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奥津城守の帰還  作者: みかか
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コボルトは応戦し、ドラゴンは加勢する

 カランツのパン。ミルクのパン。ナッツのパン。

いろいろなパンをゾトはナツノカザハナというドラゴンに食べさせた。

パンだけに留まらない。

スープも、豆のスープに人参のスープ、キャベツのスープと、ちょっと子どもが苦手そうなものでもぺろりと平らげる。

そしてそのどれもを、うまいうまいとドラゴンは絶賛する。

そんな様子を、特に恥じる様子も無く町中でもやるものだから、三日もするとコボルトたちは小さなドラゴンにも慣れ、そのうちシンプルなパンに合うジャムなどをゾトに分けてくれるようになった。

そうなれば元々気のいいコボルトたちだ。

わずか一週間ほどで、「話が通じるドラゴンもいる」「恐くない、気のいいドラゴンもいる」、とこの鉱山のコボルトたちの意識改革が行われてしまって、鉱山を纏める上層部から、子どもたちまで、ナツノカザハナの存在を受け入れていた。


 コボルトの鉱山の中にも、町であるから食堂がある。

単身者が自炊をするのも面倒だというときや、親が鉱山の中でまだ働いている時間帯の子どもたちが使うのにちょうどいい、日替わりの料理が安くて親身になってくれる店だ。

そんな店に、ゾトはドラゴンを毎日のように連れて行った。

普段使いの店だが、コボルトの家庭料理ならここだろう、と。


「料理、すごいな! このジャムも食べられる宝石みたいだ! 乾かした果物も、味が違う! エレイラナが言ってた通りだ!」


 今日も今日とて、鉱山町の中に在る食堂でベリーのジャムを塗ったパンと摩り下ろし野菜のスープ、デザートの干しリンゴを平らげて、大満足という面持ちでドラゴンは食後にそう言った。

食堂では他のコボルトたちも昼食を摂っていたが、そんな様子ににこにこしている。


「エレイラナ? 乳母殿は、そんな風な名前だったのか」

「え? 違う違う、エレイラナは」


 言いかけたそのとき、食堂に駆け込んでくる者があった。


「人間だ! 武装してる!」


 がたん、と椅子から立ち上がる音が重なる。


「なに……?」

「襲撃だ。ナツノカザハナ殿、子どもたちを連れて非常口で逃げてくれ。ドラゴンがいたなら、誰も手出しはできないはずだ」


 取引目的の商隊ならば、武装してくるはずがない。

道中の護衛を頼むにしても、ある一線より先に護衛は貼らないようにとつきあいのある商人たちには通達がいっている。

それなのに、武装を解かないままの者「しか」いないとなれば、答えはたった一つだ。

ゾトはすでにそれを知っている。


「あいつらはきっと一度、山の中に炎を流し込む。それをやりすごすにはその間、山の中を無人にしないと」


 人間たちが前回取った手段も、また。

すぐに食堂を出ていくコボルトたちは、そのまま非常口へと向かう。

ゾトたちがもたらした情報に従えば、最初に炎を使われる可能性が高いがために。

それに対処するには、強力な防御を自ら捨てるしか……


「僕が、盾になる。壁を作るよ」


 ふんふんと聴いていたドラゴンが、いいことを思いついたとばかりに行こうとするゾトの袖を引いた。


「え?」

「人間が来るまでに、穴を塞いじゃおう」

「穴を」


 そのまま、ドラゴンはゾトを連れて鉱山の入り口へと移動した。

コボルトの鉱山は、まずトンネルをくぐってから大き目の空間に出て、そこから枝分かれしていく。

それまでの鉱山内を砦としての戦法からして、このトンネルを塞ぐような扉は作られていない。

もう山中のコボルトたちは外に向かっているのだろう、人影は一つも無かった。


「このトンネルを塞ぐんだ」


 その向こうには白い光。

遮る人影はまだない。

少しトンネルの中を進むと、ドラゴンは手をかざした。

手のひらを当てている形に、氷の壁が現れる。

トンネルをぴったりと塞ぐ、柱のようなしっかりとした壁。


「もう二枚くらい作るよ」


 少し下がってまた一枚。また少し下がってもう一枚。


「これでいい」


 分厚い三枚の氷の壁。


「一枚でもいいかなって思ったけど、山の中に炎を流し込むなんて人間の使う魔法にしてはおかしいから、念のために。あと、ここで僕が壁を守ってる」


 ゾトは目を瞬かせる。一体何が起きているのかと。

しかし彼の理解を待たず、三枚の透明な壁の向こう、白い光が欠けた。


「ゾト、外に行った人たちに伝えて。炎が入り口から吹きだしたら、側面から攻めてって」

「わかった」


 わからないが、やるべきことはわかる。

ゾトは氷の壁に手を当てる少年ドラゴンをその場に残して、手近な非常口へと走った。


 脱出用の非常口は山中に有る。

そこからは外のコボルトたちに伝令が駆け巡った。

息を潜め、入り口が見える位置へ静かに移動をしながら、鉱山中のコボルトたちが事態が動くのを待ち始めた。

それは……狩りの様子に似ていた。



 王宮の魔法使いたちが確立した方法は、実に簡便なものだった。

鉱山入り口のトンネルの中へ、炎の魔法を投げ入れる。

普通の炎の魔法であれば、せいぜいがトンネル内を焼くくらい。

だが王宮から借り受けた魔法の杖でそれを増幅すれば、山に縦横無尽に張り巡らされた通路全てに炎がいきわたる。

一度魔法使いたちが試し、安全な方法であるとわかれば次からは彼らはいらない。

後は炎が大人しくなるのを待って中を制圧すれば……設備は炎を浴びこそするが、有用な鉱山が易々と手に入る。

鉄でも、銅でも、貴金属や宝石でも、コボルトの鉱山の産出物は質が良い。

国庫も武器庫も、前回同様大いに潤うはずだという目算が、傭兵たちに依頼をした側にはあっただろう。


 傭兵たちの一行の後方からついてきていた荷馬車から降ろされたのは、頑丈な木箱。

そこにかけられた大きな錠前が解除され、蓋が開く。

目を奪うような輝きを持つ、大きな魔石をはめ込んだ、きらびやかな長い杖が取り出された。

男二人がかりでようやく持てる、重く大きなそれには、びっしりと文様が刻まれている。


「始めるぞ」


 やり方は聞いた。これがあれば大丈夫。

その油断が、トンネルの中から何も聞こえないという事に気づかせなかった。

傭兵たちは二人がかりで杖を持ち、その前に軽装の、この隊所属の魔法使いが立って杖に手を添えた。


「炎、炎、火の花よ。赤く赤く咲き乱れよ」


 歌うように唱えられて、魔法はトンネルの中へと放たれた。

だが……炎はそのままの勢いで彼らのもとへと戻ってきた。

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