彼らの物語 9
不穏度が増してまいりました。
ダンジョンを攻略する。
ゴブリンを倒して街道を安全にする。
水源近くにあらわれたドラゴンを追い払う。
コボルトを倒して鉱山を開放する。
彼ら三人は『王様』の命令を受け、『賢者様』に導かれる形でそれらをこなしてきた。
『王都』近くに現れた暴れ牛『モンスター』を倒したこともあったし、ゴブリンではなく人間の山賊を逮捕したこともある。
まったくゲームのような日々だ。
そうして『モンスター』と戦う合間に、生活をする。
字を学び、言葉を学び、それらを使って魔法の課題に挑み、習得する。
ある意味で彼ら三人は、同級生たちよりも勉強しているといってよかった。
なにしろ、期待に応えないといけない、というプレッシャーと嬉しさがある。
彼らはこの『王国』にとって救いの手であると聞かされていた。
かつて招き、数々の戦いの果てに『魔王』と相打ちになったという『勇者』の後継として、災厄から『王国』を守る使命を帯びているのだから。
「そういえば」
炎の魔法のおさらいをする手を止めて、ミヤはケンに尋ねた。
「どうやってここまで来たの?」
私はね、とミヤは自分の事を話す。
「迷子になってしまって、疲れて眠り込んでしまっている間に、来ちゃったみたい」
「へぇ、アリスみたいだな。じゃあ、ミヤは本当は向こうで眠ってるのかも」
「クリアするより先に、お母さんに起こされちゃうかもね」
「パーティー離脱なんて、かんべんしてくれよ。んじゃ、ナオは?」
「……ああ」
ナオの反応がワンテンポ遅れたのは、文字を書き続けていたからだろう。
「家出したんだ。隠れてたら、ここにいた。ケンは?」
「俺はあんまり覚えてないんだ。たぶん二人と似たような感じなんじゃないかって思うよ」
自分が地球から旅立ってこちらに来た瞬間を、三人とも覚えていない。
だからこそ、こちらの世界で自分の姿が大人の形になっているのを見るまで、実感らしいものはなかった。
自分からかけ離れて長い手足、鏡の中の自分ではない顔。
いっそ、自分のものではなかったからこそ逆に「この世界はゲームの世界だ」ということに納得したともいえるだろう。
後は復活であるとか、魔法であるとか、こちらにあってあちらにないもので、その納得を深めていった……。
「そういやさ、前に街で情報収集できないかなって言ったことあったろ?」
ケンはそのまま、休憩に入るつもりであるらしい。
「あれさ、よく考えたらちょっとおかしいよな。話しかけたら重要情報もらえるとかさ」
「それこそ、ゲームの都合ってやつなんじゃないかな?」
一方のナオはといえば、作業の続きの方に重点を置いて、あまり真剣に返事をするつもりはないらしい。
「まぁ、『王様』が知らなかったり秘密にしてたりすることを、村人が知ってるってのもおかしいよな」
エコーチェンバー。
他に話すものもない、三人の間の会話は反射しあい、反響しあい、そして自分たちの言葉で自分たちを納得させる。
そうやって、自分たち自身の持った違和感を、自分がわかるものに変えていく。
そうしなければ……立ち止まって、その違和感を直視してしまいかねないことを、彼らは知らずに、しかし理解していた。
直視してはいけないのだということも含めて。




