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奴隷少女とダンジョンを突破するのはダメなのだろうか  作者: 生くっぱ
二章 道無きダンジョンと双子の奴隷
23/74

【第二十五話】狂宴の始まり

 今、俺がやるべき事はコイツの足止め。倒すでも無く、隙を窺うでもなく、ただ時間を稼げれば良いのであれば、ある程度安全に立ち回る事も可能だ。


「ブロロロロロォォォォォォ!!!」


 これはあまり長く使うと頭が痛くなってくるんだよな。

 恐らく認識齟齬に脳が耐えられないのだろう。

 だが逆に言うなら、短時間なら何の問題ない。

 さて、気を引き締めていこう。


【超集中】発動。


 ミノタウロスはそのレベルの高さや攻撃力から考えるに、敏捷性に於いて二枚落ち程の性能となっている。故にー


「ブモォォォォォォォ!!!」


 横薙ぎに振られた漆黒の剣をその場でしゃがむ事で回避すると、伸び切ったその腕に斬撃を試みる。チッ、硬すぎんだろ。見た所、ほぼノーダメージか。


 ━━━━━━━━━━━━━

 ・完全鑑定の結果

 ミノタウロス(ブラッディ種)


 レベル:38

 HP:985/987

 MP:71/71

 筋力:381

 敏捷:227

 耐久:403

 精神:34

 魔力:68


 装備

【無名の黒刀】


 スキル

【・ヘルハウリング・スマッシュクラッシャー・覚醒】

 ━━━━━━━━━━━━━


 溜め息が溢れそうになるのをグッと堪え、ミノタウロスの左足へと回し蹴りを試みる。


「ブモッ!?」


 体勢を崩させ、身体を回転させつつ腹部へと斬撃を試みるが、これは僅かに手応えアリ。体力を確認するに先程よりかはダメージを出せている。どうやら腕の耐久は高いらしい。他の魔物もそうだったが、耐久は部位によってバラバラで、総合すると、と言ったニュアンスの数値の様だ。故に個々の魔物に硬い部分があるのと反対に、弱点となる部位も存在している。コイツの場合、少なくとも腕より腹部の方が柔らかいらしい。


「……解放、解放。オラ解放したぞこの野郎!!」

「良し」


 体勢を整え、改めてこちらを攻撃しようとするミノタウロスの猛攻を超集中で回避し、武器を武器で制しつつ顔面へと蹴りをお見舞いする。大したダメージにはならないだろうが数秒くらいは稼げるだろう。そのままミノタウロスの体を壁と見立て、強く蹴る事によって大きく距離を確保する。


「【我が所有物と認める】、重ねて【我が所有物と認める】」

「うぅ……」

「んっ」


 奴隷所有時のギフトどうこうは一旦後にして、今はこの状況を打破しなければならない。だが二番目に難関だった奴隷所有権の移行には成功した。後はー


 ━━━━━━━━━━━━

 パーティを組みますか?


【対象・リーシャン・ローメイ】

 ━━━━━━━━━━━━


 『YES』と、答えを告げる。


 ━━━━━━━━━━━━

 新たなパーティが形成されました


 新規パーティメンバー

 ・リーシャン

 ・ローメイ


 統率者スキルの効果により、

 ギフトを一つ選べます。


【・天賦の才・大賢者の卵・艶福家・性豪・統率者・限界突破・無限魔力・合成魔法・状態異常完全耐性・武具錬成・完全鑑定・完全解錠・超集中・異空間収納・ステータス完全隠蔽】


 ━━━━━━━━━━━━━━


 よし、これでこの件は一旦ここまでだ。

 ギフトの選択は後からで問題無い。


 と、ここでルクレティアが帰還する。

 良いタイミングだ。


「ご主人様、お待たせして申し訳ありません」

「苦労をかけるな。どうだった?」

「悪い知らせです」


 全てが上手くいくという訳では無い、か。

 仕方ない。


「……無かったか」

「はい。隈無く探したのですが。一箇所怪しい場所はあったのですが、巨大な岩壁に阻まれており通れそうな雰囲気ではありませんでした」


 ここに来た時、最初の大きな音はそれかと思い至るも、それが何の解決にも繋がっていない以上思考としては放棄する。


「この二人を安全な場所へ。頼む」

「成したのですね、流石ご主人様です。お二人はこちらへ」

「ヒッ」

「んんっ」


 怯える彼女らに言葉を尽くす暇もないのは申し訳ないが、こちらとしても命が優先。死んでは話にならんからな。


「三馬鹿! 約束通り共闘してやる。敵は攻撃力こそ高いものの、敏捷性に隙が残されている。今の所ダメージが確認出来たのは腹部のみだ、気張っていけ!」

「うるせぇ! 仕切ってんじゃねぇよ!」

「ここを出たら覚えとけよコラ!!」

「クソが!!」


 レベル差を考えればこのミノタウロスには及ぶべくも無かったが、ステータスのバラつきが上手い具合に差し込む余地を残していた事が幸いだった。


 俺たちは固まる事なくミノタウロスの意識を分散させ、四方からタイミングをずらしつつ波状攻撃を仕掛け続けた。三馬鹿共も流石冒険者の端くれといった所か、ギリギリの所ではあるが回避を続けつつダメージも稼いでいる。


 決定的な決め手には欠けるが、このペースでいったならやがて倒せる、という雰囲気はで始めていた。


 ーのだが。


 何か、違和感があった。


 何だ、何を見落としている?


 筋力の高さは警戒に値する、だが敏捷性まで考慮するに、当たらなければどうという事は無いだろう。耐久の高さにも最初こそ驚かされたものの、削りを重ねる事によってダメージを蓄積出来るならそこまで問題とは言えないだろう。


 ……そうかスキルだ!


「ガアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!」


 っ!?

 これが、ハウリングか。

 拙い、意識が飛びそうだ……!!


 拙い、三馬鹿!!


「避けろ馬鹿野朗!!」

「ぐへっ!?」

「ブロロロロロォォォォォォ!!!」

「グッ、……危なかったな」


 身体が硬直して動かなかったそれを、何とか気合いで跳ね除けて飛び出し、三馬鹿の一人が餌食になろうとしていた場面に介入し、三馬鹿を蹴り飛ばした。


 これにより三馬鹿は吹っ飛んだが難を逃れ、俺もミノタウロスの攻撃を何とか回避する事に成功する。


 正直、スキルの事が頭に(よぎ)らなければ今ので俺が死んでいたというのすら有り得ただろう。こんな場面で油断や慢心など死に直結するというのに情けない。


 命のやり取り、その極限の中というのは本に薄氷の上に成り立っている事を再認識させられる思いだ。


 だが、これでハウリングは見たモーションの大きさを考えれば次は耐えられる。来ると分かっていて回避出来ないなら問題だが、心構え次第では耐えられるだろう。


 ならば次なる問題はー


「来るぞ! 距離を取れ!」

「チッ、何が何だか……」

「クソが!!」


「ブルルルァァァァァァ!!!!!」


 ミノタウロスの魔力が膨れ上がり、小さく跳躍したかと思うと、着地の瞬間周囲半径10メートルにも及ぶ範囲で大爆発が巻き起こる。


「っ、危ねぇじゃねぇかクソが!!」

「チッ、危うく死ぬとこだ」


 吹き飛ばされ、抉り取られた地面を見れば一目瞭然。範囲内にいたなら、己の身もまた砕け散っていた事だろう。


 とは言え悲観する事ばかりではない。こいつの魔力は無限などではなく、有限だ。その上でハウリングもスマッシュもモーションは割れた。事前動作で魔力に揺らぎがあるのも確認した。どちらも喰らう事は無い。


「今の技は予備動作がデカい、俺が察知出来るから構わずに仕掛けろ!」

「だから仕切ってんじゃねぇ!!」

「クソ野郎が!!」


 あと少しだ、ゴールは見えて来た。後残す問題、残されたスキルは……覚醒?


 覚醒って何だ?


 ━━━━━━━━━━━━━━

 ・鑑定の結果


【覚醒】

 自身の体力が半分以下になった時、

 筋力と敏捷が倍になる

 ━━━━━━━━━━━━━━


 ……待て。

 待て待て待て待て。


 それは流石に拙い。とんでもない物を見落としていた。


「おい、何か様子がおかしくねぇか?」

「弱ってきてんだろ」

「いや、そういう感じとは……」


 奴の今の体力はどうなってる?


 ━━━━━━━━━━━━━

 ・完全鑑定の結果

 ミノタウロス(ブラッディ種)


 レベル:38

 HP:493/987

 MP:21/71

 筋力:381(×2※覚醒)

 敏捷:227(×2※覚醒)

 耐久:403

 精神:34

 魔力:68


 装備

【無名の黒刀】


 スキル

【・ヘルハウリング・スマッシュクラッシャー・覚醒】

 ━━━━━━━━━━━━━


 ……これは拙い。


「お前ら一旦さが」

「グァッ!?」

「「「!?」」」


 三馬鹿の一人が……真っ二つに切断された。


 超集中を怠っていたとは言え、全く見えなかった。


「ブロロロ……」

「う、うわああァァァァ!!」

「馬鹿!! 突っ込むな!!」

「ブギャッ!?」


 一閃、と言うのが正しいのだろう。

 また三馬鹿の一人が、真っ二つ。


「ヒッ、ヒィィィィ来るな来るなァァァァ!!」

「チッ」


 俺は咄嗟に【超集中】を発動する。


 眼前に迫り来るミノタウロス、超集中状態でもかなり早い、追い切れるか!?


 縦、横に繰り出される斬撃を四度回避し、そして袈裟斬りにして来た所で剣で受け止める。


 グッ!?

 お、重い。


 さっきまでとは比べ物にならない重圧。完全に受け止めてしまえば腕ごと持っていかれかねない。俺は反射的に受けるのをやめて攻撃を受け流し、ミノタウロスの剣が地面を(えぐ)ったタイミングで身体へと攻撃を試みる。


 だがー


「……回避するか、面倒な」


 思わず舌打ちが漏れ出る。だが互いに大振りを一撃ずつ繰り出した事で互いに距離を取り仕切り直す形に。


「ヒッ、無理だ、無理だってこんな、来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁうわぁぁぁぁグァッ!?」


 呆然と立ち尽くす俺の目の前で、悠々と残りの一人を斬り伏せたミノタウロス。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」


 ここは地獄かと錯覚する様な雄叫びを上げ、俺は奥歯を噛み締めた。


 逃げ場は……無い。

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