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奴隷少女とダンジョンを突破するのはダメなのだろうか  作者: 生くっぱ
三章 嘆きのダンジョンと双子の過去
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【第四十三話】襲撃者、ギーファ・バスカビート

【嘆きのダンジョン 9F】


 その空間には本当に何も無くて、ただ扉が無造作に置かれていただけだった。魔物もおらず、取得物もなし。周囲に魔力的な異常もなければ見通しは良好。


 つまり、この空間は扉の向こうに居るであろうボスを倒すだけの通り道兼最後の準備場所って訳だ。分かりやすくて大変よろしい。


「前回の経験がどれくらい意味を為しているのか些か自身が持てないが、あのボスの異常性を考えるに、それまでのダンジョンから相関性の無いただ強力な魔物が配置されている可能性が高い」


 俺のこの発言に、全員が静かに頷いた。


「今回は【入り口】から入れるが、素直に敵の前に出られるとも限らない。とは言え、不足の事態を想定し過ぎても仕方がない。故に【異常事態】の場合は基本的に俺が初動を担当する」

「分かりました」

「その方が、良い」

「僕もちょっと自信がないかもです」


 ま、これは建前みたいなものだ。問題はここからだな。


「では敵の前に扉が素直に通じている【通常パターン】の場合。リーシャン、ローメイ、お前らの中距離攻撃から様子を見る。先陣を切るのはお前らとなるが指示を出すまで勝手な真似はするな」

「了解」

「わ、分かりました」

「ルクレティア、必要に応じて二人を援護しつつ敵や地形的な情報を集めろ。場合によっては短期決戦や長期戦とどんなパターンになるとも分からぬ故、夢々油断せぬ様に」

「勿論です、ご主人様」


 よし、これくらい話せていれば何とかなるだろう。

 前回のアレが【B】相当だというのであれば、今回のこれはレベルが上がった状態での【C】を相手取る場面だ。これくらいは軽く捻っておかないと先がキツくなりかねん。……ん?


 リーシャンとローメイの様子がおかしい。

 何かに気が付いたか?


「誰か、来る」

「後ろからです。数は三名、でしょうか」

「三人? 人なのか?」

「恐らくとしか」


 扉とは逆方向からの来客。こちらから来る上で人って事は、冒険者か。このタイミングでバッティングとは面倒な。俺たちが先客だ、招かれざる客にはお引き取り願おう。


 前を歩いているのは……赤髪のツンツン頭か。ガタイと雰囲気はかなり仕上がっている、見るからに強そうだ。奴の装備……見覚えのある籠手だな、どこで見たんだったか。


「んだァコラ。テメェら誰に許可貰ってこんなとこでダベってやがんだ、アァン!?」

「これは、また話の通じ無さそうなのが来たな」


 ガラの悪そうな連中だこって。まだなんの会話もしてないってのに早速これか。話にならん。


「ね、ねぇギーファ。向こうが先だったんだから、私たちは遠慮しようよ?」

「そうだよな、僕もアナベルの言う通りだと思うぜ」

「なんだとテメェコラ! 寝惚けた事言ってンじゃねぇ!! こういうのはな、早い者勝ちだっつって相場が決まってンだよ!! テメーらもそう思うだろ!? なァ!!」

「なっ!?」


【超集中】、発動。

 咄嗟に抜いた黒刀が、ツンツン頭の馬鹿の拳と激突する。


「えっ!?」

「ヒッ」

「な、なんで!?」


 衝撃波が生まれ、俺の背後に居たルクレティアたちへと強い風が押し寄せる。俺がフォローに入らなければ狙われていたのはルクレティアだった。何なんだこいつ、いきなり殴り掛かってきやがった!


「ほゥ、案外とテメーも動けンじゃねェか真っ黒野郎コラァ!!」

「チッ」


 2、3度の打斬の応酬で斬り分けた俺とツンツン頭は互いに一度距離を取った。だが直様(すぐさま)真横に走り始めた敵に合わせて俺も同方向へと走り始める。


 と、地面を強く蹴り進行方向をこちらに向けて切り替えた奴は正面から打撃の構えを見せる。芸の無い事だ。


「バァカ、二度同じ手を使うかミソカスがァァ!!」

「あぁ!?」


 突如地面が爆発した、そしてそれを跳躍のエネルギーに活用している? 考えていたタイミングとはまるで違う跳躍を見せると、次は掌から炎を噴出?これによって更に進行方向をコントロールするとこちらへ向けて急接近し、それを読んでいた俺の刀がー


「躱された!?」

「当たるかカスがァァ!!」


 奴を捉えるに至らず、敵は更に身体を捻る事で刀を回避し、俺の真正面に掌を向けた。

 拙い、これはそこそこヤバい奴だ。


「死ィネェェェええええエクスプロージョン!!!!」

「キャァァ!!?」

「ヒッ!」

「うぅ、な、なんで……」


 ゼロ距離エクスプロージョン。ダンジョン内のボス部屋前、その大広間にて大爆発が巻き起こる。俺を中心としてだ。勘弁して貰いたいよ本当に。


「ご、ご主人様ァァァ!!!」

「ははン、流石にくたばりやがったかァ?」


 だが俺は自身の周囲に水のヴェールを展開しており、この衝撃波や熱は何一つとして俺へは届いていない。さて、煙幕の濃い内にこちらからもやり返してしまうか。


 俺は空間に満ちた黒煙の中、敵の視界から僅かに外れた角度から出現した。


「なっ!?」

「お返しだ。集え、海震王(ポセイドン)


 直径10センチ程のボール状に固めた1t以上の水。前回ミノタウロスへ放ったそれを掌からツンツン頭の腹部へと押し当てる。


「あガァっ!?」


 外見上は掌底を腹部に見舞った様にしか見えなかっただろう。直撃時に衝撃波こそ発生するものの、見た目は非常に地味な一撃だ。だが前回ミノタウロスへこの攻撃を放った際、その解き放たれる圧力の衝撃を確認していた俺は、水自体は消失させつつその衝撃波のみを抽出した攻撃法を確立した。改め、海震王(ポセイドン)


 これをまともに喰らったツンツン頭はまるで水切り石の如く地面を跳ねつつ轟音と共に壁面へと激突した。死んだか?


「ギーファくん!!?」

「嘘だろ!? あの一連の流れからアイツをここまでぶっ飛ばすの!? ヤバイってあの黒い奴!」


 いや、仲間の反応を見るにこれくらいでくたばる奴では無いか。面倒な限りだ、このまま仕留めてしまおう。


「貫け、流水龍(シーザリオ)


 俺は黒刀を突きの型に構えると、そのまま現在地からツンツン頭が激突した壁に向かって超速水砲を放った。先端をアレンジしドラゴンに見立てた水流、水龍の突進、流水龍(シーザリオ)。これが見事にツンツン頭のいるであろう場所へと直撃する。命中直後、先刻のエクスプロージョンとやらに匹敵する程の轟音が壁面を中心に響き渡った。流石に当たっただろうな。


「ギャァァァ容赦ねぇぇぇぇ。マジかよこいつ!」

「アチャー、こりゃギーファくんでもダメかも」

「知るか。貴様らの撒いた種だろうが」

「返す言葉もねぇよぉぉぉ」


 俺は刀を鞘へと収めると、ルクレティアたちの元へとゆっくり歩いた。流石に立つのは無理だろう。


「ぜェェぜェェ、て、てめェこの野郎ォ……」

「しぶとい野郎だ」

「待った待った! 僕らの負け! 悪かったって!」

「あぁ?」


 と、思いきや。無事な姿で生還を果たすツンツン頭。そして「何だ生きていたのか」と言わんばかりに再び刀に手をかけた俺に対して、仲間の一人であろう黄髪の男が仲裁に入ろうとして謝罪していた。許す訳ないのだが?


 俺は、俺を制止する黄髪の目の前で改めて刀を抜いた。


「今再び貫け、三叉流水龍(シーザリオトリス)

「グァァァァ!!?」

「どわぁぁぁなんだこいつ待ったって言ってんじゃん!! なんでさっきよりエグい技使ってんだよ! 鬼かよ! 悪魔なのかよ!」


 再び壁面へと抉り込まれるツンツン頭。先のダメージのせいからか、攻撃を回避しようとはしていたがまるで間に合っておらず、見事に三発とも直撃し、今出てきたばかりの壁面へとリバースされる。


 待ったも何もそちらから仕掛けてきたのだろうよ。奴の初撃は俺が抜かなければ確実に仲間に当たっていた。油断していたこちらサイドにも落ち度はあるだろうが、落とし前は付けさせて貰う。当たり前だろ。


「確実に殺す。今再び集え、二重構造海震王(ポセイドンダブル)

「お願いだから待ってぇぇぇ!! すまんかったって!! そんなの喰らったらギーファが破裂しちまう!!」

「わ、私からも!! 本当にごめんなさい!! だからその怖い塊を引っ込めてよ!!」

「どけ。貴様らに恨みは無いが、向こうのそれは多分に恨んでいる。次でダンジョンの肥やしにしてくれる」

「ご、ご主人様! 私たちはその、無事……なので……」

「……そうか。ルクレティアがそう言うなら退こう。彼女の優しさに感謝するんだな」

「……へ?」


 俺は刀を退げ、掌に集約していた海震王(ポセイドン)の魔力を霧散させた。ルクレティアに止められたのなら仕方あるまい。


「ふぃー助かったー、ってかおっかねぇー。ギーファより怖い奴なんて俺ァ初めて見たよ」

「た、助かったぁ。あ、ありがとうルク……レティアさん」

「え? その、私は何もしておりませんが……」

「いやいや謙遜しないでよ。貴女が言わなきゃアイツ絶対ぶっ放してたって。今頃ギーファはひき肉ミンチだったわ」

「えぇ……」


 落とし所としてはこんな物か。

 やれやれ、とんだ前哨戦だったな。

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