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奥津城守の帰還  作者: みかか
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実家から出てみよう

ゴーレム、逃避はじめました。

 考える時間が増えた。

シオリの遺した最後の一枚を見て、考える時間。

シオリは私に、過ちを正して、そう書き残した。

でもハルカズはもう死んでいるし、あの人格上、無念を抱えて死んでもアンデッドにはならない気がするし、第一、私たちは神官の使うような……そう、死霊を浄化したりするような魔法には不向きな存在だ。

何をしろというんだろう。

毎回、結論は出なくて、いつもそこで考えを打ち切って、私は仕事に戻るのだけれど。


 だから今日も私はカードのその一枚を、魔法の教科書に挟み直して思考を打ち切ろうとした。

開いたのは、使い魔のページ。

私とシオリ、二人分の開き癖のついてしまった箇所。

挟もうとしたカードを少し引っ込める。


 ……外を、見て見ようか。

砕かれた石を使って、遠隔操作できるゴーレムを使い魔として作って、外に出してみようか。

その上で、視界を使う。

材料なら、たくさんある。

私自身は外には出られないが、元はこの中だけで運用していたゴーレムから作った修理一号が外に出られるのだから、なんら問題は無いはずだ。

なんで私、こんな簡単な事を思いつかなかったんだろうなんて考えたけど、そういえばこの世界でのゴーレムの運用は、動きを全部『プログラム』して、後は運用しながらそれに手を加えていく感じ。

まぁ、直接操作するなんてゴーレムのつくりからして、できるもんじゃないんだから、想定だってできるはずはないのは、当然ともいえるんだけど。


 さっそく私は元ゴーレムの破片を置いてある整備室へ向かった。

使うのは、大きなものでなくていい。

あまり目立たせてもいけない、となると、身長は私の掌ひとつ半くらいはせいぜいか。

山のようになってしまっている破片の中から、近そうな大きさや使えそうなものをよりわけていく。

手足も胴体も、だいたいそれっぽくなればいい。


 何日もかけて、同じ大きさの石を五つに、胴体になる大き目の一つをワンセットに、計三セットを工具で削った。

手には何かにひっかけて登ることができるような窪みを作り、動きやすく工夫した。

修理一号なら無視できる段差も、この大きさだとよじのぼることになってしまうし。

後は視界を得るための顔も、線彫りではあるが入れることにした。

なんというか……粘土細工を石化させた方が、たぶん造形的にも整っているんじゃないかと思えるようなものになった。

……まぁいい! できあがったんだから!


 人の形に並べたそれぞれに頭にあたるパーツに、魔石を一つづつ当てる。

するすると魔力の糸が伸びて、パーツをつないでいく様子は、大きなゴーレムを作る時と同じだ。

三つの小さなゴーレムは、その大きさの分あっという間に出来上がった。

その額に指先を当てて、命令を流し込む。

―――私の介入があったら起動すること。私の介入によって身体を動かすこと。私の介入の終了と同時に動きを止めること。

要は、スイッチのオンオフと遠隔操作だ。

小さい体ではあるけれど、使っている魔石は通常のゴーレムと同じ。

後は停止している間に魔力を取り込む機構だから、いわゆる充電切れ状態にはならないだろう。


 さっそく操作をしてみたいけど、その間、たぶん私の体は無防備になるだろうからなぁ。

見張り一号の視界借りは、あくまでも片目だけだし、動き自体は見張り一号に委ねていたけど、このゴーレムは私が動かさないと動かない。

つまり、そっちに神経が行く。

ちょっと考えて、私は入り口近くにゴーレムを一体置いて、庭園の中に入った。

扉を閉めれば、開ける方法がわからない限りはここに入れる者はいない。

東屋の中に腰掛けていれば、園丁たちを邪魔することもないだろう。


 石碑のすぐわきに腰掛けて、さっそく私は視界の切り替えから介入を開始した。

遠い遠い天井がまず見えた。

起きあがって、周囲を見回してみる。歩いてみる。飛び跳ねてみる。走ってみる。

思考だけの操作だけど、動作に支障はない。

視点が低いし、移動速度も速くはない。

それでも使い魔としてのゴーレムは、私自身ではないからだろう、私であれば『プログラム』が働いて足が止まるダンジョンの入り口も、軽快に駆け抜けていった。

外は……鬱蒼とした森で、しかし見上げれば大木の枝の隙間からは、地球と変わりない青い空が見えた。

木々の植生も、地球とたいした違いの無い照葉樹林。

たしかにこの森なら、どんぐりはたくさん落ちているだろうな。


 なるほど、シオリが、彼女が見たのはこういう世界だったのか。

私と違って、彼女は外の世界を知らなかったから、衝撃は大きかっただろうな。


 さぁ、まずは森を抜けなくっちゃ。何日かかるだろう。

そう思いながら、私の意識を載せたチビゴーレム、『お出かけ一号』は走りだした。

森の下生えは丈高く、森の中のさらに森の中にいるかのよう。

そんなにスマートに動けないナリをしているから、お出かけ一号が走っているところは、きっと派手に草が動いている事だろう。

あまり目立つような動きは避けるべきなのだけれど、久しぶりに壁も天井も無い世界を走り回っているうちに、私はだんだん楽しくなってきてしまった。

『過ちを正してほしい』、シオリの遺した言葉の事を、いったん棚上げにしてしまうくらいには。


 これは、たぶん逃避なんだ。

自分でもわかってる。

それでも、私は小さなゴーレムが外に出ていくことにワクワクして、そして何かがおきるか、それとも何かが見つかることを祈ったし、楽しみだった。

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