【第五十二話】家が欲しい、ならば善は急げ
「あの家だけどさ。実際の所、後一つ【A】ランクのダンジョンをクリアすれば買える額ではあるよな」
「Aランクは褒賞機が金貨500枚でしたよね。Cランクのダンジョンを安全に十回周るか、Bランクを五回周るか……」
「売却されたら、終わる」
「早くしなきゃ誰かに取られないとも限りませんよ!」
宿に帰還後、俺たち四人で会議となっていた。会議と言ってもそんなにややこしい議題では無い。あの家を買うか否かというシンプルな問答。
Cランクダンジョン程度であれば今の俺たちならそれ程準備せずとも無理なく攻略出来るだろう。下手なトラップダンジョンに手を出しさえしなければ一番安全に目標金額をクリア出来るルートだ。だがしかし、現実問題としてそんなに多くのCランクダンジョンが頻出する訳ではない。その上でCばかりを潰せば周囲の反感も買いかねない。
だからと言ってBランクダンジョンに行くのなら、やはりある程度の準備や日にちをかける必要があるだろう。
どうせ時間をかけるなら【A】ランクへ挑戦するのもまた一興、という訳だ。少し危険も伴うが、何事にも頑張り時やステップアップのタイミングは存在する。今がそうだと腹を括るも良いだろう。
「俺も賛成だ。あの家で良いと思っているし、いつ売れてしまうとも限らない。善は急げってって奴だ」
「よし行きましょう」
「レッツ、ゴー」
「置いて行きますよー!」
実際、俺もこの件には賛成なので会議も何も決定は決定なのだ。むしろ問題とするのはー
「どこに行くんだ?」
「……何処でしょうね?」
「兎に角、行く」
「どこでも良いですよそんなの!」
「良い訳あるか馬鹿者」
「あぅ」
「うっ、だってご主人様……僕居ても立っても居られなくて……」
何処のダンジョンにチャレンジするか、という点が今回の会議の結論となるべきなのだ。何処でも良いから行こうはもう支離滅裂なんだよ。ただのピクニックじゃねぇか。
「まずはギルドだ。そこで【A】相当に分類されているダンジョンを聞き、狙う場所を絞る。それでどうだ?」
「それで行きましょう!」
「いざ、ギルド」
「ご主人様早く行きましょー!」
今までにない前のめり感が絶えず続いている。家というのはそんなに大切なのだろうか。俺はずっと孤児院で誰かと相部屋で、今の宿の方が余程綺麗で広い。本来俺自身の意見で言うのであれば、下半身への危惧を除けばこの宿のままでも構わないのだから。
うーむ。
ま、皆がそう言うならそれで良いか。
*
「ん?」
「何だか騒がしいですね」
冒険者ギルドを訪ね、いつもの様にダンジョンを見繕って貰おうと目論んでいたのだが、どうも受け付けが騒がしい。
「問題?」
「何とも言えんな」
リーシャンの率直な問い掛けに対し、ひとまず濁した様な返答に留めておいた。現時点では何事とも判断出来かねる。どうも何やら揉めている様な雰囲気はある様だが……。順番待ちがてら、様子を見ておくか。
こう言う時はこれに限る。
【超集中】、発動。
『だからどうして俺が小隊の隊長になってんすか! 俺は副長なんですよ! 何も聞いてないんすから説明して下さい!』『落ち着いて下さい、そう言われましても』『それに隊長と連絡がつかないの。私も心当たりを探したのですが、何処にも居なくて。何か聞いていませんか?』『当ギルドでは何も』『そんな! だってこんな事になってるって事は隊長は退会手続きをされたんでしょ!?』『それはその通りです。取り付く島も無かったので手続きを賜りました』『断って下さいよ!!』『無茶を言わないで下さい……』『でも……クソッ!! どうすりゃ良いんだよ!!』
……隊長格を務めていた存在の蒸発か。なんというか、あのメンバーの実力は一人一人が俺やルクレティアに匹敵する実力者。天賦の才や神域の天稟を込みで、だ。皆、かなり鍛えられている。
そのメンバーを束ねていた存在の蒸発ともなると、問題になるのも然もありなんと言った話か。俺たちも受け付けに用があるのだが……やれやれ、どうしたものか。と、そんなタイミングでー
「何だ君たち、今日は野次馬かい?」
「っ!? ……ベルモンド支部長か。脅かすなよ」
「失敬、脅かしたつもりはないのだが。あまり良い趣味だとは言えない行いを目撃したものだからついね」
「……悪かった。行事がなって無さすぎたな。すまん」
「殊勝で結構。所で、本当に野次馬をしに来たのかね?」
突然背後から声を掛けて来たベルモンドに心臓を握られる様な心地を提供して貰い、一先ず素直に謝罪した。気になったとは言え、確かに良く無かったな。それよりだ。
「ダンジョンを斡旋して欲しい。【A】クラスだ」
「成る程、そっちが本題か。ならば順番待ちのついでだった訳だ。ひとまずこちらの落ち度を鑑みて行儀の悪さは不問としよう」
「そりゃ寛大なこって」
正当な理由があった、とも言えないが、本当にただ野次馬をしていた訳では無く、俺達の目的はダンジョンだ。
「今出現している【A】相当を記した周辺の地図だ。持って行きたまえ」
「助かるよ」
俺がベルモンドとやり取りを終え、必要な物を受け取って尚、受け付けでのゴタゴタは継続していた。その消えた存在を探す必死さは痛い程に伝わってきており、十数名といるメンバーの数人は涙すら流している状態であった。
「ご、ご主人様……」
「今俺たちに出来る事は何も無いさ。気持ちは分かるが半端に関わるのも良くないだろう。俺たちは俺たちの目的に動こう」
「……分かりました」
「ちょっと、怖い」
「本気の人たちの迫力だよね。何だか何も出来ないのが申し訳ないよ」
他人事ではあるが、その本気度は伺える。
彼らが我々よりも遥かに弱い存在であったなら、出来得る選択肢も見つかったかもしれない。だが同等の実力者とあっては、状況を乱すだけであって一利提供できるかも怪しい始末。いつの日か協力を求められればその時は力になるも良し、だ。
今はただ、俺もまたせめてその人物が早々に見つかる事を願おう。
全体的な誤字や誤用の修正
言葉足らずだった部分の補足
現地時間の違和感の微調整
三章の見出しの作り忘れ(オィィィ)を対応致しました。
私自身未熟ゆえ、粗が目立つやもしれませんがどうぞよろしくお願いします。




