【第四十二話】嘆きのダンジョン
「今日は嘆きのダンジョンを攻略しようと思う」
「遂に攻略に向けて動くのですね!」
「私、頑張る」
「ぼ僕もお手伝いします」
嘆きのダンジョン。そこは魔物の出現数がかなり多いダンジョンで、その上種類が多種多様に渡り、界隈の冒険者達を長きに渡って嘆かせてきたらしい。なんとも嫌らしいダンジョンだ。
そのダンジョンの評価はハイレベル冒険者達からすると、魔物の数は多けれど、その一体一体のレベルの低さからドロップなどに期待できず、にも関わらず気配を消して接近する魔物も混ざっていたりと、ハイリスクローリターン故に【行きたくない】と言う感じだった。故に今日まで放置されてきたのだろう。俺たちにとっては格好の修行の場となっていた。
倒しても倒しても出現する魔物。倒しても倒しても倒したいルクレティア、リーシャン、ローメイ。これはもう利害が一致し過ぎている、行かない理由がなかった。
「攻略すると、あそこは消えてしまうのですよね?」
「そうなるな」
「それはそれで少し寂しいですね」
「練習が、必要」
「僕ももっとたくさんの的が欲しいです」
「落ち着け」
キラーマシーンと化しつつある仲間たちを制し、事の必要性を説明する。
まず誰かがあのダンジョンを攻略せねばならないと言う事。出現してそれなりに日が経っているらしく、これ以上寝かせると魔物が溢れ出て来かねない。特にあそこは溢れ出た時に数が多そうで良くないだろう。
そして、二つ目は正規の手順でダンジョンを攻略しておきたいという事。嘆きのダンジョンはランク【C】だ。だがランク【C】の冒険者達では攻略は難しいだろう。何せ中の敵が多過ぎる。2、3チーム合同ならばと言ったところだが、その場合報酬がしょっぱくなってしまうだろう。ハイランカーにとってもローランカーにとっても半端故に皆が放置する結果となっている。ダンジョン初心者の俺たちにジャストサイズという訳だ。
「だから俺たちがやるんだ」
「勿論、ご主人様の意向に従います」
「私も」
「僕もです」
準備を怠らず、侮る事なくダンジョンに臨もう。極論、怪我をする事すら避けたい。乙女の肌に傷が付くのを見るのは治るとは言え忍びないからな。気張って行こう。
*
【嘆きのダンジョン 8F】
「ここは比較的道が単純だから迷う心配が無くて良いよな」
「ご主人様、意外とそういう所抜けてますよね」
「うっ、誰しも欠点の十個くらいあるだろうよ」
「多くないですか?」
ここまでは軽口を叩きながらでもある程度対応出来ている。問題はここからだな。
「リーシャン、ローメイ、どう思う?」
「いつも通り」
「僕もそう思います。この先にまた塊が」
「よし。今日はダンジョンボスに向けてリーシャンローメイの魔力を温存しておきたい。ルクレティアを先頭に俺が補助に回る。不測の事態には遠距離でローメイから当たり、規模が大きくなりそうならリーシャンがフォローする形で行こう」
「畏まりました」
「了解」
「僕も了解です」
ダンジョン内に於ける不測の事態。これを排除してくれているのが他ならぬ双子の少女達だ。
リーシャンとローメイは魔力を察知する能力を有しており、これによって敵の出現をある程度先読みする事が出来る。場合に寄っては新たな魔力溜まりを感知し、その方角からの急襲を予見してくれたりと、かなり助かっている。俺が持たない種類の【スキルホルダー】だ。実に頼りになるよ。
「行きます」
「オーケー、俺も続こう」
俺の前をルクレティアが先行し、彼女は走り様に両手にそれぞれミスリルマシェットを構える。僅かに発光する彼女のナイフは、そのマイナスをして余りある斬れ味と硬度を誇っており、【神域の天稟】である彼女をして「手に馴染む」と言わしめた。
閃光の如く戦場を駆けるルクレティア、そして彼女は前から俺の方へチラリと振り返り視線を送ると、再び直ぐに前を向き、そのまま速度を上げ始めた。
……何かやる気だな。
「ハァァァァ!!!」
と、勢い良く走るルクレティアが左に逸れて行ったと思いきや、そのまま壁面を駆け上り、閃光の勢いに任せて壁面走行をキメ始める。斜めに駆け上がり、やがて天井という所で強く蹴り、魔物の塊の反対側まで行ってしまう。
ーー要するに挟み撃ちって事か。
敵の数が思っていたよりも多い。これを正面から相手をするだけでは骨が折れると考えたルクレティアが、敵の意識を正面だけに割ける状態から全面へ割かねばならぬ状況へと移行し、一体一体の脅威を低下させる。その上で両面から斬り進めるが故に戦闘時間が大幅に短縮され、後の戦闘に向けた体力の温存も兼ねている様だ。
個々の敵のポテンシャルの低さと、リーシャンローメイによる【他は無い】という情報ベースの作戦。
中々に考えられている、流石だなルクレティア。
「数ばかり多かろうと所詮は烏合の衆」
黒刀を引き抜き様に正面三体を両断し、更に群がる魔物たちへと斬撃を加えていく。基本的には一撃一殺、このダンジョンのこの階層で梃子摺る相手は最早存在しない。
やもすれば対面のルクレティアの姿が視界に見え始めた。やや右に展開していた為、俺はそのまま左へ流れて敵を掃討する。苦戦する所は無さそうだ。
「出番、ない」
「僕らは温存って事、かな」
「ボスに、ブチかます」
「魔力を整えておこーっと」
背後に控えている魔法使い二名がかなり不穏な発言をしているが、彼女らなりに我慢してくれているのだ。ボス戦では活躍して貰わないとな。




