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奥津城守の帰還  作者: みかか
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居候されてる……

 居着かれた……。

突然やってきたドラゴンは、たいそう皇女様の庭園が気に入ったらしい。

昼のうちは外でなんだかんだとやっているようだけど、日が暮れかけるといそいそと人間形態になってやってくる。

「いい寝床が見つからないんだ……。クマを追い出すようなことはできないし……」なんて、しょんぼりされてしまっては、こっちこそドラゴンを追い出せなくなってしまった。

今そのドラゴンは、鍋の中から栗を一つ取り出してそのまま口に入れている。


 それにしても早いもので、コボルトたちがいたときにはベリーも実る夏だったのに、いつのまにか秋も終わろうかという季節になっていた。

日々の修理と改良はそこそこ実を結びつつあり、ゴーレムの園丁は少しずつ仕事の種類を増やせている。

警備ゴーレムは運用試験中。

なにしろ、下手に動かすとスライムを潰しかねないから、命令の種類と重ね方に手こずっている。

攻撃する相手を指定すればいいのか、攻撃しない相手を指定すればいいのか。

それとも逆に、スライムの方が逃げるようにしむければいいのか。

なかなかこれは難しい。

なにしろ前の警備ゴーレムたちの『プログラム』も、帝国時代の基礎的なものに改良点を書き加えたり、新規のゴーレムを作るときはそこからコピーしてたものだったから、園丁たちほどとまではいかずとも複雑なものだったんだってことを思い知らされてる。

加えてスライムたちもこの中で代を重ねた固体ばかりだったから、ゴーレムを見たら逃げるような行動も受け継がれてた。

今いるスライムたちは修理一号が捕まえてきたものだから、ゴーレムに対する警戒心ってものがそもそも無い可能性すらある。

特にあのデカスライムとか、第一階層をうろうろプルプルしてるのによく出くわす。

まぁ、入り口辺りが一番侵入者と遭遇しやすいからね。

さすがにドラゴンには絡みに行ってないみたいだけど。


「うまーい!」

 

 思考を声がぶち切ってきた。


「それはなにより」


 外で拾ってきた栗をそのまま食べようとしてたから、前にコボルトたちが煮炊きをしていた入り口あたりで煮てやったら、それだけで大感激されてしまった。

氷のドラゴンだもんね、火を使う料理を見るのも初めてかもしれない。

でもそれだって、栗の鬼皮をブドウの皮みたいに噛み潰すのはドラゴンだよねぇ。


「外に一杯あったから、また拾ってくる!」

「ついでに枝も拾っておいて。枯れて乾いてるものがいい」

「わかった」


 ああそうか。巨大蜘蛛とかいるし、リスなんかはいないわけね。

そうなったら木の実がたくさんあるのも納得だ。

それにしても、フスフスと楽しそうに鼻を鳴らすドラゴンの様子は、王子様みたいな格好とはギャップがある。

お母さんドラゴンが、君に普段着の概念を教えてくれてたらよかったのにね。


「でもなんで、料理を知ってるんだ? ここに食べる物はないし、食べる者もいないのに」

「ああ。どう説明しようか。……皇女様に毎夜、お話をして差し上げてるけれど、」


 ぼんやりとくだらないことを考えていたら、質問でそのぼんやりを破られた。

うんうんと相槌をうつドラゴンの前の床に、たき火の中から燃え掛けの枝を一本取り上げて火を消したものを鉛筆代わりに、竈とパン焼き窯を描く。


「たとえば、これは竈。下から火を燃して、上の鍋を沸かしたりする。こっちはパン窯。中で火を燃したあと、火と灰を除いてパンを焼く。竈はたくさんの家にあるけど、パン焼き窯は限られた家にしかない」

「うん」

「昨日のお話の灰かぶりの姫君は、こういう竈に関わっている家事をしているから灰塗れになるし、それを綺麗にできないほどこき使われている、とわかるし、姫君の家はパン焼き窯だって持っているお金持ちの家だから、お城に招かれるということ。王子様が町中の娘を、と触れを出すのはお城に招かれるような家は決まっているから、見覚えのない娘はつまりそれ以外の家から来たのかもしれないと思った、ということ」

「そうなのか」

「こんな風に、「なぜ?」と訊かれたら、答えられる」

「うん、今答えてもらった! わかった!」

「人間のお話にはこういう料理に関するものがたくさん出てくる。ちゃんと理解しておかないと、お話が上滑りする。……とはいえ、皇女様の眠りは深いから」

「じゃあ、僕が訊いてもいいのか?」


 おっと、予想外の所からきたぞ。


「お話がちゃんと終わってからなら、かまわない」


 我ながら甘いなぁ。でもしばらくは追い出す気もないし。

情けは人の為ならずとも言うしねぇ……。

自分に言い訳をしながら、ほんとは、私だってわかってるんだ。

話し相手がいるのは存外楽しい事なんだって。


「そういえば、パンってどういうものなんだ? 栗から作れる?」

「栗からは、普通のパンは難しい」

「食べてみたい!」

「あれは人間の生活圏の中で手に入るもので作るものだから……」


 あちゃあ、目がきらきらしてる。

そういえばドラゴンって、知識に対しては貪欲だって聞いたことがあるなぁ。

あれは地球の話だったけど、こっちでもそうなのかもしれない。


「まずパン焼き窯が無いから、本式のちゃんとしたパンは作れない。それからさっきも言った通り、材料もここでは限られているから美味しい物になる保証も無い。それでもいい?」

「食べたい!」


 この顔はねぇ……。ドラゴンの時の顔を知ってても私、弱いわ。

砂糖も小麦粉もないし、ドライイーストだってあるわけないから、それなりのものしか作れないだろうけど、一口食べれば知識欲なら満足するでしょ。


「じゃあ、明日は昼までに、今日の栗みたいな木の実をとってきて。栗はそのまま食べられるけど、他の木の実は下処理しないといけない」

「わかった!」


 水に漬けて、より分けて、砕いて、晒して、練って、焼く。

昔子どもの頃に本で読んだやり方は覚えているな、よし。

後は甘味を付けるのに、栗を粗く砕いて入れてやりますか。

ちょこちょこと考えていたら、気分も上向きになる。

そうだ、使わない石ですり鉢とすりこぎでも作っておかないと。


 我に返ると、ドラゴンが私の顔を見てにこにこしている。


「すごく楽しみだ!」

「はいはい。今日はそれ食べ終わったら、身体を洗って眠りなさい」

「はーい」


 うん。

これはきっと皇女様に仕えるために、子どもへの好感度判定が緩めに設定されてるんだな。

自分でもびっくりする大盤振る舞いを、私はそう結論付けた。

翌日からの大量の木の実との格闘は、とりあえず考えないことにして。

次回、どんぐりクッキング。

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