表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しき修羅の愛  作者: 日向満家
本編
22/61

22話


      二十二


      夫


 午後七時、沙月が帰ってきた。素知らぬ顔で部屋に上がろうとする。普段使っている鞄以外は何も持っていないので、買い物に行っていたわけでもなさそうだ。

「お帰り、どこに行ってたんだい?」

階段の上り口のところで声をかけた。なるべく険のある言い方に聞こえないように気を付ける。

「別に。ごめん、今日はちょっと疲れちゃった。夜は適当に食べといて」

沙月はこちらを一切見ずに、小さい声でそう言った。歩みを止めることもない。私は、沙月がこのままどこかに行ってしまうのではないかと思った。

「待て! 沙月、俺を見ろ! ちゃんと話をしてくれ!」

 やっと沙月がこっちを見た。しかし、その目には力がこもっておらず、動作も緩慢だった。

「今はやめて。本当に無理なの」

 私はやっぱり、何と言葉を継げばよいか、わからなかった。



      妻


 軽く歯を食いしばり、強張った表情を浮かべている勝廣を横目に見ながら、沙月は後悔の念に駆られた。本当はこんなことを言うつもりはなかった。少しくらいは、取り繕おうと思っていた。

 しかし、勝廣がこれほどまでに声のトーンを上げて詰め寄ってきたことがこれまでなかったので、その熱量に返せるほどの余裕がまだなかったのだ。沙月は、もう限界だった。


      ***


 再び意識を取り戻すと、今度は目隠しをされてはいなかったが、代わりに猿ぐつわをかまされ、ロープのようなもので手足を縛られていた。いくら叫んでも、低くくぐもったわずかな音が口から漏れ出るばかりだ。

 沙月は椅子に座らされていたが、その周りには、沙月をここまで連れてきた二人の男の姿しかなかった。やはり東城は来ていない。

「なあ、お前に抵抗する権利があると思ってるのか? 恩情で生かされてるやつがよ」

沙月が目覚めたことに気付いた大柄な方の男が、沙月の顔を覗き込みながらそう言う。

「いいか? お前は東城さんのことを気にしているようだが、実際にお前を見張っているのは俺達なんだ。お前が本当に気を遣わなくちゃいけないのは俺達なんだよ」

 沙月の猿ぐつわが乱暴にずり下げられた。

「ここじゃ、ちょっとくらいの悲鳴じゃ外には漏れない。なあ、俺達に奉仕するか? そうすれば命は取らないし、秘密もばらさない」


      ***


 そこから先は思い出したくもない。何時間もかけて散々沙月を弄ったあと、沙月の家のわずか数メートル手前で沙月を降ろしたときの、この二人の最後の捨てせりふは「また近いうちに」だった。

 秘密を守るために、自分を守るために、母親を守るために、これからどれだけ身を削れば良いのだろうか。沙月は着の身着のままベッドに倒れ込んだ。布団の中に潜り込む。

 コートと羽毛布団が互いに巻き込み合って、端の方まで熱が届かなくなったが、それを逃れるように沙月はさらに身体を丸めて、眠れぬ時間を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ