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奥津城守の帰還  作者: みかか
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吸血鬼たちはつきとめる

 ロゼールが「まずは」と何冊か渡してきた本。

城に到着してそれを受け取ったアスターは、おもしろそうな顔でそのうちの一冊を開き、残りはテーブルに積んでいる。

ここは彼は誰の城の一角、普段はあまり使われない空き部屋のひとつであり、家具もテーブルとイスが何客かあるばかりの、つまりは長く使っても他の住人の迷惑にはならない部屋だ。

本の傍らにあるのは、メイソンが運んだ茶菓ひとそろい。

ミラエステルはといえば、自分の仕事をすませ、この部屋に籠ってからは同じように茶菓を供に書を開いている。


 禁術・邪法のたぐいなんてそんなに数が多いものでもないだろう。

ただ、そういった性質のものが通常の魔法書のような形で残されているということは、まずない。

―――それは、禁じられるもの、よこしまなものに対する遺し方ではないからだ。

ゆえに、この城でもそんな類のものはしっかりと封じられており、ロゼールがその開封の準備をしている間、待っていてほしい、と。

書庫の奥、鍵をかけれてていた部屋の前で、ミラエステルはそう言われ、そこまでにロゼールが書架から選んだ本たちを渡されたのだった。

無造作に抜いていたようにも見えたのだが、その本たちは同じような主題を持っていた。


「ごらん、ミラ」


 アスターが読んでいた本を示す。

その本も、また。

ロゼールが選んでよこしたのは、意外にも他愛ない伝説をまとめた本だった。

あるいはおとぎ話のようなもの。

地球でいうなら、オカルトな読み物のたぐいである。

与太話めいていて、しかしながら魔法のある世界ゆえに、地球人が考えるほどには軽くはない。

たとえば、神隠しの頻出―――魂を取り換えるような魔法など使いこなせるようになるまでに実験は欠かせないはずだ―――、たとえば、温厚な人物が暴君となった、あるいは逆に暴君が牙を抜かれたようにおとなしくなった―――中身が入れ替われば別人なのだから、当然だろう―――、そういう彼らの求める魔法が引き起こしたかもしれない事件が、たまさか伝説にはある。


「どうやらずいぶんと始まりは古いようだね」


 アスターが見つけたのは、魔法の帝国の落日間際。

そう、あの皇女の奥津城のゴーレムの生国が消える間際のできごと。

衰える帝国から何十人と人間が消えたというもの。

人間の消失などは他にもいくつか記述が見つかった。

無人になった船、村。隊商が消えることもあった。

だが、アスターの見つけた話が一番古く、そして消える寸前の目撃者がいたという……。


「村に入る前に足を止めたために助かった、という話になっているが、さて本来はどうだったんだろうね」


 ともかくも、その目撃者は村一つの民がばたりばたりと倒れていくのを見たという。

だが目の前の人間が倒れていくにも関わらず、誰も悲鳴を上げていない異様さに、目撃者はそれを見つめ続けるしかなかったのだと伝説は語る。

やがて、累々と倒れた者たちを睥睨しながら歩く人間が現れた。

身なりの良い老人たちが、倒れた者たちの顔や体を確かめ何かをしている。

……そして、老人たちも倒れたかと思うと、すぐそばの村人が起きあがった。

村人たちは老人たちから服を剥ぎ荷物を奪うと、ぞろぞろと歩いて行ってしまった。

目撃者はそのまま逃げだし、翌日改めて村を訪れると、そこには何も無かった。無くなってしまっていた……。

そんな話だ。

帝国時代の話が、おおよそ千二百年もの長きにわたって「そのまま」あるはずはない。

だが要素となっているものは変わっていないだろう。


「ありていに考えるなら、この怪談は実験だろうね」


 アスターはうんうんとうなずきながら話を進める。


「スポンサーを得ての、後ろ暗い実験だよ」


 帝国の落日。

それは帝政のたがが緩み、実力のある貴族たちが婚姻や根回しなどの「遠回りの手段」を捨てて、遠慮なく帝位に手を伸ばし始めた時代だ。

簡単に言えば、武力と戦争が手段になり、内乱が帝国内を乱しはじめた……そんな時代であれば、村一つ夜盗や戦闘の巻き添えでと、いくらでもいいわけがたつ。

老いた者ならば、逃げるなりするために若い肉体を欲するようにもなるだろう。

それまで栄華を極めていたならばなおさら。

そこに話をもちかければ……。

もしかしたら、実験はこの一度だけではなかったかもしれない。


「おまたせ」


 そこへロゼールが薄い箱を持ってあらわれた。

表面には金の鎖がかけられ、開かぬようにされている。


「これを出すまでにも二重の封があったものだから、遅くなってしまったわ」

「伯母様、それが……?」

「ええ」

「従姉妹殿、顔色が悪いな」

「大伯父上が厳重にかけていた封を解くのは、なかなか手間だったのよ?」


 後で薄荷水か柑橘水でももらいたいところね、とロゼールはウインクをして、金の鎖に指をかけた。

呪いが可視化したような黒い靄が湧きだす……ようなことはなく、蓋を開いても何枚かの羊皮紙と封筒がひとつ入っているきり。

ただ、封筒の表には「これを使うような者になるな」と、その場にいる三人ともに見覚えのある手跡で綴られている。

おそらく封筒の中身が、魔法の手引きそのものなのだろう。

封筒をひとまず箱に残し、ミラエステルが他の羊皮紙を取り出し、テーブルの上へと広げた。

解説、説明、対抗策、発動条件……。


「まいったな。大伯父さんはよほどこの魔法が嫌いらしい」

「当たり前でしょう? 大伯父上からすれば悍ましい以外のなにものでもないもの」


 それらはすべて封筒と同じ手跡。

それに苦笑しつつ、アスターは持参の石板を取り出して、羊皮紙を読みながら文字を綴る。

自分なりに解読をしているのだろう。

ロゼールも同じように解読をしているが、ミラエステルにはまだそこまでの魔法の理解力はない。

魔法そのものではなく、二人が欲しているのはその対抗策・対応策。

集中する二人を邪魔しないように、彼女はそっとその場を離れた。

お茶はすっかり冷たくなっている。

伯母には薄荷水、伯父にはタンポポの煎じ茶でも用意しよう、と。

読んでいただきありがとうございます。

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