【第四話】捨てられた少女
ラージゴブリンを倒した後に残った魔石は、鑑定すると【魔石E】という判定だった。恐らくコイツらの強さが増すにつれて価値を上げるのだろう。とは言え、今以て使い方は不明なんだが。
さて、そんな中進展した事がある。それは【超集中】を発動させた事で頭がクリアになり、段々と置かれている状況が理解出来てきてしまった事だ。
今考えられる一番最初に判断すべき事、それは【夢か、現実か】のどちらであるかとすべきかと言う問題。
だがこれはもう迷う必要もなく【現実】とすべきだろう。何故なら現実だった場合の方が拙いからだ。夢であったなら死んだとしても目覚めてそれまで。だが夢で無かった場合、死んだらどうなる? 恐らく、取り返しがつかない。この可能性が一番拙い為、これはもう一旦夢では無いと判断しよう。
そうなると俺は恐らく死んだ、という事になるのだろう。あの神を自称する存在の発言を信じるならば、自ずとそうなってしまうから仕方が無い。そして、そこから夢現つの中で交わした会話の数々。それらを思い起こすに、俺はこの世界で生きていく為の【特典】を貰い、こちらの世界で生きて行かなければならないのだろう。
「ギギャッ!?」
「ちょっと静かにしてろ」
時折現れるゴブリンなる存在を見ていて分かる通り、この世界では倒すべき【敵】が明確に存在しており、理由は分からないが命を狙われている。
生きる為に必要な事、それは【食事、寝床】、そしてそれらに必要な物として【金と知識】。
「ハァー。散々勉強したってのに、また一から勉強か」
だが、悲観する事ばかりでもない。何故なら俺には特典が与えられているからだ。神曰くー
『このスキルの並びを他者の完全鑑定で見られるとかなり拙い。ステータス完全隠蔽も付与するぞ』
との事。つまり俺の所持するスキルはかなりレアな物で、それぞれが価値を持ち、異常な数を所持している事になる。これを駆使してこの世界で謳歌しろと、そう言う事なのだろう。
「ステータス完全隠蔽」
【ステータスを隠蔽しますか? YES NO】
「YES」
【隠蔽後をイメージして下さい】
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レベル:5
HP:55
MP:20
筋力:33
敏捷:46
耐久:33
精神:20
魔力:20
装備
【旅人のナイフ】
スキル
【・鑑定・異空間収納】
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こんなものだろう。鑑定が収納がどれ程レアなスキルかは未知数だが、これらを隠して生活するのは面倒が過ぎる。明かしてしまったとて害のあるスキルでもない、大丈夫だろう。ステータスに関してもこれが高いのか低いのかが分からない、故に一旦【∞】とか言う意味不明な数値のみを偽装しておくに留めた。この辺りが今考えられる中のベストか。
と、このタイミングで。少し離れた場所を荷馬車の様な物が駆け抜けて行こうとしていた。三台ほど連なっている。まるで何かに追いかけられているかの様な慌て様。なりふり構わず爆進している様に見えるが、何なのだろうか。
【スキル超集中】、発動。
これならギリギリ見えるな。
やはり荷馬車は三台、馬がそれぞれ二頭、そして積荷は……荷物の様な物が二台と人が詰められている物が一台か。人が詰められている荷台、その中の人たちは一様に手錠をかけられている。ならば運び手はヤバイ連中か、もしくは奴隷を扱う商人といった所だろうか。
会話が聞こえるーー
『だからこんな森、止めましょうって言ったのに』『良いから早く抜けろ、追いつかれるぞ』『一人捨てますか?』『やむを得まい』『では、早速』『来い、お前とはここでサヨナラだ』『痛っ!?』『アレが狙われている今は安全な筈だ』『今の内に逃げるぞ』ーー
何かが荷馬車から落ちたな。
荷物ではない、ならば人か?
人……だな。
犬耳の少女が一人、取り残されている。
どうするつもりかーー
『良い囮になりそうですね』『木偶が最後に役立ちおったわ、ガハハ』ーー
成る程、囮として捨てられたか。
手錠を嵌められている、足枷も付けられている。逃げられない上に戦えない、かーー
『死にたくないよ……』
ーー。
これは……無関係とは言え、戴けないな。
俺は足に力を入れゴブリンの群れへと最速突っ込んだ後に、改めて【超集中】を発動した。