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奴隷少女とダンジョンを突破するのはダメなのだろうか  作者: 生くっぱ
二章 道無きダンジョンと双子の奴隷
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【第二十六話】覚悟

 不幸中の幸いだったのは、コイツが【男は絶対殺すマン】であると言う点。それが無ければ双子の少女は確実に死んでいただろう。それにルクレティアも。


「ご主人様、遅くなりました」

「いや、問題ない。ルクレティアはあの攻撃、見えたか?」

「辛うじて、ですが」

「見えてんのかよ、嘘だろ」


 俺のスキル【超集中】は発動していると会話もままならなくなってしまう。それ故に今は解除している状態だが、俺は超集中なしではミノタウロスとまともに打ち合う事は叶わないだろう。あの三馬鹿の様に一呼吸の内に両断されて終わりだ。何せ攻撃が見えていないからな。


 だがルクレティアは辛うじて見えると言う。

 さて、どう生き残ったものか。


「双子は?」

「私達がやられたら、自死する様にと伝えてあります」

「……助かるよ」


 そりゃそうか。あのミノタウロスの下半身を見ろよ、ずっと天を仰いでやがる。あんな物を体内に突っ込まれては、人として生きる苦痛の中でもトップクラスの苦痛地獄と化すだろう。ならばその前に自ら、という訳か。理には適っているが、なんともやるせない。


 つまり、俺が負ければ全員死ぬ。

 そういう事だ。


「来るぞ!」


【超集中】発動。


 正面から猛進した筈のミノタウロスは途中で地面を蹴りサイドステップを重ねながらカミナリの如くこちらへ接近している。振り上げられた剣を確認し、合わせつつ受け流す。返す刀で一撃見舞おうとするも、届いたのは薄皮一枚。ギリギリ躱されている、かと思われた瞬間。


「ハァァァァ!!!」

「ブモォォ!?」


 死角に回り込んでいたルクレティアがすかさず二本のナイフで二発叩き込むと、そのまま蹴り飛ばした。こちらへ飛ばされたミノタウロスの下腹部へ俺も一撃見舞う事に成功する。


「良く回り込んだな」

「むしろあの攻撃を受け流すご主人様の正気を疑います」


 ルクレティアから見ればそう見えるのかもしれない。だが逆に俺にはそれしか出来ない状況でもあると言えてしまう。受けるには重過ぎ、避けるには不安が残る。苦肉の策だ、褒められるべき事ではない。


「私は、狙われておりませんので」

「……成る程な」


 お互い様という訳か。ルクレティアはルクレティアで自身の能力だけで事を為している訳ではなく、狙われていない事を前提にしながら立ち回っていると。ほんと、ギリギリ過ぎて笑えてくるぜ。


「次だ」

「はい!」


 ミノタウロスから繰り出される剣線は鋭いなんてレベルを遥かに凌駕しており、超集中状態にあってなお半ば勘の様な状態での回避を強いられる。かと言ってひとつでも貰えば致命傷。クソゲーここに極まれりってか。


「凌いだ! 今だ!」

「お任せ下さい!」


 俺がミノタウロスの猛攻を耐え凌ぎ、ルクレティアがダメージを蓄積する。不恰好だが僅かにダメージは溜められている。このままいけば……クッ!?


「こいつ、まだ速く……チッ!? グファァ!?」


 一発、二発、三発と回避した所で次当たりを受け流そうかと先を読みながら剣を構え様とした瞬間、ミノタウロスがこれまでのモーションをかなぐり捨てて、突然左フックが俺の腹部へと強襲する。当然回避する事叶わず、直撃。


 その勢いは収まる所を見せず、ついにそのまま壁面へと激突する。


「ご主人様!?」

「ガハッ、……無事だ」

「ですが口から血が!!」

「もう魔法で回復している、案ずるな」

「……分かりました」


 全回復とまではいかないが、ルクレティアに教わった白魔法で自身の身体を激突する直前から回復し始めておいた。気絶必死のダメージだっただろうが、何とか吐血で済んだというなら御の字だろう。


「……さて、どうしたものか」

「ですね、なかなか見えません」


 ミノタウロスの残存HPは【353/987】、着実に進めてはいるが、こちらの削れ方を考えるに、恐らく先に体力を失うのはこちらだろう。HPの数値以上に体力が保たない可能性が高い。超集中による頭の違和感もかなり大きくなってきた。三半規管が麻痺してきたのか、先程から口から飛び出しそうになる吐瀉物を幾度となく胃へと返還している。次に殴られたら確実に吐くだろうな。


 ……なんだ、ミノタウロスの雰囲気がおかしい。

 何が違う?

 何か違和感があるぞ。

 プレッシャーが……減った?

 チッ、そう言う事か!


「ルクレティア! 狙われてるぞ!!」

「クッ!」

「ブモォォォォォォォォォ!!!」


 俺だけがフォーカスされていたさっきまでの重圧が和らいだ事が違和感となり、狙われる直前にルクレティアへ激を飛ばす事に成功する。


「クソッ、厄介な!」


 超集中状態でルクレティアとミノタウロスの戦いに参入するも、ミノタウロスがダメージ覚悟で俺を無視している事に気が付いてしまう。ダメだこの勢い、フォローし切れない!


「ブロォォォォォォ!!」

「グゥッ!?」

「ルクレティア!!」


 裏拳の様な一撃を真横から貰ったルクレティアが、まるで水切り石の様に地面を跳ねながら吹き飛ばされ、やがて失速する。


 今ルクレティアを助けようと彼女に寄れば、ミノタウロスの攻撃に巻き込まれてしまう。なんならトドメを刺しに行きかねない。ならば、俺はこっちでコイツを引き付ける他ない。超集中を継続発動しつつミノタウロスと斬り結ぶ。

 頼む、死んでいるなよルクレティア……!


 一進一退、互いにダメージを負わないやり取りを終え、俺とミノタウロスは互い一旦距離を取った。ルクレティアの方へと視線をやると、双子の少女たちが彼女へ魔法を施している様子が伺えた。


 あいつら……。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」


 再び、こちらを格殺せんとする意気込みの様な雄叫びを上げるミノタウロス。


 HPは依然として300以上残しており、ここから一人で削りきる未来が中々に描けない。


 だが、俺が負ければルクレティアは死ぬ。

 俺を選んでくれたルクレティアが、だ。

 そして、俺が引き受けた二人の少女もまた死ぬ。


 全ては俺の双肩にかかっている。


 闇雲に剣を振るだけではダメだ。


 考えろ、今俺がコイツに描ける勝ち筋を。


 敵はHPも筋力も敏捷も耐久も上。


 ならば俺が優っている点はなんだ。


 ……魔力だ。

 俺には無限の魔力がある。

 扱えないなんざ言ってられるか。


 今ここで、限界を超えるしかない。


「ご、ご主人様……に、逃げ……て……」


 逃げるかよ、ルクレティアを置いてなんて。


 だが一つ、覚悟は必要だ。


「ブモ?」

「心配するな、退屈はさせないさ」


 俺は右手に握っていた剣を、その場に捨て去った。

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