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奥津城守の帰還  作者: みかか
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考えてみれば膨大な作業量だった

よく考えたらめちゃくちゃ膨大ですよね

 園丁ゴーレムをまず復活させて、庭園を綺麗にしようと考えた私の、その考えは悪くなかったはずだった。

五体程度、まず稼動させればいいんじゃないかなってのも、悪くない計算だったと思う。

思うんだけど。

私は整備室に運び込んだ五つの石を前に、頭を抱えていた。

この石そのものには問題は無い。

それどころかいい感じに丸く削ってくれていたおかげで、ゴーレムの頭にならそのまま使えるくらいだ。

コボルトの加工技術、バンザイ。

じゃあ、問題は、といえば。


 私は石を、ゴーレムのパーツを並べたうちの、頭にする場所に移動させた。

園丁ゴーレムは警備ゴーレムが尽きたその後、最後の残存戦力として投入されたから、頭以外は綺麗に残っている。

後は動き方と役目のプログラムをセットして、動かせばいいばかりになっている。

問題はそのプログラムにあった。

ざっと、園丁ゴーレムにさせたい仕事を挙げていくと、地面を掃除して、雑草を抜いて、樹の剪定をして、枯れた花とか傷んだ実を取って、枯れた物があれば引っこ抜いて、外から取って来た新しい植物に植え替え、抜いた雑草や枯れたものは庭園の端で堆肥にして次代に与え、それでも余ったらスライムにやったりして……。

こんな風に一個一個、名前のある作業、無い作業を挙げていったら、どう考えてもリストを書かないと間に合わない、というか細かい物を忘れてしまいそうだということに気づいてしまった。

元々の園丁ゴーレムの魔石が残ってたら、それから作業工程をコピーする形で問題なく復活させることができた、と思うんだけど、あいにくゴーレムに付けられていた魔石は片っ端から回収されてる。

実際の所、園丁ゴーレムって、戦闘に出さないから魔石の破損はほぼなくて、体が古びて来たら魔石を付け替えるだけで済んでたんだよね。

このダンジョンが作られて、園丁ゴーレムが配備されてから、ずっと。

ロストテクノロジーとか、技術のミッシングリンクを自分が体験することになるとは、あの頃考えもしなかった。

この状況下だと、石から加工するのがめんどくさい指がほぼ無傷で残ってたことさえ僥倖だわ。

……仕方ない。

作業を分割して、関連するものを二、三個ずつ入れて動かしはじめるのがこの時点で一番賢いやり方だろうなぁ。


 私は稼動用の魔石を一体の頭に押し付けた。

そのまま、ゴーレムを起動させる魔法を使う。

魔力を石の四肢にいきわたらせると、ばらばらだった石のパーツにつながりが生まれる。


「命令。第一命令、庭園内の清掃」


 修理一号の時のように、庭園内の掃除のイメージを流し込む。


「第二命令、雑草を」


 命令しかけて、やめた。

どの雑草を抜くかのイメージがあまりできてない。必要な草まで根こそぎされかねない。

後でちゃんとこれを残せ、と指定できるようにしてからにしよう。


「第二命令、ゴミは庭園端の肥料場に持って行く」


 この中のゴミなら、それだけで片付く。

このゴーレムは清掃専門にやっててもらおう。

でもこの一体分の命令が終わったら、命令の一覧表を改めて精査して、清書しとこう。

でないとたぶん、たった五体じゃ命令がこんがらがっちゃうだろうし、下手に割り振ったら作業するゴーレムの数が足りなくて、予備に置いておきたい分までフル稼働させてもぜんぜん足りなくなるに違いない。

命令がかみ合って停止するところが目に見えるようで、私は心の中で頭を抱えた。

園丁の作業を最初にプログラムした魔術師、どれだけ込み入ったの作ったんだろ。

真似ができる気がまったくしない、遥か昔のロストテクノロジーならぬロストプログラムだ。


 清掃関係のプログラムを終わらせると、園丁はむくりと立ち上がった。

のしのしのし、とゆっくりした動きで整備室を出ていくのに、私もついていく。

うーん、見回り用か門番用にでも、簡単に警備ゴーレムを組んでおこうかな。

ぶらぶらと歩きながらぼんやり考える。

人形みたいな人工の体は、別にどこかが凝ったりするわけじゃないけど、多少歩くと動きが滑らかになる気がする。

……関節部分が削れてるからかもしれない、というのは、今は忘れとこう。

地下から第一階層へ。園丁を庭園に入れて、そのまま気晴らしに散歩することにした。

ぶらぶら、のんびり。


 蜘蛛侵入事件の後、デカスライムは熱心にエントランスにぶちまけられていた蜘蛛の巣や糸を、全部きれいさっぱり掃除してくれた。

またなんか撃退したら、あのスライムに食べさせることにしよう。

あれからなぜかあのデカスライム、私が顔を埋めても逃げないし。

他のは、私は食べられないからか逃げるんだよね。

まぁ、向こうからすれば、石がいきなり自分の体目がけて飛び込んでくるようなもんだし。

自分が柔らかい肉をもう持っていないということを、こんなことでも思い知らされるわけだ……。


 そんなちょっと落ち込んだ気持ちで、ふと入り口を見た。

闇を、くっきりと光が切り取る。

……外は、鮮やかな光に満ちている。

今の季節、いつだったっけ?

コボルトたちがいたころは、ベリーが実ってたから、夏のはず。

硬い肌は温度を感じることは無い。

外には、何が有るんだろう。

そうだ、私は……『私』は、この世界を知識としてしか知らない。

地球の方をこそ知っているといってもいい。


 無意識のうちに、私はふらふらと入口の方へと歩いて行っていた。

たぶん『私』だったら感じることも無かっただろう外への渇望に背中をおされて。

私は空も外も知っている。知っているけど、空も外も知らない。

けれど、外に出ようとした瞬間、足は止まった。

行っては、いけない。

私の中にもある『プログラム』が行動範囲を規定する。

足は接着剤でも塗りつけたように、持ちあがらなくなっている。

身体も、動かない。

呼吸なんてしていないのに、胸が苦しい。


 昔読んだSF小説を思い出した。

ロボットが守らなくてはならない三つのルールのこと。

禁則事項に近づいたロボットは、きっと今の私と同じような感じだったんだろうな。


 まわれ、みぎ。

私は入り口の明るさから逃げた。

そうしなければきっと、ずっと、そこで止まっていただろう。


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