侵入する闖入者
びっくりはしたし、混乱もした。
だけどそれでパニックになるわけにはいかない。
私は心の中で足を踏ん張る。
さて、どう対応しよう。
んー……庭園の入り口はちゃんと閉じてあるから大丈夫だとは思うんだけど、あのゴブリンもどきだかデカゴブリンだかに私の注意を向けさせといて、ダンジョンの中を探る、ってのはありそう。
ひとまずゴブリンそのものは回遊型の警備ゴーレムを当てればどうにか対処はできそうだ。
エントランスから先に入って来ようとしたら即捕捉できるように、一階のゴーレムは起動させておこう。
で、私は人間の方を注視しておくか。
一度片目の視界を見張り一号に固定して、考えた準備を済ませておく。
回遊警備ゴーレムの起動、おわり。
念のため、庭園の入り口はいつもの魔力での鍵を二重ロックにしておく。
私がエントランスから角ひとつ曲がった部屋に身を隠したころ、男の声が聞こえた。
……ただ、それは潜められたもの。
以前のような訪れを知らせるものではない。
「よし、入り口に宛がえ」
緊張もあらわな声に続いて、金属音がした。
私が見張り一号を介して見ると、入り口にあの檻が押し付けられている。
その向こう側には何も見えない。
少なくとも、あの檻より入り口は大きかったと思うのだけど。
何かで覆って塞いでいる、とわかったときには、檻が開いていた。
軋む音とともに開いた扉をくぐって、ずるりと抜け出してくると、ゴブリンは鼻を空中に向けてうごめかした。
見張り一号の視線には気づかないままで、ゆっくりとデカゴブリンはエントランスを見回している。
なんだか様子がおかしい。
動物……動きが、ゴブリンっていうよりも知らない場所に来た動物と同じだ。
突然がしゃんと檻が鳴らされて、怯んだようにゴブリンは私のいる方とは逆側の奥へと走って行ってしまったのだけれど、そのときも手を床についていた。
あっちには警備ゴーレムもいるし……私は人間の様子の方が気になった。
しばらく、奥から聞こえる音を無視していると、檻が入り口からはずされた。
その時点で、塞いでいたのが布とわかった。
そっと様子をうかがうように、布の間から男が顔とともに、灯りをともした松明を差し入れてきた。
あ、そっか。
前にゴブリンが侵入してきたときは灯りを持ってたけど、さっきのでかいゴブリン、暗視できるのか。
ていうより……道具を使えるような様子じゃなかったな。
「行きましたぁ」
「油断するなよ」
そのまま男たちがぞろぞろと入ってくる。
何する気だ?
例の揃いの鎧の二人も含めて、おおよそ全員が入ってきたようだった。
男たちももちろん何も武装していないわけはない。
盾やら剣やら持ち込んでいる。
そんな中で揃いの鎧の二人はむしろ棒に近い、さすまたとかそんな感じの長物を携えている。
武器っていうより鎮圧用の長物だ。
「よし、魔石を見つけたら回収しろ。盗むなよ」
リーダーらしい男の声に、気の無い返事が返る。
あんまり乗り気じゃないらしい。
あ。あー、はいはい、こいつら、たぶんまだ「ここのゴーレムはほぼ全滅してる」で、情報が止まってるんだ。
修理一号がナオと一緒にいたけど、それ以外のものは見てやしないんだから。
手に手に松明を持って、男たちはエントランスに散らばるが、正面の壁であるところの、庭園の扉には誰も注意を払っちゃいない。
うん、たぶん、ナオの友だちも、誰にもこの扉の開け方は教えなかったんだろうな。
それか、何か勘違いしてるか。
そう思ってたら、遅れて揃いの鎧の二人が扉に近づく。
ああそういえば、この二人はたぶん国の正規兵で、残りの大半は傭兵。
こいつらは知っていてもおかしくないか。
「……しかしなぁ。鍵を持ってるゴーレムなんて、あいつらがもう倒したんだろ?」
「開きっぱなしだと思ってたんだけどなぁ」
何いってるの? 鍵?
この扉、ある程度の魔力を流すと開くようになってるはずなのに。
(とはいえ、今は二重ロックかけてるから、それだけじゃ開かないけど……)
それよりゴーレムが鍵持ってるとか。
私たち、地球のゲームみたいにアイテムドロップしないんだけど!
あまりに的外れな行動と、予想していなかった言葉に困惑する。
なんなんだぁ?と考えて、私はようやく、シオリもここのゴーレムたちも、壊したのはナオたちだったことを思い出した。
そう、地球のゲームの知識を持っている子たちだ。
その子たちからすれば、ゴーレムを上手く壊せば取れる魔石はドロップアイテムだし、もしそれをキーアイテムだと思ってたりしたら、中の魔力を使う事で扉を開くことはできる。
この推測が正しいかはわからないけど、【ボスキャラ】であるところのシオリを壊した時に魔石を採ることができた、あるいはシオリの持ち物に魔石があったら……いかにもなアイテムにも見えるだろう。
私はつらつらと、警備のゴーレムを思い出す。
……そうそう負けるスペックとは思わないけど、あの子たち、……本気出すと相当強い、ってことよね。
考え込んでいるうちに、例のゴブリン的な何かが接敵したらしい。
甲高い叫び、というより鳴き声があがる。
にわかに男たちは緊張し始めた。
だだだっ、と重い足音とともに、ゴブリンがエントランスに飛び込むように戻ってくる。
続いて、腕を振り回す警備ゴーレムがその場にあらわれた。
腕をかわしながら、必死で走ってきたらしいゴブリンは、狭い所は不利と判断したんだろう。
ちょろちょろとエントランスを逃げ回る。
それを追うゴーレムは、周囲にいる男たちを気にすることも無く、まっすぐゴブリンを狙う。
あ、まずい。
私は一旦、見張り一号とのリンクを斬った。
そうたいした相手ではないけど、あの人数だ。
ゴーレムのターゲッティングがゴブリンに集中している間に、総攻撃されるとまずい。
プログラムミスった!
私は急いでエントランスへ、角ひとつ向こう側へと足を動かした。
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