誰かに伝えたくて仕方なかった
皇女様は……まるで甦ったようであったけれど、そうではない。
そのことを、私はまじまじと知ることになった。
実体はあるようで無く、たとえていうならモヤに色を付けたというか……。
触ることができるのはドラゴンだけ。
でも声はある。精霊のようなものだろうか……。
私はそんなことを、お人形ゴーレム、おしゃべり一号越しに夜のお茶会でミラエステルに話した。
さすがにお出かけ一号をテーブルで動かすのはもうしわけなくて、木でパーツを彫り上げたものを石化させて人形らしいゴーレムを作った。
修理に使うための魔法を無駄遣いしている罪悪感はあったけど、地球でいうところのキャストドールのような仕上がりそのものは、自慢したくなるようなできのものになった。
これならお茶のテーブルの上で動いてても、そうそう違和感はないぞ、と。
ミラエステルも気に入ってくれたのか、気付いた時にはこの体に合うドレスを着せてくれて、目が合うなり「似合いますわ」と笑いかけてくれた。
人間として育てた乙女心とか少女心が、大喜びしてしまったのはナオには秘密にしときたい。
閑話休題。
「まぁ……まぁまぁまぁ! ドラゴンはそのようなこともできますのね!」
「皇女様が御声を出せたことに、本人が驚いてたからどこまでやってるのかはわからないけどね」
何回かの置手紙を経て、私たちはある程度砕けた話し方ができるようになっていた。
おしゃべり一号の出力を振り替えて、非力にした代わりに会話ができる能力を付与したのが大きかった。
文通は情報を整理して渡せるけど、おしゃべりするには情報量が多くなりすぎてしまう面もあるからね。
「でも伯父が聞いたらすごく喜びそう……。そういったものに目が無いの、ご存知でしょう?」
「あー。伯父さんにはご迷惑かけちゃって」
「お気になさらないで。毎日すごく楽しそうなのですもの。今日はまだわかったところまでですけど、もうすぐ全体の結果をお伝えできますわ。その後で教えてもかまわないかしら?」
「もちろん。もっと何かお礼できたらいいんだけど」
「いいえ、とんでもない。あのボディをいただけただけで過分なくらい」
『魂を取り扱う魔法』……邪法について、ミラエステルは魔法に堪能な伯父さんに調べてもらっていた。
実はお役御免になったお出かけ一号は、そのお礼としてミラエステルの伯父さんの手元に在る。
私が操作しなければからっぽだし、別に分解されても構わないという理由からだったけど、実物のゴーレムってたしかに貴重品ではあるのだろう。
喜んでもらえたようだった。
「それでは、今までわかったことをお伝えしますわね」
「ありがとう。お願い」
ミラエステルが手元のメモを繰る。
小さな羊皮紙をまとめたものみたいだったけど、かわいらしい布の表紙を付けられていてしゃれている。
「まず、この術は魂を移す先に、先に術を施す必要があるとのことですわ。相手に術を仕込んだものを持たせたり、あるいは体のどこかに刻みこんだり」
「もたせるのはいいけど、刻むって、もしかして」
「ええ。単に書き入れるだけのときもありますけど、確実にとなれば入れ墨、焼き印、そんなものらしいですわ……。まるで家畜にするよう」
もしかしたらナオは後者かもしれない。
何か特定の物を持って目を覚ましたとか、そんな話もなかったし。
と、したら……十五とかそこらの人間にむごいことを、と思う。
しかも十中八九、本人たちはそれを知らない。
……今度、お風呂に入れた時にでも確認した方がいいかもしれない。
あまりそういうことは、本人の了承なしではとは思うんだけど、……うーん。
「と、なると。移転先の設定を解除するには、その何かを消すなりなんなりになる?」
「ええ。それともうひとつ。こういった形の無いものを扱う魔法ですから、準備を重ねることで精度を高めるもののようですわね。特に、移転させられる側に自覚が無い場合などは、魂の誘導路を組み込むそうですわ。変な体に入られても困る、ということでしょうか」
「そういえば……『必ず同じ部屋で生き返る』って言ってたなぁ。その部屋が、誘導路の役割なのかも」
「魂を招き入れる部屋を作り、個別のしるしをつけてどの身体に入るかを確定させる……そう考えれば、複数の身体に、遠方からでも間違いなくそれぞれの魂を導き入れるためのルートを確立させている、ということですわね」
ミラエステルは唇に指先を当てて考えている風だった。
話題はすっかり『お茶会』とは不似合なものになっているけれど、私たちの手元にはそれぞれお茶とお茶菓子が用意されている。
私たち、つまり私にも、ミニチュアの人形用が。
小さなティーカップには、紅色のガラスビーズのお茶。
粘度でできた焼き菓子がお皿に並ぶ。
私たちの会話を見た、この城のメイドさんたちが作ってくれたもの。
食べられなくても、あるだけで嬉しい。
手持無沙汰なときは、ティーカップもってとりあえず手は塞がるし。
「もしかしたら、『レベルアップ』とやらで入れられる部屋と、出ていく部屋も、出入り口を誤魔化した別の部屋なのかもしれませんわね。身体を取り換えたことを気づかせないように」
「そうね。ナオの話を聞く限り、かなり行動を制限させてるみたいだったし」
ナオの話してくれた事柄も、情報として私たちは共有していた。
別に秘密にするものでもないし、追及には必要なことと思えたから。
中でも『レベルアップ』などの情報は、ミラエステル側には納得のいく情報であったらしく、疑問点の解消に役立ったようだった。
「そういえば、妹さんに今度干した果物もお送りしますわね」
「え、いいの? ありがとう。あの子どんどん痩せてきちゃって……甘いものがあれば助かるわ」
ナオはすでにミラエステルの中で、私の『妹さん』になっているらしい。
実際妹分だと私も思ってるから、問題はないのだけど。
その妹分を、この世界から助ける方法は……まだ、見当もつかないでいる。
読んでいただきありがとうございます。
女子たちの作戦会議ですね。




