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奥津城守の帰還  作者: みかか
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実家の人手を増やしたい!

前の話と一部状況がかぶります。

 だめだこりゃ。

それが共食い整備をしばらくやってみて、もとい、やってみようとした正直な感想。

整備室で頭を抱えている私の目の前には、一階を回遊させてた警備用ゴーレムのなれの果てが山のように積んである。

これ、一体何人分だっけ?

いやぁ、ここに来た連中、めちゃくちゃ丁寧に行動不能にしてくれてる。

再起不能が多すぎる!

胴体をやられたのと、頭をやられたの、どっちもやられたの、そもばらばらになったの、砕けたの……どんな暇人がここにきたんだか。

ゴーレムの群れ相手に、完全破壊狙うなんて。

実はコレですら、まだマシな方。

上に上がるに従って、最適解に近づいていったらしくて、上階は頭潰れてるのばkkり。

で、そんな状態なものだから、使えるパーツなんてほとんどなかった。


 共食い整備なんて、使えなくなった箇所がバラバラな時にしか使えないってことなのね。

損壊箇所が重複しまくってたら、そりゃ足りなくなるわ。

いっそ胴体削って頭に……いやいや待て待て!

それやったら今度こそ絶対数が減る!

頭いたぁ……。

ちょっと、休憩しよう。


「世話になった、ありがとう」


 整備室を出て一階を歩いていると入り口近くでコボルトに声を掛けられた。

十日くらい前、ここに来た時にはぼろぼろだった一行は、一度安全に休みを取ったらみるみる回復した。

私ができてない庭園の整備をしてくれるっていうから延泊の許可したら、その次の日から動ける者から外に狩りに出かけていたし、バイタリティすごいね、コボルト。


「なんとかなった?」


 彼らの旅立ちの準備が終わりかけているのは知っていた。

日々、庭園の扉のすぐ内側に、荷物の包みが増えて行っていたから。

それに、彼らの道具や身にまとうものもだんだん良くなっていたし。


「ああ」

「この先は?」


 一回受け入れた人たちの事だ。

先が気になるのは当然だし、それにこの人たちは義理堅い性分のようで、皇女殿下にも日々礼儀を欠かしたことは無かった。


「北の鉱山に親族がいるから、そこを頼る。あちこちのコボルトの鉱山にも伝えないといけないことがあるし」


 そこがどれくらいの規模かはわからないが、今回の十人くらいの一行なら受け入れられるだろう。

ゴーレムの数に余裕があったら、一体くらいは護衛につけてあげたくなるくらいには、私は彼らを気に入っていた。


 ふと、鉱山という行先と、自分の悩みが結びついた。


「ひとつ、聞きたいことがあるのだけど、この魔石で石を買うことはできる?」


 お金があっても店が無い……店、いた! いる! 今ここに!


「へ?」

「このダンジョンには、私以外のゴーレムがいない、というか、壊された。いろいろやってみたけど修理はできなかった」


 こういうときは正直に話すに限る。


「だから、大きい石がいる。一抱えくらいの石がたくさん」

「鉱石じゃなくて、普通の石でいいのか?」

「石でいい」


 シルバーゴーレムとか、アイアンゴーレムとか、強そうでいいんだけどね。

なにしろここには原材料を加工できるだけの設備が無い。


「搬送はどうするんだ? 北の鉱山はここからかなり遠い」


 それもちゃんと、今考えた。


「簡易ゴーレム作成用の魔石を、代金とは別に用意する。ひとのかたちに並べて、頭に当たる部分に付ければ、あとはこっちに歩いてこさせるようにする」


 原材料を運ぶのが難しいなら、勝手に歩いてこさせればいい。

複雑な命令(オーダー)じゃないからすぐ準備できるし、石だけのゴーレムなんて襲ったりしないでしょ。


「代金はこっちの大きさの魔石。ひとつで一抱えくらいある石を五つ」

「それじゃ貰いすぎだ」


 相場がおかしかったらしい。


「だったら質のいい石で。硬いものがいい」

「その条件でだって、三倍だ。十五個。これよりは減らさないし、できるだけいいものを探す」


 うーん、やっぱり律義者だな。


「良い取引だった。感謝する」

「しかし、先払いでいいのか?」


 ゾトが心配そうに言った。

彼等からしてみればぽんと大金を出されたようなもんだし、そも今まで取引の無い相手だしね、信用されすぎて居心地が悪いのだろう。


「皇女殿下に花の捧げものを欠かさない律義な者たちを、疑う理由がどこにある?」


 毎晩、小さな花が東屋の階段に置かれていた。

この庭園には無い、外の花だった。

旅の準備で慌ただしいだろうに、彼らは皇女様に毎晩花を忘れることは無かった。

……他者から見れば、他愛もない出来事。

とはいえ、私には決定的なこと。


「信用してくれたこの取引に、俺も感謝する。魔石があれば、北に避難してからの生活の柱にすることができる」

「では、道中気を付けて」

「……ありがとう。必ず向こうに着いて、石を送る」


 ゾトの表情は……犬族のそれはよくわからないと言われているというのに、喜びがありありとわかるものだった。



 ゾトを先頭にして、コボルトの一行はダンジョンを出発していった。

北に有るという鉱山までどれくらいかかるかわからないけど、きっと無事に到着できるだろう。


 で、私には山積みの仕事が残った。

ひとまず一日かけて二階のゴーレムの残骸を調べ、沐浴を終えて皇女様のもとへと向かった私が見たのは、たくさんの花が供えられた東屋だった。


 な、なにやってんの!

今日あんたたち出発当日だったんでしょ?

忙しいはずなのに、なにやってんの!


 思わず私は両手で顔を覆った。

表情が変わるはずもないのに、にやけてしまいそうな、いや、にやけてしまえそうな気がしたから。


「皇女様。……いい人たちでしたね」


 そっと、私はそれを抱え上げて、墓碑の上へと一輪一輪、置いた。

たぶんやわらかいだろうそれの感覚は、硬い指からは伝わってこない。

それでも私はひとつひとつ、それらを触っていった。


 ふと、とうとつに思い出した。

私が戻って来た時、墓碑に載っていた萎れた花。

あれは、誰がやったんだろう。

『私』は、私たちは、花は捧げない……。

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