大変良いことをしましたね と 言われた。
会場の賑わいとは反対に気分は下がっていくばかりだった。まだ始まったばかりなのにもう終わりの事を考えている。よくある話で悪いが「ナンデコンナコトニ・・」これを数ヶ月、いや、もう一年ほども思い続けている。
壁際でボンヤリ会場を眺めていたら、友人夫妻がやってきて冷えた果実水のグラスを渡してくれた。酒はダメらしい。本当に迷惑しかかけていない、忠告にも耳を貸さなかった、そして自滅した。それでも気にかけてくれている私に残された唯一の信頼できる存在だ。
彼らのお陰で穏やかにすごしている時、一人の貴婦人が近寄ってきた、声をかけぬ訳にはいかないので友人夫妻を交えて言葉をかわした。そのとき言われたのが、
『大変良いことをしましたね』・・・だった。
私がしでかしたこと、、、それは自らの立場を考えず、一方の話だけを聞き、勝手に相手の感情思惑を決めつけ、取り返しのできない状況を作り上げたこと。
今まで面と向かって言われなかったことだ。だが、皆知っていること。私を遠巻きにして眉をしかめ陰でコソコソ言っている。
しかし、この貴婦人は優しい面立ちで私に言った。
『彼女はとても優しい方だから、この伏魔殿の女主人は無理だったのです。そして、あなたが選んだ方は水がよくあったのでしょう。魑魅魍魎の合間を悠々と泳いでいらっしゃる。』
私たちの視線の遙か先で【アレ】が煌びやかなドレスを身に纏い本当に楽しんでいるのだろう笑みを浮かべ華を咲かせている。
「ありがとうございます。そう言っていただけて今、色々吹っ切れました。自分の後始末は最後までさせてもらいます。失ったものは多いですが、残されたものもあります。幸い【アレ】を縛り付ける資産も残されています。〈彼女〉の幸せを願うのは烏滸がましいですが遠くから祈っております。」
〈彼女〉はもう私とは関わりたくはないだろう自分のしたことを思えば面と向かって謝罪する事も憚れた。
『ダメですよ。そう決めつけるのは。』
貴婦人がそう言い、友人夫妻がしっかり顔を上げろと言った。
『彼女はもうすぐご夫君といらっしゃるのでしょう?悔いているならきちんと謝罪をして、婚姻のお祝いを申し上げなくては。』
〈彼女〉はあれから国主と軍上層部の勧めである青年と見合いをし、先月式を挙げている。
軍功により爵位と領地を賜った新たな辺境伯となった青年。軍務はともかく、領地経営など貴族としての実務は難しいであろう彼の為に〈彼女〉を宛がったのだろうけど、叙爵式で見た〈彼女〉はとても幸せそうだった。
初めて彼を見たとき【アレ】は声を上げて嘲笑っていた。ボロボロの大熊!とそう言い笑った。
私はそんな【アレ】を押さえながらも同じような印象をもった。上背のある大男、薄汚れた軍服、髪は伸び放題で顔はよくわからなかった。しかし、〈彼女〉はそんな周りも気にならなかったようだ。唯彼と話し、そして微笑んだ。とても綺麗に。
叙爵式の最中、身なりを整えた彼を見て【アレ】が騒ぎ始めた。要約すると《嘘だ!詐欺だ!間違っている!!!》と言うことらしい。髪を切り、軍礼服に身を固めた彼は間違いなく美丈夫だった。長身で逞しいバランスの整った肉体、青みがかる黒髪に涼やかな蒼い眼。
先の凱旋の折り、彼を嘲笑していた者どもも息も忘れ魅入っていた。そして、叙爵と〈彼女〉との婚姻が宣言された。
後のことは本当に思い出したくない。【アレ】の謎の上から目線、態度、発言。あの自信はどこから来るのか《彼は私にこそ相応しい!》、、、散々彼を嘲笑ったことを忘れ、勝手に〈彼女〉を貶めて、式典をぶち壊しそうになったその時【アレ】が突然意識を失った。何のことはない式典の関係者が鎮静剤の類いを【アレ】に使ったのだ。そして私は周囲に詫びながら【アレ】を運び出したのだった。
あの叙爵式が半年ほど前だったか、更に前の私と〈彼女〉の婚約破棄騒ぎなど遠い昔のように思えてくる。その後私は国主に呼び出され正式な沙汰を渡された。国主の血筋には違いがない為序列に名は残すが国政に直接関わる事を禁ず。要は一介の文官として許されたのである。序列と言っても50位くらいは無いも同じだ。そして【アレ】は国主の血筋ではない。だが建国前にも遡れる古きの家柄の者で明確に罰せられるほどの事はしていない為限りなく言動が妖しいがどうすることもできず、然りとて放置することはできぬ。よって私と【アレ】婚姻は認められ、私は生涯【アレ】を見張る役割を申しつけられたのだ。
「今はもう【アレ】の何に惹かれていたのかもわからない」ふとそういう言葉が口から漏れていた。
「お前はただ【アレ】の狂気に当てられていただけだよ。助けてやれなくてすまない」
友の言葉に頭を振る。違う、聞き入れなかったのは私だ。見捨てず傍にいてくれた、救ってくれた。
「どうして今も私の友人でいてくれるんだ?」
思い切って友人に聞いた。友は笑った。
「初めに助けてくれたのはお前だよ。覚えていないところがいいな。」
友の妻と貴婦人も優しく笑ってくれていた。気づけば〈彼女〉が彼に伴われ近づいて来ていた。
もし、あのことがなかったら私は序列上位のままで〈彼女〉は伏魔殿の女主人になっていたかもしれない。けれど違う。私の婚約者だった時はありふれた何処にでもいる美人、印象に残らない女性それが私の周りにいる者たちの評価だった。
今、彼の傍らにいる〈彼女〉は美しい笑顔の人だ。その幸せが見て取れる。本当に烏滸がましいが安堵した。私の謝罪も今、幸せだからと受け入れてくれた。夫君には【アレ】を〈彼女〉に近づけるなと釘を刺されたが。
愚かで色々無くした私だが幸いにも大切なものは残されたと思う。【アレ】のことは気が重いが、私がしなければならないケジメだ。友人が頭を上げて前を見ろと言う。その通りだ。そうでなければ償うこともできない。助けてくれる人達がいる。今はそれに甘えようと思う。いつか還せるように。
初めて書いて、初めて投稿してみました。お目汚しですが見てやってください。




