【第二十三話】ダンジョンの脅威
「ギリギリ、か」
「ご主人様……」
図上から降り注ぐ無数の岩石。それらを回避する事もその場から離れる事も間に合わないと判断し、俺は咄嗟にルクレティアを抱いたまま【水魔法】を展開した。外側が氷の様に固く、内側に空洞を残している様な、そんな卵の殻の様な空間を生成しようとしたのだが、どうやらギリギリで間に合ったらしい。
周囲を軽く見渡すと土埃のせいもあって視界は不明瞭だが、不思議な事に僅かに光はあるようで視認は可能な様だ。正直これだけでもかなり助かる。ダンジョンの妙だな。
ーさて。
あの時あの瞬間の崩落により、足元まで崩れさり、計らずも五階層へと辿り着いてしまった俺たち。だが事の原因は恐らく俺たちではない。アレの仕掛けはどうも上の階層にあった雰囲気だった。そうなると必然的に、仕掛けを動かした存在が俺たちの他に居りー
「チッ、どうなってやがる」
「最悪だ、服が汚れちまったぜ」
「奴らはどうした、生きてっか?」
同じ状況に巻き込まれた別のパーティが存在する事になるだろう。そして嫌な事にそいつらの姿には見覚えがあり、
「うぅ……」
「い、痛いです……」
「生きてんならピーピー喚いてんじゃねぇよ!」
「グフッ!?」
「テメェもだオラァッ!」
「おぇっ!?」
相も変わらず胸糞悪いパーティだと眉を顰める。気分は悪いが状況が状況だ。下手に戦力を減らすと何が起こるか分からないからな。一先ず様子を見よう。
「アァ? ナンダてめーらも居やがったのかゾンビウルフカス共が」
「……」
絡むな絡むな、状況が分からんのかコイツらは。
いっそここから離れた方が良さそうだな。
「何とか言いやがれ!」
「お気楽なこった。行くぞルクレティア」
「はい、ご主人様」
「テメェやるの……!?」
剣を抜き、素早く刃先を首へと当てがう。
「次、ツマラナイ絡み方してきたら殺すからな」
「……ンだとこの野朗」
「聞こえなかったのか? 二度言わせるな」
「……チッ」
冷たい鋼が戦士三人衆の一人に触れ、接触面から僅かに血液を滲ませる。ただそれだけの事で黙ってしまう微妙なパーティ。初回の接触時こそまだ面倒は避けたかったが、事ここまで来ては取り繕う必要もない。こんなゴミカスに媚び諂うなんざゴメンだ。
俺たち二人なら、仮に五人全員で来られようとも皆殺しに出来るだろうよ。
「貴様らを生かすのはこの地が未知だからに他ならない。下らない行動で命を無駄に散らさぬ事だ」
「て、テメェ……」
剣を引き鞘へと戻して、気持ちを周囲へと向け直す。下らない事をしている場合ではない。ここは未知の五階層、それも【道無きダンジョン】の五階層だ。
とんでもない入り方をしてしまった。この地では何かしらのイレギュラーが起こっても不思議はないというのに。本当なら見つけた時点で引き返すべきなんだ。スティーブン達へ応援を要請し、連携が取れるメンバーで臨むべきだった。
可能なら、今すぐにでも撤退すべきだ。
そんな事を考えていると、何処かで大きな物音がしたかと思うと、周囲の岩壁に明かりが灯り、俺たち二つのパーティが円形の大部屋へ落とされた事が見て取れる状況へと変化する。状況が、広く照らされる。
そしてー
「ぶ、ブラッディ種の……ミノタウロス、だと?」
「馬鹿な、何故こんな所に!!」
「嘘だろ、嘘だろ嘘だろ!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!」
「ご、ご主人様……」
「様子を見つつ撤退するぞ」
「わ、分かりました。退路を探ります」
「頼む」
出会うべきではない難敵が、俺たちの前に出現した。
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・鑑定の結果
ミノタウロス(ブラッディ種)
Lv38
装備
【無名の黒刀】
スキル
【・ヘルハウリング・スマッシュクラッシャー・覚醒】
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