物騒ガールズトーク
「えー? そっちもなの?」
もしも人形の表情を変えられるなら、私は目をまんまるくしていただろう。
私はミラエステルとのお茶会で、彼女の森にも、あのわけのわからないゴブリンが行っていたのを知った。
「ええ、幸いすぐに森の者が対処してくれましたわ」
ただ、私が聞く限り彼女の方に行っていたゴブリンの方がとんでもなかった。
私の方のゴブリンは、せいぜい人と同じくらいの身の丈。
彼女の所は、もとの三倍ほどもあったという。
そのうえにそんなのが五体。
「私のところよりおおごとじゃない? 大丈夫だった?」
「ええ、お気遣いありがとうございます。幸い、被害もほとんどなくて。軽傷の者ばかりでしたから」
元の大きさの三倍ともなれば、単純に計算してもその腕力だのは元のゴブリンとはケタが違ってくるだろう。
それを五体。
「……どう思う? 私、アレの構造そのものは普通のゴブリンと変わらないようにしか見えなかった。ただ、全体的に巨大化して、身体がその大きさに耐えられるようになってるだけ」
「ええ、私の方でも調べてみましたけれど、同じ結果ですわね。巨大化しただけ。でも、やはりおかしいと思いますわ。まるで作り物のよう」
「そうよね。大きくなるにしたって限界ってものがあるはずだし、行動がおかしいもの」
動物の体格を考えるとわかりやすい。
爬虫類なんかは生きている限り成長を続けるというけれど―――だからたまさか、巨大な個体が発見されて騒動になる―――、哺乳類は種族の平均値あたりの大きさに収まる。
そりゃ、犬でいうならゴールデンレトリバーとチワワじゃ違いすぎるけど、ゴールデンレトリバーとチワワ、それぞれのグループ内なら「だいたいこんな大きさ」くらいのもの。
並外れて大きな個体が生まれることは当然あるけど、ゴールデンレトリバーの大きさのチワワなんてまず生まれない。
そういうことだ、と私は理解していた。
それとはまた別に……
「ええ、こちらでも同じでしたわ。ゴブリンといえば、ときに人間をだまし討ちにする立ち回りもできるというのに、まるで犬か……いいえ、むしろあれは鼠の行動でしたわね」
逃げるのはもちろん、様子を見るときの動き、攻撃に転じる際の動きは威嚇も含めた決死のそれだったとミラエステルは説明してくれた。
こちらの場合は人間が怯んだとき、かさにかかって襲い掛かったことを伝える。
考えれば考えるほど、そして知れば知るほど、あれは不気味の塊だ。
解剖した後、そのままスライムたちに後片付け任せちゃったけど、変な成長したりしないか今更不安になってきた。
「でもこれ、私たちだからなんとかなったのかも。統率はとれてないし、振る舞いも獣だけど、大きいのと力が強いってだけで十分脅威よ」
「そうですわね。ああは言いましたけど、アレが生み出されているなんて考えたくもありませんわ」
私の方にやってきたのは王国の正規兵だったことも伝えてある。
彼女の所にゴブリンを置いていった馬車を追いかけたものの、途中で巻かれて決め手になるものがなかったらしい。
これは有益な情報だったようで、喜んでもらえた。
「ただ、生物兵器としては不合格よね。やらせられるとしたら勝手に暴れさせることくらい」
「むしろそのためのものかもしれませんわ」
気づいた、とミラエステルが目を瞬かせる。
「森の端にあれを放った人たちは、結果なんて知るものかと逃げてしまいましたもの」
言われて、ぞっとする。
たとえばあんなのが……そう、ゾトたちみたいなコボルトの鉱山街に放たれると考えたら。
コボルトたちは決して怯まないだろうが、灯りが無くてはならないぶん、コボルトたちには戦いが不利になりかねない。
多勢に無勢というけれど、鉱山街のつくりからして、大勢で対処するというのも難しいかもしれない。
その上で、じゃあそれが人間の村だったら……なんて考えたくもないが、『ジェヴォーダンの獣』とか『三毛別』、『ジョーズ』なんて言葉が頭をよぎる。うわぁ。
「そう考えると……うちのは、あれがコントロールできるかを試していた面があるかも。まだ小型といえそうだし」
正規兵の得物は捕物に使うようなもので、しかも長柄だったのは、これで説明がつく気がする。
同じ運用法であると思うからわからないんだ。
違う用法であるとするなら、別の見方もできる。
勝手に暴れさせるやつと、ある程度動きを押さえて方向性をもたせるやつ。
二人そろってうなずきあう。
お互いにヒト、モノを動かす立場ではあるけど、逆に自分がやってないことは想像の外にあるものね。
「しかしこれからもああいうものを、となると厄介ですわね」
「正直、臭いにおいは元から断つのが一番って気になるんだけどね」
ただ、相手は『国』だ。
その後を考えると戦争にしかならない。
それはミラエステルも同じだったらしく、困った顔で小首をかしげて、軽くうなずいている。
正直、困った彼女も目の保養ということは黙っておこう。
変な事ばっかり覚えて帰ってきたってシオリに嘆かれそうだけど。
「ひとまずは様子見しかありませんわね」
「そうね」
なにしろ私たちは居を構えている側だ。
そこに攻め寄せるのは向こう側。
なにごともなければ、ダンジョンの外には手を出さないのが私たちの暮らし。
と、ふとミラエステルの様子が気になった。
何か言おうとしてる?
身振りでうながすと、彼女はそれでも少しためらったあと、口を開いた。
「あの国、ナオさんを元の国から攫った国ですわよね?」
「ええ、例のあの」
「ゴブリンに獣の精神を入れたモノ、と考えることはできませんかしら? ゴブリンの形にするのではなくて」
「でも、ゴブリンってあそこまで育たないはず」
とはいえ、ゴブリンの形に整形するよか、そっちのほうがよっぽど有りえるように思えるのもたしかだった。
そう、彼女が見つけてくれたあの禁術を用いるならば。
でもやっぱり、何もかも想像の域だ。
「ひとまずあの国への警戒を厳しくしますわね」
「ええ、また何かあったらお知らせするから」
ダンジョンの体に意識を戻しながら考える。
ああいったものを造る理由を。
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