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奥津城守の帰還  作者: みかか
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少女の物語 2

今回短めです。ナオがひっそりと自主練

 ナオは森の中を、道具を片手に淡々と歩いていた。

魚を獲るための、彼女の身体に合わせた銛と、木の皮を編んだ小さな籠だ。

その後ろに大柄なゴーレムがゆっくりとついてきている。

ゆっくりと、とはいえ、一歩一歩の大きいゴーレムだ。

ナオから離れることはない。

このゴーレムは彼女の守役で、森の中で狼やなにやらに襲われたらすぐに腕を伝って肩まで逃げなさい、と「おねえちゃん」に言い聞かされていた。

そのようにプログラムしてあるから、と。

実際、一度狼の唸り声がしたときに慌てて上に逃げたら、ゴーレムは肩の上のナオをかばいながらダンジョンまで戻った。

それ以来彼女はできるだけ、狼のいそうな場所は避けるようになっていた。


 森を少し歩けば、彼女の糧になる魚が獲れる川に出る。

漁もそうだけれど、生きている人間であるナオは、一日一度は外の空気を吸った方がいい、と「おねえちゃん」が彼女を外に出している。

この外出と、「おねえちゃん」からの授業、その他もろもろをしていると、時間はあっという間にすぎる。

お風呂に入って一日を終えるのは日暮れで、ご飯を食べて、お墓の前での「おねえちゃん」の子守唄や物語りを聞いていればそのうち瞼が重くなり、一日の始まりの夜明けに至る。


 それはたぶん、大人からすればどうしようもなく単調な日々だろうが、ナオにとっては楽しい毎日だった。

ただ、楽しければ楽しいほど、ナオの中で『お城』に残してきた二人が大きくなっていく。

自分よりもよほど地球へ帰らせたい二人。

最後に見た時、ミヤは酷く怯えていたし、ケンは仕返しの為なら無茶をしそうなくらい、手ひどくやられたことを悔しがっていた。

……ケンは無茶をして自分が死んだら、自分以外の誰かが死ぬ事を知らない。

ミヤは本来、痛いのなんて嫌だと言っていた。

自分が死んだら、自分以外が死ぬことも嫌がるだろうな、とナオはあの子のやさしさを知っている……。

だが、『お城』の環境は、それを知ることを許さない。

自分が逃げ出したことで、より閉じ込めは厳重になっているだろうことは、窓から落ちた一件以降のことでナオにも想像はつく。

だからこそ、あの時が逃げ出す最後のチャンスだったのかもしれないと思うし……あの時、もし三人でおじさんに頼っていれば、逃げ出せたかもしれないとも考えてしまう。

それが無理だったんだろうな、ということもわかっているけれど……。

思考はぐるぐる、同じところを廻る。


「どうしたらよかったのかなぁ……」


 川に到着すると、ナオはサンダルを脱ぎ、スカートの裾を腰ひもに手挟んで、銛を構える。

ここの川の魚はダンジョンの近くで人を知らないせいか、ナオがしばらく動きを止めているだけで油断して近くまで寄ってくる。

そこを一刺し。簡単なものだ。

獲るのは一尾だけだから、魚も警戒が薄いままでいるのかもしれない。


 その一尾を籠に入れ、ナオは川端の大き目の石に腰掛けた。

魚を獲るだけなら、大した時間は要らない。

これからほんの少しだけ、『外』で内緒の特訓をする。

ナオはそっと呼吸を整えると、喉の奥からグルルルルルと鳴らすような音をさせはじめた。

氷のドラゴンが教えてくれた、ドラゴンの発声法。


 ナツノカザハナというあのドラゴンは、名残を惜しみながらもおつかいをするのだと再びコボルトたちの鉱山へと飛んでいった。

去り際に、「どうすれば強くなれるか」という聞いたナオに、彼は置き土産としてその方法を残して行ってくれたのだ。

ドラゴン独自の魔法をひとつ。

……以前、自分を凍らせた相手だけに、ナオはドラゴンに対して苦手意識もあったのだが、相手はまったく気にしていないことに、否応なく格差を見せつけられた思いだったが、当のドラゴンはといえば「代りにエレイラナと仲良くしててほしいな」といたってにこやかなものだった。

交換条件については、ナオに不満はない。

お姫様とお話するときはお行儀よくね、と「おねえちゃん」は言うけれど、細かい事は特に何も言われなかったし、話をしていても後で叱られることもなかったから、今までどおりでいいのだろうと。

お姫様であるエレイラナはおっとりしていて、ナオの話すことにうんうんとうなずいたり、後で「あれはどういうもの?」と訊いてくるから、……仲良くできてはいるのだろう。


 どうしたらよかったのかと、過去の悩みの答えは見つからない。

だけど、だから助けに行けるくらい強くなりたいというナオの願いには、ほんの少しだけ希望が見えてきている……。

グルルルルルと、発声練習を重ねるナオの正面、川の向こうで茂みが揺れた。

読んでいただきありがとうございます。

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