ふたりぼっちの物語 4
子どもたちが割とひどい状況です。
ゴブリンを退治するときは、生け捕りにする。
それが最近の彼らに課されたことがら。
前のように大きな魔法ではなく、対象を限定し、しかも傷を負わせるのではなく動きを阻害したり動きそのものを止めるもの。
そうやって、生かして捕まえる。
なぜそうするかを問えば、『賢者様』はそうする方が攻撃魔法を使うより難しいから課題として最適なのだと教えてくれた。
そのことに「なるほど、デバフのチュートリアルなんだな」「難易度が上がったんだな」それから「周りに被害を出さないチュートリアルクエストだな」、そうケンは納得し、ミヤは……そういうものがわからないので、口を出すことはなかった。
事前の課題で習い覚えた魔法は単体のみに対してのものだったが、幸い五匹程度までの小さな集団が相手で、群れのようなものと出くわさず、その魔法で事足りた。
二人が生け捕りにしたゴブリンは騎士たちが馬車に積み込んでいく。
すっかり「きれい」になると、彼らは『お城』へと戻る。
最近はそんなゴブリン胎児が増えた。
「なんで、捕まえるだけなのかな」
今日も五匹のゴブリンを捕まえた帰り道。
ご褒美にと、馬車に用意されていた蒸しパンのようなケーキを口にしながら、ミヤはぽつりとつぶやいた。
このクエストは人間を相手にしないから、ミヤは充分戦力になる。
今日も五匹のうち三匹を麻痺させたのは彼女だった。
人間相手では彼女は動けないから、こういうクエストに方向が変わったのかも、ともケンは思う。
「わかんない。けど、たぶんそれに理由なんて無いと思うよ」
ケンがそう思うのは、やはりゲームに由来する。
例えば素材を採ってきてほしいというクエストがあったとする。
クリアまでに必要な素材が、たとえ重量制限を軽くオーバーするほど大量だったとしても、その素材は簡単に引き取りが終わってしまうし、「どこに行くか」なんてわからない。
なにしろゲームにおいてはただのデータ。
やり取りをした端から消えていっても、なにも問題はない。
このクエストが二人を成長させるのが目的ならば、なおさらだろう。
練習台になったゴブリンの体なんて、後はどうにでもなってるだろうと。
もっと言えばもうクエストクリアで、処理はあっちの仕事になっている。
この前の山賊退治で、人間を焼き尽くす処置をしたのは、ケンはそこまでがクエストクリアに必要だと思っていたから。
ケーキを美味そうに食べるケンにとって「話」はそれで終わり。
「そう、かな」
小さくかじるミヤにとってはそうではない。
だがそれ以上をいうこともできず、もそもそと彼女はケーキをかじりつづけた。
魔法って、こんなものばかりなのかな……。
彼女の本来の年頃であれば、魔法とは生活を変えるもの、彩るものといった物語の方が身近なはず、だった。
たとえば、不思議な世界に連れて行く。
たとえば動物に変身する。
何か悪いものと戦うことになったとしても、美しいドレスめいた姿に変身する。
夢があって、美しくて、それでいて日常の隣にあって、いつか普通の女の子に戻れるような……。
だが幼い少女がそこまで考えることはない。
だから彼女はよりどころとなる物語を思い出そうとした。
甘い、夢のような色合い。
リボンやフリル。
きらきらする宝石のついたステッキ。
すんなり伸びた手足―――彼女からすれば―――大人っぽい、憧れの少女たち。
お料理だってクッキーやマカロン、オムライスにハンバーグといろどり豊かだ。
ケーキにだってクリームやチョコレート、果物が宝石のように飾られていて。
空飛ぶホウキに、大きなつばさ。
かわいいマスコット……。
ケーキを食べる動きさえも止まって、まるで虚空を見つめているようなからっぽのまなざしになっていた。
……思い出せない。
ねぇ。なにがあったっけ?
わたし、毎週たのしみにしてたの。
ともだちと、ごっこしてて、だれをやるかとりっこして。
おもちゃ、キラキラしてて、ほしくて。
おかあさんにかってって。
おかあさんは、だめっていってた。
おかあさん。おかあさん。
おともだちの顔もおもいだせないよ。
わたしがほしかったあのおもちゃ、どんな形してた?
わたしがやりたかったのは、だれ?
青色だったのは、おぼえてるの。
……紫色だったかもしれない。
おかあさん、おかあさん……たすけて、上手におもいだせないの。
「ミヤ?」
わたしは、ミヤって名前、だったっけ?
「どうしたんだ、大丈夫か?」
問いかけながら、ケンはその肩にふれた。
たったそれだけの接触なのに、ぽとりと膝の上にケーキが落ちる。
ゆっくりと彼の方を見たミヤは、ひどく疲れたような顔をしている。
「ミヤ? どうしたんだ?」
「ごめんね、わからないの」
ぎょっとしたケンの目の前で、ミヤはケーキを気にすることも無く、体を丸めるようにして横たわった。
思い出したようにケンが彼女の額に手をやると、見様見真似の動きだけの彼にもわかるほど、熱い。
「大変だ! ミヤが熱を出した!」
慌てて彼は箱馬車の外へと壁を叩いて知らせた。
『クエスト』の最中以外、彼らは馬車の外に出ることを許されなかったから。
◇◇◇
そのまま二人は馬車から出されることなく『王都』へと連れ帰られた。
特に処置らしい処置を受けることのなかったミヤも、レベルアップの部屋から出るとすっきりした顔になっていた。
やっぱりレベルアップはHPも回復するし、状態異常だって治る。
もちろん、ケン自身の怪我も治っている。
今までと同じその効果に、ケンはほっと安心した。
回復魔法が無いパーティーなんてにいちゃんたちの縛りプレイみたいで難しいから、嫌だ。
そうケンは思っていたけれど、レベルアップのタイミングがあえば何も難しくないし、かえってハラハラがおもしろいかも……そう思えた。
「そういえばミヤ」
部屋に戻って、あらためて届けられた次の課題をぱらぱらと開いて、ケンはミヤに話しかけた。
「熱で倒れる前、どうしたんだ?」
ミヤはといえば勉強の道具を取り出していたのだが、その声に動きを止めて小首をかしげた。
「なぁに? なんの話?」
「だってほら、わからないのって」
それでもミヤは不思議そうなまま。
「そんなこと、いってないわ」
「……そっか」
そのときケンが思ったのは、ミヤが嘘をついているというものではなく、なんだミヤは寝ぼけてたんだな、ということだった。
……少しずつ少しずつ、自分たちを蝕んでいくものに、気付かないまま。
読んでいただきありがとうございます。




