【第二十七話】水魔法、その真骨頂
魔力を感じろ、そしてその全ては水であると強く意識するんだ。この強敵を目の前に、魔力から水を都度抽出している暇なんざ無い。元々水として出現させ、体外に待機させる。
自身の身体を中心として魔力を拡げる、そしてそれらは薄っすらと青味を帯びており、出現から水として扱うというスタートをクリア出来ている事を確認する。
「スキル【超集中】、発動」
「ブモォォォォォォォォォ!!!」
水を可能な限り圧縮し、流れを生み出す部分と通過する事を許さぬ部分の二層構造の水を自身の左上から右下へと斜めに指で線を描く様に出現させる。するとー
「ブモ!?」
何故かミノタウロスの攻撃は水を貫通できず、俺が指でなぞったのと同じ線を辿り、斜めに滑った様な状態に。だがミノタウロスは負けじと返す刀で俺を追撃、しかしこれも水によって僅かに軌道を変えられ、簡単に回避されてしまう。
遮る物はたかが水、だがその水を刀で抜けない。その苛立ちから単調な攻撃を繰り返すミノタウロスは、いつの間にかフロア全域に渡って水が浸透している事に気が付かずにいた。
狙い通りだ。
「さぁ、今度はお前が踊る番だぞ?」
「ブモォォォォォォォォォ!?!!?」
前後左右、四方八方から飛び出す氷柱がミノタウロスの身体を狙い、突き刺さらんとする勢いで襲い掛かる。その氷柱の一つ一つが銛の様に刃先を鋭くしており、回避し切れないミノタウロスの身体を少しずつ削る。その一つ一つは大ダメージとはいかないが、発生の速さやほぼ全方位からの波状攻撃という事もあり、回避行動が間に合わない。精神が然程高くなかったミノタウロスは、間も無くストレス的な限界を迎える。
「ブロロロ、ブモォォォォォォォォォ!!!」
「使ったな?」
と、ここで予想通り、小さく跳ねたミノタウロスを中心とした大爆発が巻き起こった。どう見ても先程の比ではない攻撃範囲、まともに喰らったらヤバかっただろうな。
恐らく、これはスマッシュクラッシャーとやらだろう。俺に対してでは無く、氷の攻撃から逃れる為に大技を行使するミノタウロス。これでもう魔力残量はほぼカラ。ハウリングもクラッシャーも魔力を伴うスキルだと確認している。この先特技の発動は無い、故に次に同じ様な攻撃が来た場合、最早防ぐ術はないと言えるだろう。足元は確かに崩した、水も吹き飛ばした。
だが、水の膜は何も足下にのみ張っていた訳ではない。
「ブモォォォ!?!?」
空中に薄いドーム型の様な水の膜がいつの間にか形成されており、それらは先程足元に張っていた水と同じ役割を果たす訳だ。つまりー
再び四方八方からの氷柱攻撃がミノタウロスを強襲する。既にコイツはスキルを使い果たした。打破する術は無い。
それに、こう言う使い方もある。
「ブモ!?」
頭上からいくつもの氷の棒がミノタウロスの僅か数十センチという所を目掛けて飛び出し、あっという間に氷の棒に周囲を囲まれて捕まるミノタウロス。そしてその頭上から。
「ブギィィィィィィ!!?」
密度の高い、氷塊を出現させ、真上から落下させる。直撃したミノタウロスは牛とも豚とも言えない悲鳴を上げているが……
「ブモォォォォォォォォォ!!!!」
その氷を砕き、全てを蹴散らして氷の中から出現するミノタウロス。気丈には振る舞っているが、奴の体力は着実に減っている。そろそろか。
「ブロロロォォォォォォ!!!」
俺に向かって最後の爆進を見せるミノタウロス。
「だが、それは悪手だ」
「ブモッ!?」
地面から氷壁が出現し、その厚みを突破できないと判断したミノタウロスが急ブレーキをかけて踏み留まる。
おっと、足元がお留守だぜ?
「凍結!」
「ブモォォォォォォォォォ!!!」
両足を氷によって地面と結合する。だがこれはほんの一秒程度の足止めにしかならないだろう。一秒、な。
「海震王」
「ブロッ!?」
その僅か一秒、正面の氷を砕き、氷の欠片の中から出現する事でミノタウロスの意表を突いた俺は、コイツの口内へ小さな水球を一つ直接送り込んだ。
そしてー
「強かったよ、お前。解放」
「ブギャァァァァァァアアアアアアアア!!!!」
とんでもない断末魔を叫びながら、身体中のありとあらゆる場所から水分を噴き出しながら、身の内側から目玉や内蔵といった全てを穴という穴から噴出し、
やがて原形を失ったミノタウロスは、その場で塵と化した。
今回やった海震王は簡単に言えば【極限まで圧縮された水を体内で解放した】ってだけの技だ。とは言えちょっとエグすぎたか?
流石にまだ加減が分からんな。
何にせよ、何とかなって本当に良かった。というか、魔力主体に切り替えた途端に急に楽になったな。難しいものだ。
*
「ご主人様ァァァァァァうわーん怖かったよぉぉぉぉ」
「悪いな。かなり無理させた」
「私じゃなくて、ご主人様が居なくなるかと……ぐすん」
「ま、危ない橋ではあったな。無事で良かった」
「はい、己の無力を痛感しました。今後より精進致します。だから今日だけはうぇぇぇんご主人しゃまぁぁぁぁ」
「あーわかったわかった。よしよし、良くやった」
戦闘後、泣きじゃくるルクレティアを先ずは労い、そして落ち着かせた後に双子の少女達の下へと足を進める。
「急に滅茶苦茶な状況になって申し訳ない。俺の名前はタスク。お前達の主人になった男だ」
「あ、あの……」
「えっと……」
「身体は恐らく大丈夫な筈だ。ミノタウロスとの戦闘前にパーティへと組み込んでおいた。ステータスの上昇である程度回復している筈だ」
「「え!?」」
「ん?」
そりゃ奴隷紋を定着させると同時にパーティも作り直したからな。レベル38のミノタウロスを倒したんだ、全員それなりにレベルが上がっているだろうよ。
「ぼ、僕らをパーティに入れてくれたんですか?」
「当たり前だ。これから共に生きる仲間なのだからな」
「な、仲間……」
「あの、僕たち、奴隷……」
「まぁ奴隷は奴隷だろうよ。済まないがそこはどうにも出来ない。代わりに俺の奴隷である恩恵は用意する。共に俺を支えてくれると有難い」
「……え?」
「……え?」
「ん?」
どうも噛み合っていない気がするな。
とは言え、今は小事か。
「さて、ミノタウロスのドロップは何かな」
「あ! 確かに気になります!」
俺とルクレティアはミノタウロスが消滅したであろう場所へと近付き、辺りを探索する。
……ん?
「魔石と玉と……剣?」
「剣ですね。これあいつが振り回してたヤツですよ」
「ミノタウロスの剣?」
そんなの聞いた事がないぞ。この調子だとゴブリンファイターの棍棒とかも有りそうだ。
まぁ、一応鑑定してみるか。
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・鑑定の結果
無名の黒刀 攻撃力52
能力スロット
【硬 成 鬼 獣 植 癒 ◯ ◯ ◯ ◯】
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ん?
何だ、この剣。




