少女漫画の現実化としか思えない
後半は「接続を切ったあと」です。
ミラエステル、は、どうやらいい子みたいだった。
それにそんなに気合いを入れすぎなくてもいいっぽい。
なにしろ私の方は筆談だもの。
考える時間を作れるのはアドだ。
とりあえず、今書いた文字を消す間に考える。
シオリに友だちはいなかった。かろうじてハルカズがそれにあたるくらいだろうか。
でも私には友だちがいた。
人間というか、地球の現代人基準で変わり者である私でも平気で付き合ってくれていた人たちが。
だからというわけじゃないが、人付き合いの耐性も多少ならあるだろう。
―――どうして、友だちになろうと思ったんですか?
その前に、これだけは訊いておかなくちゃ。
おもしろいからとかだったら、私をおもちゃと見てるからかもしれないし。
ミラエステルは唇に指をあてて考えている。
……思い出してきたぞ。
前に知っていた彼は誰の城の主は、吸血鬼の中でもけっこうな有力者だったはずだ。
連れ合いはいないとシオリの記憶にあったけど、情報が古いからなぁ。
五十年だか前に、たまたま奥津城に迷い込んできたのを助けた商人から聞いたのを覚えていただけだし。
養女とか、その空白の期間にできててもおかしくない。
「ええと、お友だちになりたかっただけじゃ、ダメかしら? そうね、だったら情報の共有という点で同盟を求める方が大物っぽいかも」
くすくすと笑いながら答えるミラエステルは、なんていえばいいんだろう。
新しい楽しみを見つけた、と顔に書いているのを隠しもしない。
吸血鬼ってこんなに無邪気だっけ?
残念ながら、サンプルが少なすぎてわからない。
―――手持ちにろくな情報はありませんよ?
「極端な話、無くてもかまわないの。理由に形を付けたかったからだし」
―――じゃあ、話し相手ですか?
「それでも大歓迎よ」
あ、これはもう逃げられないな
私は腹を決めることにした。
―――遠隔お茶会でもします?
正直、石をつなげただけのお出かけ一号で、こんなゴージャスな部屋でお茶会をやってるのを考えると微妙な光景が目に浮かぶし、こうなるんなら、いっそビスクドールみたいなのを作れば良かったとまで思ったけれど……返事を目にした瞬間、私は古めの少女漫画の技法が現実に生まれるのを見てしまった。
ぱぁっと、花……薔薇の花、それもピンクの大輪がほころぶ。
開く、あふれる。
点描って、あれは煌めきだったんだ。
「嬉しい! 楽しみだわ!」
え、そんな喜ぶとか……。
石筆を用意してくれた猫の獣人の方に助けを求めようにも、線彫りの顔に表情は無いから察してもらうこともできやしない。
「いつにしましょう? いつかそちらにも遊びに行ったりしたいわ」
あれ? 他所の管理者って、外に出られるの……?
ダンジョンによって仕組みに違いはあるのだろうけど。
その日は『遠隔お茶会』の日程を決めて、私は接続を切ることにした。
久しぶりの他者との交流に疲れ切って、でも外との接点ができたことに、私は内心喜んでいた。
行儀よく、ゴーレムは石板に石筆を置くと、元あった場所へと戻って、動きを止めた。
それを見届け、彼は誰の城の女主人は息を吐いた。
「ああ、緊張した……」
さきほどまでの様子とは打って変わって、ミラエステルのテンションは落ち着いている。
「おかしいところ、無かったかしら?」
「ご安心ください。お嬢様はきちんと振る舞われておりました」
お茶を運んできたメイソンにそう訊ねるのに、彼は微笑む。
「やはり大伯父様はすごい方ね、どのような相手にも威厳を感じさせたのでしょう?」
「しかしながらお嬢様、ご友人にとお思いでしたら威厳は不要かと」
「でも、あまり堂々と振る舞えなくて」
ハーブティーで一息入れる。
今日の茶菓は薔薇のジャムターツ。
クッキーほどの大きさの一個を、白い指は摘まむ。
「それにしても、まるで人間のようだったわ。メイソンも見たでしょう?」
「はい、まさかあれほどとは」
『皇女の奥津城』の管理者が知能のあるゴーレムであるというのは、割と知られていることである。
しかしどれほどのものであるかを語る者は少ない。
一言で知能があるといっても、あまりに幅が広いのだから。
その上で振る舞いまで人間と同じようにとなれば、「そこまでと思わなかった」となるのも当然か。
これもまた、ゴーレムを知っていればこそというものであるだろう。
「アスター伯父様、ご覧になりまして?」
「ああ。なるほど、これが書物にあったエレメンタルゴーレムか。なるほどなるほど、たしかにこれは造りたい者も滅ぼしたい者もいるだろうね」
実はその場にいたのは、主従ばかりではない。
魔術研究、技術開発を己の一生の仕事と定めている者が、小さなゴーレムに興味を持たないはずがない。
ゆえに、ミラエステルは小さなゴーレムを捕獲後、伯父にしばらく城に居住してもらっていた。
「それにこのゴーレムもだね。通常であればなにがしかの動きをあらかじめ仕込んで、動くそれに視界を載せるものだが、これについては運動能力のみを付与、動きそのものは完全に操作をしているね」
簡単に言えば、命令すれば動く使い魔にただ視界を載せるのと、完全に一体化するように我が身体のように動かすのとの違いだ。
そこまでアスターにはあのひとときで分析できていた。
「おもしろいなぁ。かつての魔法の帝国の遺産、初めて見たがそうとうおもしろい」
「でも伯父様、私のお友だちですからね?」
「いやいや、弄ったりなんてしないよ。だが、もし魔法のことでわからないことがあればまた聞きにおいで」
「ええ!」
この伯父と姪の光景を見るメイソンの胸に去来するのは、やはり好奇心旺盛な先代にミラエステルはよく似ているという事だった。
……もし出会い方が違っていたなら、先代とあのハルカズも友人になれていたかもしれないと。
今つい先ほどの、今代のように。




