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奥津城守の帰還  作者: みかか
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なんかきた!

 ミラエステルとの『遠隔お茶会』。

要は向こうがお茶をしている時に、『お出かけ一号』に接続して会話するということだった。

昼は仕事があるだろうからと気を使ってくれたのか、それとも彼女の活動時間が違うからなのか、開始は私の務めも終わった頃。

まぁ、私は飲食を必要とする体じゃないし、見てるだけでも別にいいかなぁとは思ってた。

思ってたんだけど、実際にテーブルの上に並べられた一式は、目の毒すぎた。

紙でできてるみたいに薄い茶器に、真っ白な皿。

そこには蝋燭の灯りでもわかるような、綺麗に色の出ている紅茶や焼き菓子が何種類も用意されている。

色鮮やかなジャムには花びらまで入ってて、少女漫画の光景再びだ。

昔、人間だったころ旅行のガイドブックで知ったアフタヌーンティー、あんな感じ。

ともだちとは、いつか行ってみたいねとは言ってたなぁ。


 それにしても、世界が違ってもこういう嗜好品って収斂進化するものなのね。

私は心中を動きに反映させないように気を付けながら、悶えた。

諦めたはずの食への渇望が、視覚から襲い掛かってきた!

救いは、その焼き菓子なんかがこっち独自の型で作られていて、一見しただけでは味の想像ができないこと。

「これはクッキーっぽいな」から先が無い。

それでまぁなんとか、平穏は保てた。

ミラエステルにこれ言っちゃうと、気にしそうだしね。

それでも、次回には手元に器の一つか二つは置いておこうと思った。

中身は水でもなんでもいい。

何もないというのが、ちょっと寂しいだけなんだから。


 そんなお茶会はのほほんと、何も変わったところの無いおしゃべりのみで過ぎていったのだけど、不意に何か変な音が本体側の耳に届いた。

私が本体を置いているのは、庭園の石碑のすぐ脇。

当然庭園の扉はしっかりと、壁と見分けのつかないほどにしっかりと閉ざされている。

そのはずだった。


―――ごめんなさい、何か変なことが起きたみたい。戻ってこれるかわからないから、今回はこれでお開きにしてもいい?


 急いで書くと、ミラエステルは目を丸くした。

いわゆる、画面を挟んでの対面形式じゃないから、私の側に何か起きてても彼女にはわからないしね。


「あら、大変。お気をつけてね」


 そう言われたのに、うなずく仕草だけを帰して、接続を切る。

後から話しておかないとね。



 そっと向こう側を伺いながら、扉を開ける。

光を必要としない目は、深い闇も問題なく見通せるのだけれど。

……うわぁ。

私は声をあげないようにするのに、一苦労した。

入り口すぐのところ、デカスライムの中に人が浮いてる。

しかも二人。

それこそゼラティナスキューブにも容量では負けないといわんばかりの大きさで、デカスライムはぷるりと震えている。


 ははーん、入ってこようとしたところで、スライムに食われたな。

私やドラゴンみたいに、溶かされない物でできてたり、耐性があったりするならともかく、人間だったらいくら鎧を着こんでても取り込まれた時点で終わりだ。

溶かされながら、スライムの中でおぼれ死ぬ。

デストラップと呼ばれるモノの中でも、人間の想像する最悪に近いのにぶちあたったのと同じだ。

さっきの変な音は、どうやら上から飛び降りたスライムが着地しつつ、この人たちを飲みこんだ音であるらしかった。


 いったいどこの誰だろ? どっかの傭兵か冒険者かな?

揃いではないがそこそこ高そうな鎧が見えて、そんなことを考えてたら、足元ですすり泣く声がした。

ああ、抜けられたのがいたか。

でもこっちは武装してないっぽいな。


 うずくまって壁に背を預ける、あるいは押し付けているのは、歳の頃は十代半ばくらいの短い髪の……うん? どっちだ?

まぁとにかく、十代半ばの人間がいた。

だけど鎧もなく、灯り一つ持たず、この子何してるんだろう?


「何をしている?」


 扉を閉ざそうかとも考えたけど、あまりに怯え切った様子に私の良心がちくちくしたから。


「っ」


 私の方を見るけれど、その視線が合うことは当然ない。

幸い、今日の魔力の残量には余裕がある。

私は小さな灯りを作って、宙に浮かべた。

人間の姿が、闇の中でモノクロから色を取り戻す。

が、その怯えていた顔は一瞬ぽかんとした後、さらなる恐怖に塗りつぶされた。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 なにごと?

人間、突然謝り始めた。

しかも壊れたように、その言葉を繰り返す。


「ごめんなさい。ごめんなさい、ころさないで!」


 ヒステリックな声は暗闇を透かし見た姿よりもだいぶん幼い口調に聞こえた。

頭を抱えて庇い、怯え切ってこっちも見ない。

なにこれ。

仲間がスライムにやられたからとか、そんなんじゃなさそうな。

第一、ここまでになっちゃったのは私を見てからだ。

デカスライムがこっちをうかがってる―――うん、スライム完全にこの子を獲物として見てるな―――から、私は急いで不審人物を庭園に灯りともども引きずり込んだ。


「殺したりしないから、とりあえず落ち着きなさい」


 なんだろう、なにかおかしい。

本当に些細な、印象というならば僅かなズレを見つけてしまったような。

見た目は普通の人間だし、着てるものだって別に変ったところはない。

なのに、なんかこう……()()()()な感じがする。

だけどがたがたと震えている様子に、とりあえず私は考え込むのを止めた。

あとで何かしらわかるでしょ。


「ほら、泣きやんで」


 まてよ。人間には、あの闇の中で仲間がやられたってことはわかっても、なんにやられたかまではわからないか。

だから私にやられたかもって思った?

でも私そこまで怖い形はしてないはずなんだけど。


 さわるとまたわめきだしそうだったから、私は一旦距離をとる。

うーん。一体どこの子だ?


「飲めるものを何か持ってくるから、ここから動かないようにね」


 ……その時点で、私は自分の思考の矛盾点に気づいていなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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