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奥津城守の帰還  作者: みかか
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スライムは   を得る

 未知のモノを理解しようとするときほど、思考が激しくはたらくときは無い。

皇女の奥津城においてもっとも大きなスライムは、今まさに、理解しようとする行為のただなかにあった。


 スライムの思考はそもそも、自分より強いか弱いかだ。

自分が溶かせれば弱いモノ、溶けなければ強いモノ。

自分をここに連れてきたものも、普通には食べられないごちそうを食べさせてくれたのも、全部強いモノだ。

では、これはなんなのだろう。

スライムは、目の前にいる存在を思考していた。

たしかに、そこにいる。

けれど溶かすどころか、触れることもできない。

溶かせないモノは強いモノであるという理論に従えば、これはとても強いモノということになる。

かみさま。

スライムの語彙や概念にそれがあるかは、誰にも証明できない。

とりあえず、そのスライムが抱いた偉大なるもの、畏怖を抱くべきもの、自分とは存在の違うものへの気持ちをわかりやすく人間の言葉に直すと、「かみさま」だった。

そんな存在を前にスライムにできたことは、そのかみさまに潰されたりしないように、おとなしくしている事だけ。


 さて、スライムには目が無いので視神経は無い。

スライムには耳も無いので、聴神経も無い。

鼻も無いから嗅神経もない。

あるのは触覚だけ、と思われるが、逆にこの触覚がすべてを感じ取る。

たとえば聴覚。

声や音は振動ゆえに、それが体表に伝わることでスライムは「聞く」。


「プルプルさん」


 かみさまは、その存在しない手でスライムを撫でて、声をかけた。

その表面に触れる手が無いというのに、触れられた感覚があった。

その表面を震わせる声が無かったにもかかわらず、声は「聞こえた」。

しかも、それはスライムの内側に、弾けるように「聞こえた」。

その初めての感覚は己を脅かすようなものではなかったので、スライムは単純にそれを快ととらえた。


「いつも掃除をしてくれて、ありがとう」


 言葉は泡のようにスライムの中ではじけて、溶け込んでいく。

それは初めての快楽だった。

同族たちとともに、この空間の中でやっていたことは、このかみさまのためになっていたことだったのか……。

スライムは喜びに体を震わせる。

ちょっと大げさに言ってしまえば、デカスライムは今まさに天啓を得たのだ。

理解は知的快楽をも生む。

デカスライムは、かみさま本人も知らない所で、快楽を立て続けに味わってすっかりその存在に心酔してしまっていた。


 自分たちが食べることは、かみさまの心に添う正しい行いである。

同胞よ、食べよう。

不要な物、溶かせる物は、欠片一つこの空間に残すな。

ぴかぴかになるまで、溶かし尽すのだ。



 大きなスライムは同胞たちにもかみさまと出会った体験を広めた。

強いモノから美味しいご飯を得た個体はともかく、まだ思考をする域に達しない者達はプルプルと揺れるばかりであったが、そのうちに他にもかみさまと出会う個体が現れた。

そして大きなスライムが広めたものを理解した。

理解の快楽を得た。


 この奥津城のスライムは一度全滅している。

それゆえに、まっさらな思考に新しい考えは根付きやすかった。

かつ、『自分たちより強いモノは、かみさまとは戦わない』『新しく来た強いモノも、かみさまと仲がいい』『かみさまがやはり一番強い』、という事実があり、『かみさまが喜ぶ声は、体の中でぷちぷちときもちいい』という体験があった。

『かみさまにもっと声をかけてほしい。もっと喜んでほしい。もっときもちよくなりたい』というそれは、ある意味プリミティブな欲望と直結した信仰といえるだろう。

スライムたちの中に原始宗教が生まれた。


 かみさまへの信仰は、彼らスライムたちに働く喜びを覚えさせてしまった。

ゆえに、彼らは一層、清掃に熱心に取り組むようになった。

そして幸運にも、かみさまに「お声をいただいた」個体と共鳴し合って「語り合う」ようになった。


 いささか順番が前後してしまうが、信仰を失った神が落魄するのならば、信仰と祈りが神へと押し上げるということにならないだろうか?

かくして皇女の奥津城のスライムたちは「かみさま」と、その存在に祈ることを得て、「かみさま」は信仰と祈りを得た。

皇女の奥津城に住まうスライムの総数は……


 ぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷる………………。


問C、神が力を得るには、何人の信仰が必要か。

答C、算出不能。

読んでいただきありがとうございます。


と、いうことで……問Cの答えです。

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