【第五十四話】ギーファ隊、アナベルとウェルキン
「次があったら絶ッ対ェぶっ殺す」
「回復されながら威張るとは筋金入りだな」
俺は一悶着の後、他のメンバー二人に断りを入れてギーファの回復を買って出ていた。ま、今回のは俺も全てをコイツのせいにする気までは無い。話くらいは聞いてみるか。
「で、お前らはこのダンジョンに何の用が?」
「決まッてんだろ、ボスをぶッ殺して更に強くなンだよ!」
「……ん?」
「ンだァ? なンか文句かッか、あぁン!?」
ボスにしか執着が……無い?
「お前まさか報償金とかコアが目当てって訳じゃないのか?」
「金は余ッてンだ、今更いるかよ。コアもストックがある、あるッてンなら持ち帰るが必死こいて集める程じゃァねェ」
「……ん?」
まさかこれは……?
「俺たちは今回【炎系ダンジョン】の経験と、報償金が目的だ。正直ボスに執着は無い」
「あン? 腑抜けた事言ッてンじゃねェよ腰抜けがッ」
「そうでは無い。利害の話をしている」
「……ふてェ野郎だ。俺にボスを譲ッからコアを寄越せッてか? 良いだろう、乗ッた」
「ふ、話の早い奴だ」
前回も思ったが、コイツ単細胞に見えてかなりストイックで頭がキレやがる。戦闘センスも高い。見て学ぶ分には有難いレベルですらあるだろう。それに今回は不安もあった。
「え? ええええええ僕たちもしかしてダンジョンに入れちゃうの? まさか帰れないの!? もう良いじゃん負けたんだから帰ろうよ!!」
「黙れお荷物野郎が。そんなに空の旅が御所望なら俺がここからギルドまでぶン投げてやンよ。おら立ちやがれ。快適さだけは保証しかねるがなァ、あァン!?」
「え、冗談だよね? 本当に投げようとしないて、……僕もダンジョン行きます」
「死ぃぃねェェェェェ!!!」
「ぁぁいあああ行くって言ったのに何で投げるのぉぉ………ーー」
「……彼は大丈夫なのでしょうか?」
「ま、身体は頑丈な奴だし大丈夫なんじゃない?」
「はぁ、そうだと良いのですけど」
他のチームの特色の違いに困惑の色を隠しきれないルクレティア。とは言え、コイツらはかなり異色な気はするがな。
「と言うかアンタ凄いよね! 私びっくりしちゃった、あのギーファくんと共闘で話を付ける人なんて初めてみたよ! アンタ面白いね! ね、ルク……レティアちゃん!」
「ご、ご主人様?」
「そう言う事だ、一つ頼まれてくれ」
「勿論、異論はありませんが」
「もう、チャラにした」
「僕らもお金が必要ですものね」
この【炎熱のダンジョン】はランクにして【A】。俺たちにとっては未だ未攻略の領域であり、自身のランクから考えても格上のダンジョンだ。
そこに来てこの話は正直有難い。コイツの短絡的な所は飽くまでもコイツのルールの基で行われている。意図的な短絡さ、であれば話が通用しない訳では無い。
寧ろ話に関しては通じ過ぎる程だ。何だかんだ言って、俺はこういう手合いは嫌いじゃ無い。手を組めるのならこちらから示唆したい程には。
「同盟だ、今回に限ったな」
「ルールは【俺がボスをぶッ殺すから手ェ出すな、コアは好きにしやがれ】だ」
「道中は勝手にやるが、基本不可侵不干渉」
「俺たちャァ手ェ組んだだけの他人だ」
「無論だ、それで行こう」
「てめェ話が早ェな、そう言うのは悪かァねェ」
「お前もな」
パシンと、握手するでも手を合わせるでも無く、只一度互いの手を出し軽く叩くのみのそれは、たったそれだけで全てが成立した事を証明していた。
「行くぞてめェら。もたもたしてッと何日掛かるか分かッたもンじゃねェ」
「はいはい行きますよぉぉぉ! もーヤケ糞だよぉぉぉ【A】ランクとか怖いってぇぇぇ!!」
「あれ、アンタいつの間に戻ってたの?」
「酷くない!? 僕必至に崖を登って来たのに! 何か優しい一言とか無いの!?」
「いやー帰らずに済んで良かったー!」
「ここで無視!?」
「俺たちも行くぞ。奴らはの警戒は解除して構わない。その分周囲の環境に注意してくれ」
「分かりました!」
「了解、任せて」
「いつも通り背中はお任せ下さい!」
まさかこんな流れがあるとはな。
興味が尽きなくて大変よろしい。
*
【炎熱のダンジョン 1F】
「オラてめェらボサッとしてンじゃねェ!!」
「わ、わかってるって! 怒鳴るなよなもう。今更逃げたりしないからさ」
「しっかりしなよウェルくん! 死んじゃっても無視するよ!」
「それ死体を放置する話だよね!? 死ぬまで放置されてる上に死んでも放置されてんじゃんそれ!! 助けてよ薄情すぎんでしょぉぉ!」
ダンジョンの中はまるで火山を歩いているかの如き熱を帯びており、ただ歩くだけで体力を奪われそうな状況に辟易とする。
にも関わらず、ギーファはパワー全開で足の裏から炎を噴出しながら高速移動をキメている。
「ザコは引ッ込ンで死ねェェェ!!」
「ゲギャッ!?」
「グェッ!!」
蹴り飛ばし、殴り飛ばし、投げ飛ばし、その一見全開戦闘にも見えるそれは、出力を足の裏に絞った省エネ戦闘であり、奴に関わった魔物たちはその火炎に焼かれる事なく、ただ肉弾戦闘によって制される。
「よく見ておけ、お前の手本だ。リーシャン」
「とても、上手い。同じ事は、まだ無理」
「だろうな、俺目線でもアレはちょっと難しそうだ」
「大柄に振る舞っておられるので見落としがちでしたが、かなり綺麗な戦闘をされますね、ギーファ様」
「【様】なんて止めろ。せめて【さん】にしておけ」
「いえ、私は奴隷身分なので……」
「アレはそんな小事を気にするタマじゃない、大丈夫だ」
「はぁ、そうなのでしょうか」
━━━━━━━━━━━━━━
【ウェルキン・ベアレット】-ギフターLv1-
レベル : 21
HP:162
MP:98
筋力:160
敏捷:158
耐久:159
精神:96
魔力:101
装備
【ベアークロー】
スキル
【獣化:熊 (獣となりHP筋力耐久が倍化する)】
━━━━━━━━━━━━━━
「ギャァァこっちきたァァァァァァ!!」
「あの人叫びながら敵を叩き落としていますね」
「怯える程低いステータスでもなかろうに。性格か?」
「僕みたいに怖がりなのかもしれませんね」
「怒ると、恐そう」
計らずもリーシャンが正解を言い当てていた。ちょっとウケるな。ウェルキンと呼ばれる剽軽な男、彼はその頭に小さく可愛らしい耳を付けた【熊の獣人】だった。そのポテンシャルは物理戦に特化しており、特にスキル【獣化】は強力で、恐らく熊の姿に変わるのと引き換えにステータスを向上させるという物なのだろう。
ステータス増強化のスキルは数あれど、【天賦の才】の様に倍化させてくれるスキルはこれまで見た事が無かったが、どうやら彼はその一人らしい。
獣化を適用する事でパワーとタフネスが倍化する。その分速度の変化が見られない様だが、ステータスの伸び方で言うならば文句なしの強スキルと言えよう。ただー
「いやぁぁぁこっちこないでぇぇぇぇ!!!」
本人のメンタルが接近戦に向いていないらしい。あと気になるのは獣の【姿】になるのではなく【獣】になるという点だ。知能に変化があるという事なのだろうか。だとしたら致命的なデバフと言えるだろう。使う場面がかなり限定されそうだ。
━━━━━━━━━━━━━━
【アナベル・ホーキンス】
レベル : 23
HP:153
MP:192
筋力:143
敏捷:146
耐久:142
精神:196
魔力:194
装備
【魔法樹のアースロッド】
属性魔法
【土属性 : C】
スキル
【・白銀の加護(白銀に名を連ねる一族に産まれた者は祝福により魔力が一定時間毎に自然回復する)】
━━━━━━━━━━━━━━
「もー落ち着きなよウェルくん、岩の中に閉じ込めるよ?」
「助けてよ!? 何で閉じ込めちゃうの!?」
「臭い者に蓋?」
「それ根本的な解決にならないやつじゃん!! しかも流れ弾で臭いとか普通に心に効くんですけど!! 助けてって言ってんじゃん!!」
「もー煩いなぁ、えぃっ」
「ギャァァマジで閉じ込ー」
「ふぅ、これで良し」
「凄いチームですね」
「俺もなかなか見ていて飽きないよ」
素晴らしいチームワークで味方の騒音を岩の内側に封じ込めた彼女はアナベル女子。見た目は茶髪で長い髪が目を惹き、顔立ちも中々に良い美形の女だ。スタイルも胸良し尻良しで出る所が出ており身長も160センチ程だろうか。あれだけのスペックを誇れば男に困る事はあるまい。
その上で彼女は後衛のサポート系土魔法所持者の様だ。今の所は敵を分断したり味方を封じ込めたり程度の働きしか見せていないが、魔法の構築はかなり手慣れており、恐らく攻撃的な場面でも活躍するであろう様子が窺える。ステータス上の【白銀】の意味する所が汲み取りかねるが、どうやらスキルホルダーでもある様子。
彼女はその甘いルックスからは信じられない程にクレバーで、邪魔となれば味方を封じる事も厭わない。いや、見方によってはウェルキンを守ったと見れなくもないそれは、案外と理に適っているのかもしれない。
「こらぁぁぁ!! 僕を閉じ込めないでってば!!」
「煩いのが出てきちゃった」
そうでも無いのかもしれない。




