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優しき修羅の愛  作者: 日向満家
本編
28/61

28話

      二十八


      夫


 午後はずっと二人でソファに座り、BSやCSを適当にザッピングして、タレントが複数人で喋ることもなく釣りをしている番組や、有名かどうかもよく知らない韓国の男性アイドルグループのミュージックビデオ特集を見ていた。

 実際二人とも趣味が少ないため、いざ二人の時間ができても持てあましてしまう。

 もっと会話をしなければならない。そんなことは分かっているのだが、必要なこと以外で何を話せば良いのかわからない。交際期間がほぼ無い状態で結婚をしたことによる大きな弊害がここにきて出てしまった。

 今までそれは大した問題ではないと思っていたし、実際あまり気にならなかった。しかし改めて二人きりで毎日を過ごしていると、私達の間に薄いベールのような、あるいは分厚い遮光カーテンのような何かがあることがよくわかった。私と沙月を隔てている何かが。

 気になっていることはいくつもある。聞かなければいけない、話をしなければならない重要なことだ。しかしその話をすれば、今の関係すら壊してしまいそうで、私には聞くことができなかった。

 私は気付くと、隣にいた沙月の手を強く掴んでいた。沙月が驚いたようにこっちを見てくる。私は衝動的に、沙月に唇を重ねていた。



      妻


 勝廣の唇が離れたあと、沙月は何の言葉も発することができなかった。これまで、勝廣がこれほど唐突に、身体的なスキンシップを求めてきたことなどなかった。夜に身体を重ねるときも、勝廣にはどこか遠慮したところがあった。

 彼の瞳が、じっと見つめてくる。しかし、沙月はその目を見返すことができなかった。勝廣が求めているものは分かっている。だが今のような状態で、どうしてその感情に応えることができるだろう。

「そろそろ行かない?」

 沙月は勝廣の視線を避けるように、勢いよく立ち上がった。

 勝廣の瞳に一瞬だけ寂しさの感情が浮き上がる。しかし、すぐいつもの様子に戻って「そうしようか」と快活に言った。

 勝廣が立ち上がってから、沙月はやっと自分より十五センチほど背が高い夫をそっと見上げることができた。しかしその時の勝廣の目線は、すでにクローゼットの扉の方に向いていた。

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