二人ぼっちの物語 1
しん、と静まり返った洞窟を、ケンとミヤ、二人の魔法使いは息を殺しながら歩いていた。
つい先日、何十人もの人間がここに侵入しようとして行方を断ったというコボルトの棲家。
入り口を見た時に、トンネルのように整えられた壁に焼け跡を見つけ、聞かされた話のように先手を打って炎の魔法を流し込んだことがわかった。
だが、それはトンネルの途中で唐突に終わっている。
何かが遮ったのか、そこから先は黒くはない。
「何があったのかしら……」
「わからない。でも炎の魔法がここで止まったってことは、魔法に対する壁を作った、としか思えない」
壁に手を当てて、ケンはその感触を確かめる。
調べ、わかったことはなんでも、細大漏らさずに覚えておかなくてはならない。
今回、二人が課されたのは『コボルトの棲家の調査』とそれに伴う『行方不明となった魔法の杖の捜索』だった。
コボルトの棲家を制圧するために傭兵たちが借り受けたという魔法の杖の行方そのものはわかっていないが、以降の消息が途絶えている以上、そこを調べるのがいいだろうというのが『賢者様』の見解だった。
コボルトたちは蛮族であり、魔法を使う者は少ないから杖の価値はわからない可能性が高く、放置されているのはありえる、と。
コボルトを殲滅した鉱山を献上するとして、杖を借り受けたのだが、どうやら傭兵たちは何も手に入れることはできなかった。
それどころか命まで失うはめになった……らしい。
コボルトたちの棲家に至る道のわきに、墓標よろしく彼らの武器が突き立てられていたのは、襲撃者への牽制か、挑発か。
緊張しながら、二人は進む。
トンネルが終わると、手に持っている松明の灯りが届き切らないほどに広い場所に出た。
声も大きく響く。
すぐさまミヤは聴覚を強化した。
だが、やはり何の音もしない。
匂いも無い。空っぽだ。
誰かが待ち伏せをしている可能性も考えられないわけではなかったのだが、こんな……光一つ無い暗闇の中では、コボルトだって勧めないだろう。
「やっぱり中は燃えてない。あそこで完全に止まってる」
広場を壁沿いにすぐに、腰の高さほどのテーブル……いや、カウンターのようなものに行きあった。
木で作られているそれは、入り口すぐにあるところから、この棲家の衛兵の詰め所かと思われた。
二人が知っている言葉でいうと、『しゅえいさんのいるところ』だ。
内側には椅子もある。
きちんと片付いた状態で、慌てて散らかしたような状態ではないということは、コボルトがここを離れたのは傭兵たちが訪れた時ではないということだろう……。
「この机もきれいだ。ぜんぜん傷んでない」
「でも、だったらどうして誰もいないみたいになってるのかしら……」
「わからない。ミヤ、腰のロープちゃんとつながってる?」
「ええ」
いざというときの命綱として、二人の腰には騎士たちが結んでくれた細いロープがあった。
帰り道に迷わず戻ってこれるようにと。
ロープをしっかりと確かめた後、二人は寄り添うように広場から枝分かれするような細いトンネルに入って行く。
細いとはいえ、二人が並んで通ってもまだ余裕があるくらいに幅がある。
道に面するドアを開けると、生活空間であったり、何かの店だったことをうかがわせる空間であったりする。
「この山の中、本当に町だったんだな」
大きな家具などはやはりそのまま残っている。
店はさすがに商品は残っていないが、棚やカウンターでそれと知れた。
家であれば家族構成もわかってしまう。ここは三人家族、こっちは独り暮らし。
……そんな、生活の場が丸ごと闇に沈み、無人なのは……。
二人とも口にこそ出さないが、同じことを思いながらナイフを確かめた。
そう、こわい映画のワンシーンのようだ、と。
だがテレビのこわい映画ならチャンネルを変えて、終わりの時間までやりすごせばいいが、今このときは仕事を終わらせないと、終われない。
二人の歩みは遅くなりこそしたが、しかし止まることは無かった。
小道を幾つか通り、広場を幾つか横切り、腰に結んだロープが本当に外とつながったままでいるかミヤが心配をしだしたころ、行きついた広場の一つ、その中央に何かが転がされていた。
松明の灯りが照らしたのは、転がっている、と表現するには少々豪奢がすぎる杖だった。
炎の揺らめきを、先端に付けられている赤い珠が反射する。
本当なら、宝箱にでも入れられていそうな品物。
……あれかもしれない。
ケンはゆっくりと杖に近寄った。
何か仕掛けられていてもおかしくない。
進む先に落とし穴があるかもしれない。
持ち上げたら、何か飛んでくるかもしれない。
だが、ケンは何事も無くなんだかひどく重い杖の一端を持ち上げることができた。
大きく彼は息を吐く。
「……大丈夫そうだ。一旦戻ろう」
手に入れた杖は一見して、壊れたようなところはない。
だが二人はこれが本物かを判断することはできない。
今は一旦持ち帰るべきだろう。
棲家は予想以上に広く大きく、詳しく調べるなら二人きりではとても無理だと思ったからこその判断でもあった。
ロープを伝って、二人は入り口へと戻った。
□□□
「あれらは、子ども。何も心配なぞいらぬ。ただ心優しく、正しく、英雄にふさわしいように振る舞うように教えるだけ。難しいことなどなにも」
「中身よりも年かさの姿にするのは、それに対してとても効果的なもの。大人として扱われるのは、心をくすぐるのにちょうどいい」
「悪い子になったら?」
「そうなれば死地に送るだけ。己の無力をとことん、私以外が教えればいい。生意気さが削げるまで、何度でも何度でも」
「死んだってここに戻ってくるだけなのだから」
「扱いきれなくなったなら、手元に戻すのをやめればいいだけ」
「そう、可哀想な勇者は道半ばで倒れてしまいましたという、悲劇ができあがる。その後を仲間なり、その次の勇者が継ぐなりすれば、『良い話』になるし、おさまりもいい」
「同情した民は、一層協力をしてくれる。自分よりひどい目にあいながら、自分たちを助けてくれる相手に抱くものがなんにしろ」
「いずれにしても、あれは小魚。池の中でまもられていなければ、すぐに食われてしまう。何の計算違いも無い」
「二人で十分」
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