【第十七話】双子の少女
昨日は初めてのダンジョンに緊張したせいか、夜はすんなり眠れてしまった。同じベッドで女の子が眠っているというのに、気にする事も無く疲労で眠れてしまう精神性には我ながら呆れてしまう。
とは言え、昨日は取り付く島もない主人のせいもあって、ルクレティアも大人しく眠ったらしく、目が覚めると女の子がむにゃむにゃ言いながら目の前で眠っていた。朝日が登っている事や俺が起き上がった事をして意に介さず眠り続けるルクレティア。
服がはだけてあちこち大変な事になっていたので慌てて布団を掛けてやり、顔を覗かせる自身の欲求に蓋をする。朝から盛りそうになる己が下半身が中々に御し難い。静まれ。
「ルクレティア、そろそろ起きろよ」
「んぁー? あされすかぁー?」
こいつ寝起きはダメみたいだな。朝が弱いタイプってのはギャップもあってたいへん可愛らしい。『あと五分』などとほざきながら寝返りを始めた為、布団を剥ぎ取って朝食の用意を進める。その場を離れればはだけた服装など恐るるに足らぬ。それをして『むわーひどいれすー』とモニョモニョしつつ、非常にスローな動きで顔を洗いに行ったルクレティア。普段しっかりしているだけに新鮮な光景だ。
「うわぁー美味しそう……なのですが……私が用意せねばならぬ立場だと言うのに、本当に申し訳ありません。何故私がお客様待遇で居るのか悔やんでも悔やみ切れません……」
「気にするなって、みんな苦手な事の一つくらいあるよ」
「ぐすん、本当に申し訳ありません。もぐもぐ」
と言いつつちゃんと食べる辺りがルクレティアだな。こう言う所、少しニヤけてしまう自分がいる。
さて、いよいよ今日から二人だけのダンジョンだ。昨日の感じて敵の雰囲気やダンジョンの様子はある程度把握出来ている。ここからは自分たちだけで出来なければ、どちらにせよやがて死ぬだけだ。試したい事もあるし、今日も忙しくなりそうだ。
「今日の目標をおさらいする」
「敵の感触を確認、ダンジョンの空気になれる、装備に回す金銭的余裕を作る、ご主人様の水魔法を試す」
「オッケー、その通りだ」
「それにしても、ご主人様は本当に凄いです。まさか一度見ただけで水魔法まで習得してしまうなんて。私のコピーなんてご主人様なら出来て当然なのですが、私以外でもあんなにすんなり出来るのですね。未だに信じられなくてご主人様の凄さを再認識されられました」
「あれだけしっかりと見れたらな」
「普通は出来ません、ご主人様が凄すぎるんです」
「ある程度内密にな」
「勿論です、私はご主人様の意向に従います」
などと言っているが、こいつも最初は『ご主人様が侮られるなんて!』とか言っていた気がするぞ。とは言え『虚栄心から自身の情報を晒すメリットなど塵ひとつにも満たない』と言ってからは大人しくなってくれた。話せば分かってくれるらしい。
せめて周囲に対して強く出られる程に練達してからにしてくれ、今暫くはどうあってもルーキーなんだ。コツコツと基礎的な事積み重ねて死のリスクを減らしていこう。
*
「よし、この辺りから始めるか」
「分かりました」
ダンジョン攻略二日目。やはりこのダンジョンの下層へ向かう道は見つかっておらず、既に探索が終えられた【どうなっているのかがハッキリしている】空間しかないダンジョンとなっていた。
ここはかなりスタンダードな作りとなっているらしく、壁面は岩で覆われており、網の目状広がる通路とフロアが点在している。つまり、至って普通の弱いダンジョンなのだ。
ベテラン達からすればこれほどつまらない場所も無いだろうという事で、彼らは足早に四階層を目指し、その探索に躍起になっている様だ。攻略した時のみ最深部から直接出られるらしいので、1〜3階はほぼ無視される通り道として認識されている。つまり、このダンジョンの低階層はある種の穴場と化していた。
「水を意識して……成る程、これは使いやすいな」
「……ご主人様凄いです」
魔力を身体の周辺に維持しているイメージから、その魔力を水の魔法へと置き換えてみたのだが。割と苦労もなく、フヨフヨと俺の周囲を水の様な雰囲気と化した魔力が出現した。
「後はこれを……いけ!」
「ヒッ」
目の前へと突き出され、広げられた掌から勢いよく射出される水の球。ウォーターボールの様に名前が付きそうなその一撃が、岩壁へと軽い衝激を与えた。中々の勢いでルクレティアを少し驚かせてしまった。
さて、気を取り直して。今度は更にそれを小さく細かくして連射する様に撃ち出してみたり、逆に大きく単発で撃ち出してみたりと、様々な検証を重ねた。そしてその結果。
この世界の魔法は、術者自身の練度と想像力によって威力を変えるタイプであると断定する。ま、予想通りだな。幾つか自分の使いやすい【型】を作り、咄嗟の場面でも必殺の働きをする魔法を行使出来るようにしておかないと、このままでは使え無さそうだ。
例えると、水をただホースから放出する事は簡単に出来るのだが、ウォーターカッターの様に切断に至る程の威力を持たせようとするとかなりの時間と集中力が必要になってしまうという事。故にいざと言うタイミングであっても必殺に至る技を行使出来る様になるには【これならば一瞬で出せる】という【型】を用意する必要がありそうだ、という訳だ。
「賢者の卵ってのは、要するにこれを扱うのが上手くなれる資質が備わっている、みたいなイメージか」
「卵?」
「あ、いやすまない。つい心の声が」
「あぅぅ、心ではなく口に出して話して下さい」
「悪い悪い」
そういう意味では、最初に着手するのが【水】だったのはかなり助かったな。火や風や土は操るイメージがかなり軽薄であるなか、水であればまだ水鉄砲や氷や水蒸気といった運用のイメージが持ちやすい。どう使うかは使い手次第、と言う訳か。
ゾフィーの戦い方を思い出すに、やはり決められた【型】を味方と共有する事でより効率的に魔法を行使していた様に思える。今日からはイメージの修行もしておかなければな。
「ご主人様、ゾンビウルフの群れです」
「これ以上集まられても面倒だ、二人で倒すぞ」
「かしこまりました」
そうして、ナイフを構えたルクレティア。水魔法を得た事でナイフは彼女へと返還する運びとなっていた。故にー
「ハァァァ!」
「よっと」
「ガフッ!?」
「グェッ!?」
縦横無尽にナイフを走らせるルクレティアは受け身を取る事も壁面や地面の突起物を利用する事もどんどん練達しており、地形を活かしつつ本人もアクロバティックに舞いながらナイフで無数の線を引いていた。その直線上に存在したゾンビウルフ達は皆一様にその身体のどこかを切断されており、致命傷に至らなかった敵も返すナイフでトドメをさされている。
昨日はかなり制限した中での戦闘が続いていた為、もしかすると必要以上の疲れやフラストレーションを溜めていたのかもしれないな。ゾフィーが鑑定を使えた以上、あまり派手に動けば違和感を見抜かれかねない。だが今は俺たち二人だけ故に、下手に実力を隠す必要もない。
俺は俺でゾンビウルフの脆そうな部分に強打を加えたり、首を捻じ切って切断したり、尻尾を掴んで地面に叩きつけたりと中々にやりたい放題させて貰っている。どうせやるなら、やはり思いっきりの方が気分が良い。
魔法についても理解は深まった。こっちはダンジョン以外でも練習しようと思えば出来そうだったから、平生から並行して訓練していこう。
と、そんな順調に魔物を屠っていた最中。
「オラ、とっとと歩けよ!」
「グェッ」
「テメェもだコラ!」
「ぐぅッ」
どうやら別のパーティと遭遇してしまったらしい。そのパーティは五人で構成されており、鑑定の結果【戦士】【戦士】【戦士】【魔法使い】【魔法使い】という、なかなかに極端な構成をしている事が見て取れた。
だが、問題はそこではない。
「使えねぇなぁ、道を探せって言ってんだろ!」
「痛っ!?」
問題は、その魔法使いが見た目【幼い少女らであり】、その外見は瓜二つ。恐らく双子であろう彼女らが、奴ら戦士たちの所有物である【奴隷】であり、
「オラ、さっさとしろ!」
「うぅ……」
かなり厳しい環境にあるという点だった。




