でかいの立ち入り禁止っ!
ででどん。
そんな感じで、外に体があるんだろう。
碧色の鱗に、白だか銀だかわからないたてがみと、擦りガラスみたいな角のドラゴンは、入り口から首を突っ込んでこちらを見ていた。
……火のドラゴンだったら、たぶんこういう角じゃないな。
「おい!」
割と甲高い声。
いわゆるボーイソプラノってやつ。
ドラゴンの鳴き声って、キィキィ系だったのか。
「一晩泊めろ!」
思わずその額を、ぺちんと。
なまなかな生き物だったらゴーレムの一撃はまずかったけど、ドラゴンはその範疇には入ってなかったらしい。
ちょっと涙目にはなってるけど。
「な、なにをする!」
「私の主はあんたじゃない。あんたは私には頼む立場。わかる?」
どうかと思う、と、この場に他に誰かいたら諫められたかもしれない。
相手はドラゴンだ。
だけどここで引き下がってたまるか、と私のプライドがそうさせた。
言われた側のドラゴンはといえば、むぅと口を閉じて考える様子。
「なるほど、それは道理だ。ごめんなさい」
それもあっというまで、ドラゴンは頭を上下させた。
謝っているらしい。
「あらためて、お願いする。一晩泊めてほしいんだ。森で一休みしていたら、小さな奴がかじってくる。ちくちくするから、痒くて眠れないんだ」
ガオガオしてないドラゴンは、割と無邪気な物言いをした。
「小さな奴?」
「毛皮でふさふさしてる。狼に似てるけど小さい」
「それ、狼か山犬だと思う。山犬ならドラゴンには近づかないから、たぶん狼」
「僕はここよりずっと北の生まれだけど、そこの狼より一回り小さかったぞ」
「北の方は、動物は大型化するんだよ。そういうもの」
「そっか。じゃあ、そのチビ狼が噛みついてくるんだよ」
なるほど。
「洞窟でもあれば良かったんだけど」
なるほどなるほど。
この辺で建物とか洞窟とか、そういうたぐいのものってここくらいしかないからね。
とはいえ……泊めてくれといったって、このドラゴンの体はダンジョンの外にあるし、入り口からは入れそうもないんだけど。
「そう。一晩泊めるのはいいけど、ここには何もない。きれいな水くらいなら用意できるけど」
ともかく、ちゃんと謝ったし、理由もわからないものじゃない。
コボルトほどじゃないけど、困ってるみたいだったから許可をしてみた。
「でも、入れる?」
「それは問題ないよ」
ひゅっと、頭がダンジョンの外に出て行った。
待つほどの事も無く、ドラゴンが再び中に入って来た。
ずいぶんとかわいらしい姿で。あらまぁ。高い声も道理だ。
「独り立ちする前に、ちゃんと人間姿への変身をマスターしておいて正解だった」
これはどこの王子様?
そう聞きたくなるような、まだ小さいけど立派な身なりの子どもがちょこまかと入ってくる。
外見年齢は十歳そこいらだろうか?
まだまだいたずら盛りの年頃だから、顔は整っているけどやんちゃそうだ。
碧色の鱗からは想像もつかない、透けるような肌はいかにも北の出であることをしめすよう。
灰色……いや深い銀色の髪に、人じゃないことを表わす本当に金色の目、縦の瞳孔。
擦りガラスみたいな角を見た時から思ってたけど、やっぱり火のドラゴンじゃなくて、氷のドラゴンっぽい。
それだけでも王子様っぽいってのに、格好がまたすごかった。
光沢のあるコートとウエストコート、半ズボンの白い三つ揃いには、金の縁取り。
よくよく見てみれば、コートには細かな模様が織り込まれ……いやこれ、刺繍だ。
これが実在する服なら、本当に王子様、それも大国の王太子くらいにしか許されないだろう。
「どうだ。これなら何も問題はないぞ!」
えっへん。
偉そうにしていても、このナリじゃかわいさの方が生意気さを上回る。
だけど、これじゃ王宮のふかふかベッドだって横になるのは駄目だろう。
「そんな格好じゃ寝づらいと思う。もうちょっと気軽な格好はないの?」
「気軽?」
「動きやすいとか、汚してもいいとか」
ふふーんと、ちびっこは胸を張る。
「これは僕の魔力で作ったものだから、汚したっていいし、もちろん動きやすい!」
「……まぁ、本人がそう言うならいいか。でも石の床じゃ、人間の体は傷む。おいで」
コボルトたちを泊まらせた時の要領で寝床を作ってやればいいか。
園丁たちは元々夜には稼働を止めてるし、睡眠の邪魔にはならないでしょ。
庭園の中、コボルトたちが寝起きしていた場所は、園丁たちが草を刈り取ったりしてすっかりきれいにしていた。
しまった。敷きものになりそうなものも残されてない。
石の床よりましとはいえ、こんなとこにちびっ子寝かせるのは良心が咎める。
「これぐらい広さがあれば、ドラゴンの姿でも大丈夫なんじゃないか?」
そんなことを考えていたら、当のちびっ子から一言。
この子、心が読めるのか……? なんて少年漫画のワンシーンは心の中だけにして、さっさと賛意を出しておく。
「このまわりの植物を荒らさないなら、ドラゴンの姿でも構わない」
たぶん、なんにもない広場に案内されたことと、私の顔を見て判断したんだろう。
それなりに不覚だ。
「さっきも言った通り、ここには何もない。食べる物もないから、日暮れまでに外でいろいろ済ませてくるといい。夜になったら、この庭園の扉を閉じてしまうから」
「わかった」
おチビさんはこっくりとうなずいて、言われたとおりに外に出て行った。
ドラゴンは律義だから、本当に日暮れまでに返ってくるだろう。
やれやれ、本どころじゃなくなっちゃった。
あの子が戻ってくる前に、浄化済みの水をバケツにどれくらい用意しとけばいいんだろう。
いっそ、整備室で水浴びさせてあげようか。
なんだかすっかり世話焼きモードになってしまって、私はあれほどに憂鬱だった外のことを考えずに済んでいた。
そろそろお気づきかと思いますが、このゴーレム、ちいさいものに弱いです。




