラだ。どうする?」


 するとその言葉を受けて、彼女は泣き始めてしまった。

 こ、言葉が悪かっただろうか。

 それとも突き放し過ぎたか?


「えっと……とても嬉しいのですが……」


 顔を伏せ、申し訳なさそうに手枷に目をやった。そして合点がいく。成る程、確かにそれがあっては話が始まらない、と言う訳か。


「解錠」

「……え?」


 パキリと、小さく音を立てて外れた手枷。

 そして。


「解錠」

「……」


 これにより、彼女を捕らえて離さない(しがらみ)の鎖は全て断たれた。今の俺は理解出来ない存在を目の前に好奇心が抑えられない状態だ。さぁ、次はどうする?


「あ、あの……、私、ど、奴隷の身分でして……」

「そうなんだろうな」

「なので、錠をしていない奴隷が一人で歩いていては、その、何と言いますか……」


 ー!?

 クソッ、そこまで考えが至らなかった。主人の居ない奴隷など脱走者に他ならない。それに俺は解錠こそ出来るものの、施錠は出来ない。となると、このままでは恐らくコイツはー


「すまなかった、俺が短絡的だったが為に逆に迷惑を掛けてしまったな」

「いえ、そんな! ここまでして頂いて感謝の念が絶え無いのですが、本当に申し訳ありません。私はここに残ります」

「……」


 街に戻れば街の慰み者に。商人の元へ戻れば再び粗雑な扱いを受け、ここに残れば確実に死ぬ。だが、誰かに弄ばれるより、商人に粗雑に扱われるより、俺に迷惑をかけるより。


 俺から受けた恩に感謝しつつ、崇高な意識のまま死を選ぶと。そう言うのか、コイツは。


「あの、もしよろしければ、せめてお話はさせて下さい。それが貴方様へのお礼になるのであれば是非。ですがその後は……」


 ……こんなヤツが居るんだな、この世界には。


 何だか、異世界ってのも、

 思っていたより夢が無いものなんだな。

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