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奴隷少女とダンジョンを突破するのはダメなのだろうか  作者: 生くっぱ
三章 嘆きのダンジョンと双子の過去
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【第三十八話】リーシャンローメイの足跡3/3

 だがしかし、待てど暮らせど【死】も【苦痛】も訪れず、それどころか少女達はただシンプルに助かってしまった。


 そして、何故か身体中に走っていた倦怠感や痛みが激減した。それはミノタウロスが討ち取られた直後からの様に思えるが、何故そうなったのかが理解出来なかった。


 と言うのも、彼女らは戦士らとチームを組んでは居なかったのだ。ただ只管に使役され、その全てが搾取されていただけの時間であり、彼女らに成長は無かったのだ。


 故にレベルの急上昇による恩恵として、まるで体力や魔力が回復したかの様に錯覚するのも仕方ない事だったと言えるだろう。


 あれよあれよという間に寝所へと連れ込まれ、いよいよかと思えば食べ物を与えられた。そしてそれを訝しみながら食べると、何事も無く寝ると言い始めたのだ。


 事、寝所にあって性行為や性的な奉仕を求められなかったのは果たしていつぶりであるだろうか。少女達は二人して顔を見合わせ、何が何やら分からないと言った状況に陥っていた。


 そして事もあろうに、主人が床で眠り始め、先輩奴隷がその添い寝をし、自分達はベッドに取り残されてしまったのだ。


 これはまさか試されているのだろうか?


 そう勘繰りたくなる程の状況だった。幾度となく男と夜を共にしてきた少女達をして、まるで経験の無い稀有な状況に直面した当人らは困惑の極みに達していた。が、幾ら回復したとは言えこれまでの疲労感と、今日までの日々に積み重ねてきた多大なる睡眠不足から、やがて二人は気を失う様にベッドで静かに眠り始めたのだった。


 柔らかく、温かいベッド。空腹感から解き放たれ、満たされた腹と心で姉妹揃っての就寝。二人は深く深く、これまでの不足を取り戻すかの様に眠り続けたのだった。



 *


「ヒッ!!?」

「ッ!!?」


 そして翌日。彼女らが目覚めると、そこには誰も居なかった。部屋の中でポツンと二人、気が付くと二人はベッドの上で涙を流していた。幾度目とも知れぬ困惑ではあったが、今この瞬間に【誰もいない】という事がただ救いであった。


 何度も何度も夢に見てしまう地獄の日々。忘れたいのに忘れさせてくれない苦痛の数々。初めての主人に引き取られ、その穢れを知らぬ花を無惨に引き裂かれたあの日の記憶が今日(こんにち)の少女らを未だに縛り付けていた。


 夢の筈が妙にリアルで、動悸が激しく汗が噴き出し、涙が止まらない。だが幸いな事に今この場所には時間に余裕がある様で、少女らは互いに抱きしめ合いながら自分達の無事を噛み締め合った。


 それから少し経ったタイミングで、二人の主人たる男は宿へと帰還した。


 すわ急転直下、現実である。


 あの魔王の様な存在が、魔力そのものが姿を持って顕現したかの様な男が、この部屋へと帰還したのだ。遂に地獄の蓋が開いた、二人はそう直感した。


 だが双子の直感は呆気なく外れてしまう事となった。


 それどころか服を買い与えられ、武器を持たせてもらい、防具まで揃えて貰ってしまった。こんな事、産まれてきてから考えても初めてかもしれない程の施しである。


 衣服を着飾って居た時の少女らは、困惑こそ勝っていたものの、不思議な安堵と充足感を確かに覚えていた。


 その上で彼女らはダンジョンへと導かれ、そこで魔法を使う様に要求された。試されている。ここで失敗しては死よりも恐ろしい事が待ち受けているに違いない。そう考えて、リーシャンは持ち得る限りの全力を以ってウインドバットを攻撃した。


 するとどうだろう、信じられない程強力な魔力で信じられない威力の斬撃がウインドバットを両断し、それを貫通した斬撃は勢いをそのままに壁面を抉り取った。正に、会心の一撃となったのだ。


 誰よりも、リーシャン自身何が起こったのか全く理解出来なかった。だが、ほんの一瞬遅れて理解する。これが魔王の権能であるのだと。そして彼女の予想は的中する。


 魔王たる主人自らの口に寄って、力が譲渡された事が明言されたのだ。その上で、彼は少女達の前に立ち、外れる筈のない首輪を、鍵も何も使わずに外して見せたのだ。神の御業を目撃してしまったかの様な衝撃が少女達の心を貫いた。


 そして、彼は更にリーシャンに誓いを立て始めた。


 虐げず、


 暴力を振るわず、


 命の危険にも晒さず、


 仮に命の危機とも呼べる場面が訪れたら、必ず護ると。そんな事を言い始めたのだ。


 その上で、男は言った。

 俺を護ってくれ、と。

 よろしく頼むとも頼まれてしまった。


 それは、妹であるローメイも同じ事が言えるのだと。


 彼女らは生まれ変わったのだと。


 そう告げられたのだ。


 その瞬間、双子の少女は理解してしまった。


 彼は魔王などではない、神にも等しい尊い存在なのだと。


 世の最底辺の底を更に突き破り、限界突破した様な悪夢の中に居た自分達は、神の庇護下に入り救われたのだと。もう、怯える日々とは切り離されたのだと。


 信じなければ死ぬ、或いは殺される。その思いが反転し、この人は信じられるのだと盲信してしまっていた。その思いの中には男の持つスキル【艶福家】の効能も含まれていたが、少女達にとってそれは瑣末な効果だったと言えるだろう。


 命を保証し、安全を与えられ、


 食べ物と、温かい寝所を与えられ、


 服と、装備を与えられ、


 生きる【力】を与えられた。


 果たして彼女らは男に何が返せると言うのだろうか。彼女らが持つ物は僅かにペンダントと彼女ら自身の身体のみ。そして、ペンダントは男によって返還された。今更献上した所で返されるのがオチだろう。


 ならば、少女たちに残された選択肢は一つしかなかった。


 尽くすのだ、誠心誠意尽くすのだ。

 そして報いるのだ。


 少女達は男に与えられた数々の価値ある物に対して、同等とは言えないまでも、可能な限りを返していこうと心に決めたのだ。決意をここに固めたと言い換えても良いだろう。


 大丈夫な筈だ。何故なら少なからず少女らの身体は、無数の男達の欲望の対象となり、数え切れぬ程の行為を求められ続けてきた。そこに必ず、価値は在る筈なのだ。


 いや、そうでなければならない。


 そうでなければ、

 彼女らは最早自身を保つ術を、失いかねないのだから。

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