【第三十話】躍進、ギルドランク
道無きダンジョン攻略から一夜開けて。
「すーすー」
「スースー」
「……寝かせておいてやるか」
「そうですね。可能であればなるべく早目に戻りましょう」
「だな」
俺たちはダンジョン攻略によって発生した残務の処理に向かっていた。ベッドの上で死んだ様に深く眠る双子の少女、リーシャンとローメイ。疲労困憊が祟ったのか、起きる気配は一向に見られ無い。とは言え今は急場では無い。今後彼女らに頼る場面はあるだろうが、今くらいは休ませてやろう。
「不思議ですね、なんだか以前と違う街の様に感じます。ほんの一晩、窮地に陥っていただけだというのに」
「分かるよ、俺も丁度そんな心情だ」
宿を出て街全体を見渡したルクレティアは、改めて神妙に感想を述べていた。だが彼女の発言と違い、俺にはその現象を起こした原因について明確に思い至る点があった。それは言うまでもない、レベルアップだ。
戦闘開始前の時点でまだLv13だった俺たちは、ほんの一晩経たのみの経験でLv25に達してしまっている。レベルが倍違えば見える世界も変わろうものだが、俺とルクレティアにはスキルの存在も影響している。【天賦の才】と【神域の天稟】。これらの存在によって、恐らく俺はLv50近くの印象に、ルクレティアに至ってはLv100へ到達した時の様な感覚が一晩で訪れてしまったのだ。そりゃ困惑も然もありなんといった話。
せめてもの救いは、ルクレティア自身に【武の才覚】が備わっていなかった事。スキルを含めた数値だけを評価するなら、彼女のステータスは俺より僅かに高いくらいに留まっている。恐らくレベルアップ時の伸び率に差があるのだろう。
とは言え、ルクレティアは既に神域に小指を掛けたと言っても過言ではない領域に居る。それにこれからも順調に俺を突き放して行く事だろう。味方ながら、末恐ろしいよ全く。
ーと、そんな事を考えていると冒険者ギルドへと辿り着いてしまった。報告すべきを報告して、寝起きの少女二人が困惑する前に手早く帰ろう。
「すまないが手続きを頼みたい」
「依頼の達成ですか?」
「いや、ダンジョンの踏破なんだが」
「……え?」
「すまない、これがその証となるだろう」
「……えぇ!?」
受け付けの女性はどうも状況が飲み込めないらしく、唖然としたままコアをジロジロと眺めている。断じて偽物などではないぞ。
「こ、これはどちらのダンジョンの……」
「ん? 道が無いと言われていたダンジョンだが?」
「え!? これが!?」
「ん?」
これが? と言うのはどういう意味合いでだ?
「しょ、少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わないが」
「ではあちらにお掛けになってお待ち下さい」
俺とルクレティアは顔を見合わせ、肩をすくめながら椅子へと着席した。何を待たされているんだ?
*
「恐らく我々が踏破出来るわけがないと思われているのでしょうね。ご主人様に対して失礼です」
「馬鹿言え、正当な評価だよ。俺たち何日前にこのギルドに【G】で登録されたと思っているんだ?」
「概ね十日前ですね」
「分かってて言ってんじゃねーよ」
そんなたわいもないやり取りをしていると受け付けの横から先程の女性が現れ、目の前までやって来た。しかしどうも見るからに険しい表情をしている。何だ何だ、物々しい雰囲気だな。
「申し訳ありません、私では対応しきれない件でした。こちらの通路をまっすぐ行った先に担当の者が待機しておりますので、そちらでお願い致します」
「ありがとう。こちらこそイレギュラーで申し訳ない」
「そんな滅相もない。お心遣いに感謝します」
どうやら、何か良く無い事があった様だな。因みにルクレティアは俺の隣で今にも『ふふん!』などと言い出しそうな程に鼻が高そうな雰囲気を醸し出している。へし折りたいが、今は止めておこう。
「こちらの部屋へどうぞ」
「……個室対応か。仰々しいな」
「申し訳ございませんが、状況が状況ですので。中で支部長がお待ちです」
「分かった、ありがとう」
支部長?
いよいよ以って不安だ。雲行きが怪しいにも程がある。
と言うか扉を開ける前から圧が凄い。この部屋の中、明らかに何かヤバイ奴が居るだろ。とは言え気付いていないかの如く軽快に扉を開け、指示された部屋へと入室する。扉を開けた直後の第一印象は【怖いグラサンが座っている】だった。
「君かね、このコアを持って来たと言うのは」
「そうですが」
「まぁ掛けたまえ、聞きたい事が幾つかあるからね」
さてさて、どう考えても過去一強いのが来たな。
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【ベルモンド・バスカビート】-ギフターLv3-
冒険者ギルド【ラプリンセ支部長】
レベル : 78
HP:1060
MP:755
筋力:1065
敏捷:780
耐久:1059
精神:759
魔力:743
装備
【紅炎の手甲】
属性魔法
【火魔法 : A】
スキル
【・炎の申し子(火属性への攻守耐性強化)
・炎獄(HPMPを1/秒で消費する事で筋力敏捷耐久を一時的に倍化する】
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ツーブロックの髪型に剃り込みをキメたグラサンオヤジ。その上で筋骨隆々で装備が【殴る系】ときた。シンプルに怖いな。殴られたら普通に地平線まで吹っ飛びそうだ。本気を出せば筋力2000? こんなのもうアフリカ象でキャッチボールするレベルだろ。アフリカ象が可哀想だ、謝罪を要求する。と、冗談はさて置き。
「こいつも座って良いか?」
「構わない、好きにさせるが良い」
「座れ、ルクレティア」
「え? しかしご主人様……」
「同席してくれ、一人じゃ不安で泣きそうだ」
「……分かりました」
「はは、正直でよろしい。君はその奴隷の少女と共にダンジョンを攻略したのかね?」
「そうだが?」
「成る程。変わり種の様だ」
何だこの質問は。奴隷とのダンジョン攻略は一般的ではないのだろうか。俺以外にも居たには居たんだがな、三馬鹿とか。この際だ、一応聞いてみるか。
「普通はどうなるんだ?」
「奴隷身分である者をダンジョンに持ち込むのは低難易度のダンジョンで修行する者達にありがちだ。理由はレベルへの糧とする為」
「……使い捨てという訳か」
胸糞悪い話だ。理由は……薄々想像が付く。
「左様。チームを組んでしまえば彼らにまで経験値が分散されてしまう。逆に高レベルの奴隷とチームを組んでは経験値はほぼ全て吸われてしまう事に。故に奴隷とは基本的にチームを形成しない」
「奴隷を使い潰してる連中を見かけるのは最初だけで、そこから先のダンジョンに奴隷は殆ど居ない、という訳か」
「その通り。どうも君は違う様だがね。共に攻略したのだろう? 佇まいがただの奴隷の域を超えている」
俺の隣のルクレティアに向けて顎をしゃくるベルモンド支部長。御名答、俺は奴隷を使い潰すなんて御免だ。
「そうだ。このダンジョンの突破はコイツ無しでは為し得なかった」
「素晴らしい。確かにマイノリティではあるだろう。だが俺は君の行動を尊重する、それもまた個々の選択だ」
言葉の上では何とでも言えるだろうが、俺としては奴隷を同席させてくれるこの人の精神性に感謝したい。この支部長となら今後もまともに話が出来そうだ。
「では本題に入ろう。まず、最初に謝罪させて欲しい。あのダンジョンを【D相当】と判断したのは俺だ。迷惑を掛けたな。お前たちが無事で本当に良かった」
「……やはり、あそこは何かおかしかったのか?」
「稀に出現するトラップダンジョン、その中でもかなり危険な部類に入るタイプだった様だ」
「納得だ。そういう区分になるのだな」
「少なからず、トラップ系ではあると思われていたが、内容から考えるに悪くても【E】程度だと考えていた。それをトラップ系である事を考慮して【D】と判断したのだが、それでも尚甘かった様だ」
トラップダンジョンか。聞いてしまえばその名の通りといった印象だ。その中でもマシな方だと思われていたが、蓋を開けてみれば違ったと。やはり、コアで判断したのだろうな。
「コアか?」
「その通りだ。コアが示すダンジョンのポテンシャルは【B】ランク相当。これをC以下の少人数パーティで攻略するのは本来不可能だと言える」
「成る程、分かりやすいな」
コアを見れば分かる、か。だから受け付けであんな反応をされたのだな、納得。言われてみればいつかのゾフィーやスティーブンがあのミノタウロスに勝てるイメージが持てない。ランクCですら厳しいダンジョンか。そりゃキツい訳だ。
「で、聞きたい事ってのは?」
「ダンジョンボスの情報、そして知り得る限りの犠牲者の情報だ」
成る程、だから呼び出されたって訳か。隠す事もないだろう、既にコアは見せてしまっているしな。
「ボスはミノタウロスの【ブラッディ種】だった」
「……君が撃破したのかね?」
「皆の協力の元ではあるがな」
「成る程、ブラッディミノタウロスの出現とあっては確実にBランク相当のダンジョンだ」
「犠牲者は戦士三人組のパーティだ。ミノタウロスにズタズタにされていた」
「……、まぁ無理だろうな。彼らの能力では」
「分かるのか?」
「ウチの登録者だ、把握はしている。その死を証明する物はあるか?」
……僅かに思案し、判断する。
隠す方が面倒そうだ、普通に収納から取り出そう。
と言うか、サラッと存在しているが【ブラッディ種】というのは強化種の総称で良いのだろうか。赤黒い血管の様な物が浮き出て目の光る下半身を隆起させた、同一種に比べて遥かに強化された個体、か。いや恐らく下半身は関係ないか。
「これだ」
「……収納系のスキルか」
「如何にも。で、これが奴らの防具の成れの果てだ」
「何故これを?」
「売却目的だが?」
「ならば君が【それを目的として彼らを殺した】という可能性を指摘される事は、考えなかったのかね?」
やれやれ、面倒なやり取りだ。
カマかけだと分かっていてもやり辛い。
「この断面を見て分からないボンクラなら、俺が支部長変わってやるよ」
「……成る程、中々肝も据わっている様だ」
煩えよ、俺がやっただなんて微塵も思ってないくせに。
「どうやら彼らにも申し訳ない事をしてしまった様だ。奴らは貴族のボンクラに繋がりを持ち、こちらとしても持て余してはいたが、こうなっては謝罪の仕様も無い。せめて冥福を祈り勇敢であったと吹聴しておこう」
言ってる事が中々に滅茶苦茶だなこのおっさん。
俺としてはどうでも良い事ではあるが。
「さて、手短だが今日のこちらから聞きたい要件はこれで終わりだ。協力に感謝する」
……何故わざわざ含みのある言い方を?
まるで突いて来いと言わんばかりの。
「違う要件がまだ残っている言いぶりだな」
「ご名答。ならこちらも手短に済まさせて貰おう。君を冒険者ギルドとして【B】ランクと認定する、その通達だ。まぁ君の存命に比べれば小事だよ」
……は?




