ふたりぼっちの物語 3
せえの、とケンの放つ炎は易々と男たちを呑んだ。
悲鳴は途中で切れて、後は放っておくばかり。
全部きっちり燃やし尽くさないと、獣が寄ってきてしまうと教えられたことを、ケンはしっかりと守っていた。
この人たちはお墓も作られないのだから、せめて食べられないようにしなきゃ。
ゲームなら、倒しただけで済むのに、ゲームの中にいるといろいろ大変なんだな、というのがケンの感想で、でもそれだけだ。
だって相手はゲームの、しかも倒さないといけない敵キャラなんだから。
それに。
彼はそっと後ろをうかがった。
ミヤが後ろで目を閉じ、耳を塞いでやりすごそうとしている。
自分より年下だし、女の子だし、ゲームをやったことも無いっていうんだから、……ということをケンは知っていた。
たぶんこの世界に向いていない子が呼ばれちゃったんだ。
そういうストーリーのゲームもときどきある。
でもここで邪魔にしちゃうと、後半でラスボスに乗っ取られたり、闇堕ちして面倒くさくなったりする。
しかも倒すとバッドエンド直行がお約束。
だからこの子は絶対闇落ちしないようにしなくっちゃ……。
そんなケンの思惑など知らず、ゆっくりとミヤは塞いでいた手を外した。
なんの「嫌な音」もしないとわかったのだろう、瞼も開く。
「大丈夫だよ、終わったよ」
そのケンの声に、ようやくよたよたと彼女は立ち上がった。
立ち上がるのに手を貸してやりながら、これからも人間相手だと自分がやらないといけないんだろうなとケンは思った。
範囲魔法、早めに覚えておいてよかったな、とも。
覚えてなかったら、もっと面倒くさくって助けるのやめてたかもしれない。
「あのね。……ごめんなさい」
小さな声のミヤの謝罪に、ケンは飛び上がりそうになったのを必死で誤魔化した。
自分の思考―――さすがに、小学校に上がったばかりだってそういうのは「悪い」ということはわかる―――が読まれたかと思って。
忘れてはいけない。
ミヤはノンプレイヤーキャラクターじゃない。
ネットゲームのように、ミヤはプレイヤーキャラクターなのだから。
「こわいひとがいると、わたし」
「いいって! 他の奴ら相手なら戦えるんだからさ!」
そう、人間相手以外なら、ミヤはちゃんと戦える。
なんなら、ケンより強い魔法だって使える。
……そういう特性のキャラだと思えばいい。
「もう『お城』に戻ろう。俺たちのやること終わったから」
「うん……」
今回はそんなに大変な仕事じゃなかったから、レベルアップはしないかな、とケンは思う。
どうやら経験値のようなものが入るのはパーティーごとらしく、どんなにケンが頑張っても、あるいは逆にミヤの方が倒した数が多くても、レベルアップは必ず二人一緒だった。
申請してレベルアップするシステムなのかもしれない。
どうせなら。誰にも知られないようにケンはため息をつく。
二レベル三レベルとはいわず、五レベルくらいまとめて上げてくれたらしいのに、痛いんだ、あれ。
正直、いま日本に戻ったら、歯医者なんかヨユーでクリアできる自信がケンにはある。
◇◇◇
馬車に戻ると、用意されたご飯を食べ、あとは眠るだけ。
予習と復習はするけど、お仕事をした日はやらなくてもいい。
その気楽さをケンは気に入っていたのだけれど。
「おうち、いつになったら帰れるのかなぁ」
ぽそ、と途方に暮れたようにミヤが呟いた。
「おかあさん、心配してるだろうな」
ときどき、そんなことをミヤはつぶやく、
楽しい仕事の時はいうことはないから、やはり今回はハードだったのだろう。
手に持っている、夕飯の具材挟みパン―――これをサンドイッチ以外で呼ぶ名前を、ケンは知らないままでいる―――も、かじりかけで、疲れているんだろうなぁとわかる。
今回はケンばかりが魔法を使っていたはずなのだけれど、と思いはするが、これもイベントだと割り切る。
……だって、下手な対応したら後で不利になるとか、よくあるイベントじゃないか。
半分くらい食べて、そこで口の中のものを飲みこみながらケンは考える。
ありそうな選択肢、それもよさそうな選択肢を。
「大丈夫だよ、俺たち心だけこっちに飛んできたみたいなものだし、帰ったら一分も経ってないって!」
だから心配いらない、と。
この世界には魔法がある。
人間だって生き返らせられる魔法だってある。
だったら……自分たちをこの世界から帰すときにも魔法を使ってもらえばいい。
そうすれば、自分たちには冒険の思い出がたくさんできるし、なにも問題はない。
だけど……ケンを、ミヤは見ていなかった。
どこか遠い目をして、ぼんやりしている。
見つめる先には、馬車の壁しかないのに。
どうしよう、選択肢間違ったかな……。
でも前は、ミヤと話すの、こんなに苦労してなかった気がするのになぁ……。
しかしケンは首をかしげるのを早々にやめて、食事を再開した。
ミヤが落ち込むのは、レベルアップするまで。
レベルアップするときのあの痛みが、細かいことをどうでもよくさせるのか、部屋から出るころにはミヤの機嫌も必ず上向きになっているし、今回の落ち込みは酷いからそれに任せようとケンは決めた。
残り半分のパンを食べてしまうと、彼は毛布にくるまって、床の長クッションの上に横になる。
馬車旅の間、寝起きや座るのにと与えられた長クッションのおかげで、普通に寝られる。
「大丈夫だよ、クリアすれば帰れるよ」
返事を待たず、ケンは目を閉じた。
倒せばいい魔王はどこにいるんだろうと、そんなことも考えながら。
ゲームで遊びたい人間もいれば、そうでない人間もいる。
ケンはまだそれがわからないくらいに子どもであったし、ミヤも遊びに誘われた時その遊びが嫌でも他を言いだせばいいとわからないくらいに子どもだった。
読んでいただきありがとうございます。
まだ子どもですからね…。




