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奥津城守の帰還  作者: みかか
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ドラゴンは  を見出した

 ドラゴンの目はさまざまな物を見られる。

闇夜のカラス。水の中のスライム。

見えないものも見える。

ゴーレムの纏う魔力。もはや魂だけの死者。

あの日、皇女の奥津城という墓で、その目は自分よりも幼い姿をした少女を見出した。

柔らかそうな薄絹を何枚も重ねて作った古風なドレスの肩に、まだ結われない年頃ゆえに長く垂らした蜂蜜色の髪。翡翠色の瞳。

ドレスの裾から見える裸足も、袖から見える手も、顔と同じほどに白くたおやかで、雨風すら知らないようなつくりをしている。

ゴーレムが傍にいる東屋の石板の上、硬い石をベッドにでもしているような形で、透ける少女は寝かしつけられてでもいるように横たわっていた。

そんな風に、此の世の肉体を喪った者は割とよくいるものなのだが、たいていは単に同じことを繰り返している魂の写しみたいな者ばかりで、意思の疎通ができる者は多くない。

しかもその中の大半は、さらに此の世から旅立つ寸前のような者たちだ。

だから自分が話しかけた少女が応えるなんて、ドラゴンは話しかけたくせにびっくりしたのだった。


 ドラゴンと少女はいろいろな話をした。

ドラゴンが自分が独り立ちした経緯、父のこと母のこと、故郷の事を話し、少女も父のこと母のこと、兄がいること、自分がここに祀られるように葬られている事、守役であるゴーレムは自分が見えないらしいということを話した。

ゴーレムの御伽噺でわからないところを、あれだこれだと話したりもした。

なにしろ、かたや九十年以上を生きようとも独り立ちしたばかり、巣は雪山の中、そしてそも数の少ないドラゴン、そしてかたや十にも満たぬ歳で身まかったのちは、ダンジョンの中庭とそれを囲う闇しか知らぬ少女だ。

己の知らない物を語り合うことで、話は尽きなかった。


 そうやって話していたことの中に、常夜灯の話題もあった。



「これっくらいの魔石になるまで、どんどん育てて、一カ月くらいかけてやっとできあがったんだって。中にほんのり灯りがともるようになってて、百年でも二百年でも消えないように造ってたって」


 ドラゴンの作った蓋、あるいは壁は、コボルトたちの山の内側を完全に守り通していた。

本来であれば焼き尽くされていた山の中の街は無事。

元のままの食堂に、山の上層部や班長のような立場の者たちが集まって、今後の事や後片付けのことも話し合うなかで、かの杖について、もといそれについていた魔石のことが改めて話題となった。

あれがそもそも常夜灯であったことに対して驚きの声があがったなかで、なんでもないことのようにドラゴンは説明してみせた。

そのことに、コボルトたちは「世界が違う」ということを改めて思い知らされた。


「目的は常夜灯とはいえ、巨大な魔力の塊だから兵器に転用できた、というわけか」


 長老の一人の言葉に誰もが頷く。

しかしこれからをどうしたものかと悩ましい。

普通に考えるなら、これほどの大きさの魔石だ。貴重さゆえに取り返しにくるのが当然だろう。

その時には今回のような傭兵集団ですむはずがない。

それなりの戦士か、あるいは騎士、悪くすれば前の魔法使いたちがくることも考えられる。

かといって、杖をむざと返してやるのも業腹だ……。

重々しく、採掘部門のまとめ役が話を切り出した。


「それで、以前より考えていたのだが。ここの鉱脈もそろそろ古い。別の山に移ることも考えるべきじゃないか?」


 坑道が街になるということは、街を大きくすることが鉱石を掘ることとイコールになる。

とはいえ、鉱脈は永遠に掘り続けられるものではないから、尽きたときが鉱山街の終焉であることになる。

ただ、コボルトたちは必要以上に掘ることをしないから、なかなか閉山にはならない。

何十年、もしかしたら百年に一度程度。

この世界では、人間はドワーフやコボルトのようには上手く掘れない。


「それが一番よかろうな」

「次の鉱脈のあてはあるのか?」

「剣の山脈に近いが、鉄鉱石の鉱脈の調べはついている」


 話題は鉱山の運営ともなれば、ドラゴンは蚊帳の外。

内部の者であるゾトだってまだ若造ゆえに似たようなものだ。

茶菓子代わりの干しブドウを一粒一粒、口に運んでは噛み潰すその間に、ナツノカザハナがぽつりとつぶやいた。


「逃がしちゃった方が、良かったのかなぁ……」


 そのしょんぼりした様子、肩を落とした姿があまりにも哀しそうに見えたのだろう。

その前の皿に、ナッツやら干し果物やらが足されていく。

見方を変えれば、彼が杖を取り返してきたからコボルトたちが引っ越しするはめになってしまったのでは?となるのも当然か。

ゾトはその背をぽんと軽くたたいた。


「大丈夫だ。聞いていただろう? 鉱山の寿命が近いから、引っ越しをした方がいい。ナツノカザハナ殿のせいではない」

「そうかなぁ……」

「それよりも、」


 これは気を取り直させるために、別の事を聞いた方がいい。

ゾトはそう判断する。


「エレイラナ殿のことを教えてくれないか? 子どもたちが花を供えていたが、喜んでもらえたか……俺には少なくとも見えなかったから」

「うん! エレイラナは、すごく嬉しかったって言ってた。最後の日にいっぱい花くれてたよね?」


 答えられることだからか、ドラゴンの尾はゆらゆら揺れた。


「ああ。子どもたちが張り切って集めていたんだ。喜んでくれてよかった」

「お参りしてくれるのは『乳母殿』だけになってずいぶんになるって言ってたから」


 そこで改めて、ゾトは話を切り出した。


「引っ越しが決まったら、頼みたい事もあるんだ。乳母殿にこちらからの手紙を持って行ってほしい。しばらく石を送るのが滞ることを謝罪しなくてはならないし、発送元が変わったとき、こちらからの石が奥津城まで行けるのかというのもあるし」

「わかった。引っ越し終わったら、一度あっちの方に伝えに行くよ」

「せっかくの旅の途中なのに、使いのようなことを頼んで申し訳ないんだが」

「ぜんぜん」


 ちょっと気を取り直したのだろうか。

ドラゴンからしょげた様子は失せていた。


 二人が話し合う間にも、コボルトの上層部で話は引っ越しでまとまっていった。

そうなれば、山一つ街一つ分の人口だ。

荷物を纏め次第、人間の追手のかからぬうちに始めようということになるだろう。

杖は一旦魔石と杖本体とに分解し、杖には偽物をつけてこの山深くに放置して、時間稼ぎの囮にする。


「引っ越し先のことわからないといけないから、手伝うよ」


 そんな場面でのドラゴンからの助力の申し出は嬉しくないはずがない。

かくして、しばらくの間ドラゴンはコボルトの引っ越しに同道することになった。

というわけで、ドラゴンがダンジョンで話しかけていた相手はこのとおりでした。

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