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奥津城守の帰還  作者: みかか
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彼らの物語 18

 遺された森までは馬車で三日。

つまり二泊分、ナオは御者の男の話を聞いた。

初期の頃は『勇者』も、他人や騎士たちと連れだって行動することもあった、と男が教えてくれた。

そんな、まだ周囲を頼れる―――今の三人と同じだ―――段階で、すでに『勇者』はバックアップがあるからこその戦い方で自分の実力ややれることを確かめていたふしがあった、と。


「あいつは教わったことを繰り返すだけじゃなくて、それを組み合わせてた。失敗したらまずいことは、誰かが一緒にいて大丈夫なときに試してたんだ。頭いいやつだったよ、あいつは」


 しみじみと語る男に、ナオはそっと自分の手、自分が入れられた体の手を見る。

そうか、そんなこともできるのかと。

けれどその一方で、ナオは恐れてもいたのだ。

自分にはそれは無理で、また死んでしまうかもしれないことが、怖い。

御者の男の話からして、『勇者』は自分たちよりもずいぶん年上の時にこの世界にやってきたようだった。

ナオはその名称そのものをまだ習っていないが、四則計算のうち加減しかまだ知らないのだから、「一日に使える回数を割り出す」「それをそれぞれ組み合わせる」なんてことができるものかと、怯んでしまった。

そんなことができる『大人』だって、殺されてしまう……元の世界には帰れなかったのだと思えば、怯みもする。

ナオにとって大人とは、自分よりも絶対強いモノであったために。


「お。寝たか?……じゃあ独り言もこれくらいにしておくぞ」


 小さな窓が閉じられて、箱馬車の中は闇に満ちる。

ナオは毛布にくるまって、闇の中で目を閉じる。

どうすればいいのかわからない。

どうしたら、わかるようになるのかもわからない。

今はたぶん、『王様』や『賢者様』のいいなりになるしかないというのは、わかるが……。

一番大事な、どうやったら二人を元の世界に帰せるのかなんて、もう見当もつかない。

悩みに頭を占領されながら、ナオは眠るしかなかった。



 道中は何事も無く進んでいた。

一カ月前よりも春の景色となっていて、彼らに月日が経っていることを実感させてくれる。

あの後、避難した者たちは村を再建することをあきらめ、生き残った子どもたちは避難先の村で引き取られた。

また、村の使者よりも一足先に出発したために難を逃れた、件の第一発見者の商人は、後程別の村で見つかり、彼には村が潰えたことが告げられた。

これをもって、村は正式に滅んだことになった。

瓦礫しか残っていないけれど、森近くで開けている場所はそこだけということもあり、一行はかの村の跡地を目的地としていた。

そこからは徒歩で森の探索へと向かう。


「よし、作戦通りにいこう」


 準備を終えた三人は、馬車から降ろされるとそれぞれ自分に感覚強化の魔法をかける。

探索だけに、軽装だ。

動きやすい服の上に外套をまとい、野外活動に備えたナイフを一振。

ケンは騎士たちに手を振って、出発を知らせる。


 もとの村からは林道に添って、彼らは歩き始めた。

周囲に異変が無いかを調べながら、同時に先頭のケンは行く先を、しんがりのナオは回り込まれていないかを索敵、間に挟まれたミヤはいつでも防御できるように構える。

村も見えなくなり、ぼろぼろになるまで壊された小屋を何軒も行き過ぎ、林道が果てて獣道に変わっても、……特に変わったものは見つからない。

小屋も荒らされたのはずいぶん前に見える。


「なんだろう。……何もないのが、おかしいよね」


 こそっと、声を潜めて囁くナオに、二人は頷いた。

まず、鳥の声がしない。

この季節には、鳥はさかんに鳴き交わしているものだ。

現に村までの道では、様々な鳥の声を聞いた。

それから獣。

人の手が入らなくなった里山を考えればわかりやすいが、獣は人の気配が遠ざかればどんどん進出してくるものだ。

それなのに、いくら進んでも彼ら三人を警戒して逃げるような音がしない。

数が少なくなっていることは知らされているが、すべていなくなってはいないはず。

不気味な沈黙が、そこにある。

それは遺された森に踏み込んですら、変わらず、三人は沈黙する森の、木々の間を進んだ。


 それは、唐突に現れた。


「なんで、森が拓かれてるの?」


 本来、遺された森の隣に位置していた村では木こりもいた。

動物が巨大化する遺構は、植物には巨大化という作用は及ぼさなかったものの生育が早く、林業にも向いていた。

それでも、大規模に切り開くほどは切り出してはいなかった……はずだった。

しかし、三人の目の前にはいくつもの切り株があり、ぽっかりとした空間が生まれていた。


「駄目だ、下がろう」


 荒れた切り株の切り口。

それは、鋭い斧で綺麗に切り倒されたものではないことを教えている。

ケンにとって、それは警戒を呼ぶものだった。

人間がやったものじゃない。


 引き返そうとしたそのとき、ナオとミヤが首を横に振った。


「今、後ろから走る音がしてる、囲まれた」

「いつのまに」


 ここまで来れば、逃がす心配も無いということか。


「割と大きめ。二本足。でもトロルよりも速くて、軽いよ」


 矢継ぎ早にナオが知らせる。

ケンとミヤはその声に、それぞれ魔法を練り始めた。

ケンはひとまずは水の魔法を。ミヤは風の防壁を。


「近い」


 ナオの言葉につられたかのように、足音の主が姿を現した。

それが何者か、三人は知っていた。知っているが、知らない。違う。


「ゴブリン……?」


 ミヤの警戒は奏功していた。

手に手に弓矢を持つ集団は、しかし一般に「小鬼」と当て字されるにはふさわしくない存在へと変貌を遂げていた。

遺された森というダンジョンに備わっているのは、動物を巨大化させる効果。

短時間、そう、兎を仕留める程度ならば人間にも何も起こらないが、そのなかで暮らしていたなら……。

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