彼らの物語 3
「すごい魔法だったな……」
ため息をついて一人が言った言葉に、残りの二人も頷いた。
ここ十日ばかり、彼らは寄るとさわると、そのことを口にしていた。
『王城』の一角、彼らにと与えられた部屋の中、ご褒美のひとつとして与えられた菓子をつまみ、果汁を飲みながらも思い出すのは『すごい魔法』のことばかり。
完全に心を奪われてしまったのだ。
コボルトがのっとった鉱山の、奪還作戦。
坑道を戦場にするコボルトは、暗がりも狭さも、そして入り組んだ坑道そのものも、武器にも防具にもする。
うかうかと入れば返り討ちになるぞと事前に言われて、彼らには先日手に入れた宝玉を先端にあしらった、大ぶりな杖が貸し与えられた。
それは、たしかに杖の形をしていたけれど、柄が三人の誰も握り切れないほど太かったし、長さときたら石突を地面に立ててすら、彼らより頭ふたつ上に先端があった。
きらきらと金色に光、ずいぶんと重たくて、三人で支えるのがやっと。
三人をこの世界に召喚した『賢者様』によれば、持てないのは三人のレベルが足りないから、であるらしい。
なるほど、杖を持ってきた騎士も四人で運んできたのだから、納得できるものではあった。
三人で一緒にならば使えるから、炎の魔法を鉱山の中へ打ちこめばいい……。
それが『賢者様』が三人に与えた策だった。
はたして、杖は彼らの魔法をおそろしい威力に変え、鉱山内部を水のように炎が満たした。
その代償のように、三人とも騎士たちに支えてもらわなければ帰りの馬車にも戻れないほどに疲れ果ててしまったけれど。
「もしレベルが上がって装備できるようになったら、アレ、貰えるのかな?」
「どうだろ。国宝みたいなもんだと思うよ、あれ」
「……わたしは、いいかな。なんだかこわい」
三人の中で唯一の少女が、身を震わせた。
菓子をつまんでいた指も、自分の金色の三つ編みに添えられ……すがっているようにも、見える。
「じゃあ俺たちで取り合いな!」
「その前に貸してくれるかどうかもわかんないだろ」
「魔王を倒すためなら、くれるって、きっと!」
そして話は、同じところに戻る。
『王様』は魔王に対抗するために彼らを『賢者様』に召喚させたけれど、彼らはまだまだレベルが低い。
三人で力を合わせて、魔王と互角になるほどでなくては、戦わせることはできないと言われていた。
先代の『勇者様』は魔王に力及ばず倒されてしまったから、その悲劇を繰り返さぬように……。
そう、聞かされている。
軽いノック音が来訪者を告げた。
「王様よりの御命令。街道を占拠し、商人や旅人を襲うゴブリンの群れを退治せよ! 以上」
だがドアは開かれないまま、命令だけが伝えられる。
これはレベル上げになるだろう。
三人は顔を見合わせてうなずいた。
この子たち、「わかってない」のです。