【第三十四話】希薄な存在証明
ダンジョン内でリーシャンとローメイの実力や戦闘への姿勢を確認しつつ、必要な合成素材を集めるというミッションは、概ね目標の1/4くらいは達成出来たかという雰囲気に落ち着いた。
リーシャンは比較的積極的に戦えており、前衛を任せる事すら可能かもしれないという状態であるのに比べ、ローメイは直接的な戦闘にやや消極的な姿勢を示していた。
この二人を常にペアで動かさなければならないという縛りがある訳でもない。リーシャンに前衛寄りの役割を、ローメイに後衛寄りの役割を頼む流れで構わないだろう。
一方で、今回の目的には無かったルクレティアの能力に関して。彼女はどうやら持て余す程に身体が動いてしまうらしく、最初こそ四苦八苦していたものの、慣れて来たからの動きは圧巻の一言に尽きた。
俺もある程度敏捷性を高めているからルクレティアの動きを追う事は出来るが、剣のみの戦いで本気で打ち合ったなら、今の時点で既に打ち負けるであろう事は見て取れた。超集中を使って何とか、と言った所だろう。
これならダンジョンの深い所や難易度が高めのダンジョンであっても、ある程度の安全を確保した状態での攻略が可能となってくる。特に今はリーシャンとローメイも居る。
もう少し彼女らの装備を整えつつ、パーティとしての在り方も整えていこう。勇み足で踏み外すのは御免だ。
「ご、ご主人様」
「ローメイか、どうした?」
「あの、ぼ、僕の魔法も、なんか、凄くなってました」
「それは良かった」
「あの、頑張ります、ね」
「ゆっくりで構わない、一緒に頑張ろうな」
「……! ありがとう、ございます」
少しずつだが、距離を縮められている感じもする。今は食う物にも寝る場所にも困っては居ない。焦る必要も無いだろう。
*
「今日の分の買取は終わった。今日は買った物を持ち帰るつもりなのだが、それで大丈夫か?」
「勿論です、何を買いに行きますか?」
「パンで良いんじゃ無いか? あと肉が少しあればな」
「ではそれらを買ってから宿に戻りましょう」
「そうしよう」
リーシャンとローメイ、この二人は今日の武具購入時に衣服の調達も済ませてあり、かつての姿とはかなり違って見える仕上がりとなっている。
だが申し訳ないのが髪の毛だ。毛先がバラバラで長い所と短い所が極端に違っている。それくらいなら今からでも何とかなるだろうか。
「ルクレティア、髪の毛を切ったりする店は分かるか?」
「分かりませんが、私が多少心得があるくらいですかね」
「……成る程、だからルクレティアは髪が綺麗に整っているのだな」
「ほぇ!? いやしょの、えぇと……」
ルクレティアが切れるのならかなり助かるな。なら床屋を探すのではなくハサミの様な道具を探してみるか。これまで使っていた物は捨てられたか置いて来たかしているだろうから、新しい物で揃えよう。
「ハサミや櫛といった物は何処かで買えるのか?」
「ざ、雑貨屋が近くにありますので、寄って行きましょう。私も凄く助かります」
「悪い、気が付かなかったよ」
「そんな悪いだなんて。お気になさらないで下さい。妹達の髪を切るのは私の役目だったので、やがて自分の髪も自分で切る様になったという感じですね」
「姉ならでは、だな」
パンや肉といった夕食に必要な物と、ハサミや櫛といった散髪に必要な物を買い、俺たちは宿へと帰還した。
持ち物や装備は俺が異空間に片付けられるから良いとしても、この部屋が手狭なのには変わりない。部屋を変えるのを忘れていた為、恐らく今日も床で眠る事になるだろう。
「さて、まず髪を切ってしまおう。俺は席を外しているから、一時間程で頼みたい。いけるか?」
「変に拘らなければ一人二十分もあれば十分です」
「なら少し早い目に戻るとするか。そしたらまた後で」
「分かりました、お任せ下さい」
そして俺は一時的に宿を離れた。
*
「マジか、ここまで綺麗にしてくれるとは」
「二人共、元が良いですからね。私は少し切り揃えさせて頂いたに過ぎません」
「あぅ……は、恥ずか、しい……」
「うぅ……なんだか僕も落ち着きません」
「二人共可愛いぞ。元々素敵だとは思っていたが、一層良くなった。互いを見ればその仕上がりは分かり易いよな」
「はぅ……」
「うぅ……」
綺麗に切り揃えられたリーシャンとローメイは、元の造形の美しさも相まって、それは美しい少女達へと変貌を遂げていた。その慎ましやかな姿勢もあり、異世界に於ける美形のレベルの高さを感じさせた。
ルクレティアも負けず劣らずと可愛らしい。とても素晴らしい事なのだが、こうなってくると少し落ち着かない気分にもなってきてしまう。密室で美少女に囲まれるというのも中々困った状況だ。
「さ、一先ず飯にしよう」
「お腹ペコペコです!」
「ほら、二人も食べろよ」
「……!」
「……!」
「気にするな。ルクレティアを見れば分かると思うが、すぐに慣れるさ。普通に食べてくれ」
「……分かった、ます」
「……いただきます」
二人と飯を共にするのはこれで三度目だろうか。奴隷としての時間を長く過ごしたであろう彼女らには、少し慣れない事かもしれないが、こちらの方が普通なんだ。慣れて貰うしかないだろう。
食事を終え、ルクレティアがその場を片付けてくれた為、俺は宿主から水を貰い、身体を清める準備を整えた。
「さ、これを使って綺麗にしてくれ。今日も大変だったからな」
「分かりました、失礼します」
「失礼、します」
「あの……僕も失礼します」
三者三様にタオルを使って身体を拭き始め、なんならルクレティアは遠慮なく服を脱ぎながら身体を拭いている為目のやり場に困ってしまうが、俺は俺で反対を見ながら身体を拭いていく。
さて、こんな物か。
「よし、今日も俺が床で……ん?」
「あ、あの!」
「ぼ、僕たち、その……」
「……何のつもりだ?」
床で寝ようと布団に手を伸ばした俺に、リーシャンのローメイが絡み付いてきた。ルクレティアではなくこの二人が?
「ご、ご主人様、お願い。お役に、立たせて。私、その、なんの、役にも……」
「僕も、その……だって、こんな事しか……」
リーシャンとローメイが居るから、今日も大人しく寝よう。そうルクレティアを説得するつもりだったのだが、何故にこの二人が?
「ちょ、待て、待て待て待て。一度落ち着いて……わっ!」
強引に引っ張られ、ベッドへと寝かされてしまう。拙い、この流れは非常に拙い。
「ルクレティア、二人が……え?」
「ご主人様……お慕い申し上げます……」
「んんっ!?」
ここで、ルクレティアが俺の唇を奪いに来てしまう。そりゃそうだ、こいつを抑えなければという奴に助けを求めてどうする。
強引に奪われた俺の唇はルクレティアの柔らかい唇に塞がれ、やがて彼女の舌の動きを口内に感じ始める。ダメだコイツ、既にスイッチが入ってやがる。
「むはっ! る、ルクレティア、一度落ち着いて……」
「私は極めて冷静です。ご主人様、大好きです」
「まっ!? んむっ!?」
ダメだこいつ早く何とかしなければ!
唇を奪取されっぱなしで呼吸もままならない。
それに何だか頭が回らなくなって来た。
「ちょ、リーシャン!?」
「私も……」
「ローメイ!!」
「あの、僕、何だか中が凄いらしいので、その……」
「何言ってんだお前ら!! 正気か!?」
まずは一旦立ち上がって、それから……?
「ご主人様」
と、ここでルクレティアが俺の顔の真正面で。
真面目な顔をしてこちらを見ている。
……なんだよ。
「失礼ながら申し上げます。このままではリーシャンもローメイもあまりにも可哀想です」
「……は?」
「彼女らはご主人様との関係に戸惑いつつも、その変化に感謝の意を示しております」
「ま、まぁ、そんな気はしている」
「その彼女らが出来る数少ない奉仕の機会を奪っては、彼女らの存在意義が希薄になり過ぎてしまいます」
「……そう、なのか?」
いやいや、ほらダンジョンとかさ、あるだろ?
それで……ダメか?
「ご主人様……」
「役に立てなくて、ごめんなさい……」
「リーシャン……、ローメイ……」
ダメ、なのか。
「なのでご主人様」
「……なんだ?」
「ご奉仕の許可を頂けませんか?」
これは余りにも狡過ぎるだろ。
ここで断ってはこの二人が……。
「ご主人様……私……」
「あの、僕、なんでもやります。だから使って……」
……あぁもう。
分かったよ、分かったよ!
「ローメイ」
「はい」
「【使って】だなんて二度と言うな。ただ今から少し、夜の仕事を頼まれてくれるか?」
「は、はい! 僕がんばります!」
「リーシャンも、良いか?」
「もちろん、です。 わ、私もその、頑張る」
……はぁ、結局こうなるのか。
「ご主人様、それではよろしいでしょうか?」
「……そうだな、ルクレティア。俺もお前が好きだぞ」
「ご主人様ァァァァァァァァァァァァ!!!!」
終わったな。




