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優しき修羅の愛  作者: 日向満家
本編
18/61

18話


      十八


      夫


 警察では、失踪した呉谷が暴力団とのトラブルがあったことから「特異行方不明者」に分類されるため、組織犯罪捜査の中で捜索に人手を割いてくれるという。

 しかし、随分前から連絡が取れなくなっており、仕事にも行っていないということを伝えると、もっと早く届けを出すようにと軽い叱責を受けた。鈴木はここでも平謝りだ。

「ただ、いくら呉谷さん自身が姿をくらませるという選択肢を選んだにせよ、指定暴力団とトラブルがあった中でこれほどまでにコンタクトがとれないとなると、もう現在生存している可能性は少ないということも頭に入れておいて下さい」

 書類を受理してくれた険しい表情の初老の警察官が、書類をまとめながら最後に恐ろしいことを言ってきた。わざわざそれを言う必要があるだろうか。

 呉谷の両親と私、加藤と鈴木愛香で警察署を出た頃には日が暮れかかっていた。ある程度傾いてきた太陽の、刺すような朱い光線が私達を照らす。もう少しすれば、驚くほど暗くなるだろう。

 このくらいの時刻の、一連の空色の遷移は嫌いではないが、今のような心境では見たくなかった。夜が近づくと、人はどうしてもネガティブになってしまうものだ。

「私、明日からもう一度神戸に行ってくる」

呉谷の両親と別れてから、鈴木は加藤と私にそう言った。

「何を言っているんだ。警察も捜してくれると言っていたじゃないか!」

何度この話をさせるのか。

「うるさいな! 宮野くんはそういうところだよ。いっつも冷静で! 昔からホント嫌いそういうとこ」

それまでしゅんとしていたのが嘘のように、鈴木の感情が爆発した。

「まあ、待てよ、誰かは冷静でないといけないだろ。大体お前は我を失いすぎだ。ダメに決まってるだろ、一人で捜しにいくなんて」

加藤が鈴木を諫める。私は返す言葉を探すのに、時間がかかっていた。

「一人だなんて言ってないでしょ、あなたたちも来るのよ」

 は?

 展開としては予期できたものだ。しかし、彼女の方から言ってくるとは思わなかった。

 鈴木愛香という女は高校の時も、普段は腰が低くおどおどしているくせに、ごくたまに私達にとんでもない要求をしてきたことを私はふと思い出した。

やれ、部活をサボって女子会をするから顧問と話して適当に誤魔化しておいてくれだとか、テスト直前の休み時間にここからここまでを分かりやすく解説しろだとか。

「待てよ。俺たちはもう学生じゃないんだぞ、そんな暇じゃない」私が数拍おいてようやく言い返すも、

「ほら、やっぱり冷たい。沙月とも言ってたんだよ、宮野くんはいっつも表情が無くて何考えてるかわからないって。感情的になってたとこもほとんど見たことなかったし」

 そのことはうすうす感じていた。時折女子達の私に対する視線の中に、距離感が存在していたのだ。私自身は自分の感情の起伏が少ないとは思っていなかった。ただ、確かに今から考えると、それを表に出したことは少なかったかもしれない。

 当時沙月と付き合っていくうえで、自分の気持ちは、会話の中で勇気を出して少しずつ紡いでいった言葉の端々によって伝えられるものと思っていた。

 しかし、大人になって実感した、いや本当はその時既に気付いていたのかもしれない。何も表情が無い中で、文脈が無い中で、伝えられる愛情など、ほとんど何もないのだと。ただ不気味なだけ、ただ唐突なだけ。

 私はそれに気付いていても、それに甘んじていた。満足していた。それで十分だと思っていた。そんなわけはないのに。



      妻


 勝廣は加藤や愛香と共に、呉谷のことを警察に届けたらしい。それを勝廣の口から伝えられた時に、沙月はとっさに、ポケットの中のこの盗聴器のスイッチを切ってやりたいという衝動に駆られた。

 夫は勝手に行方不明の呉谷を捜し始めたようだが、このままだと色眼鏡の男がいる組織とのいざこざに夫を巻き込んでしまう。奴らに勝廣がマークされてしまう。しかしもう奴らに聞かれてしまった。

 どんな反応を示しているのかは分からない。今頃ミニバンの中にいる下っ端は泡を食って色眼鏡の男に連絡しているに違いない。沙月の夫が呉谷を捜し始めている。それも警察を巻き込んで。

 勝廣も世間も寝静まった夜中、沙月は家を出てホームセンターの駐車場まで歩き、意を決してミニバンのドアを叩いた。色眼鏡の男と直接話す必要がある。

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