通販の荷物が届いた
通販の荷物(石30個)、届きました。
見張り一号の頭の動きは、結局左右……横回転のみに設定した。
それでもやたらめったら左右に振るものだから、速度の調整か、視界を借りるのを短時間に留めないと車酔いみたいなことになりそうだった。
その調整が難航しつつあったところに、地響きのような足音が、外から聞こえてきた。
まっすぐまっすぐ、こっちに向かってくる一定速度の足音が、三組。
私は調整中だった接続を切って、整備室から入り口へと向かった。
到着する頃には、一体目が入り口から入ってくるところだった。
慎重に入ってくる灰色の、不器用な人型の、石の連なり。
丸石を十個、人型になるように並べただけのものは、エントランスでその動きを止めた。
石と石との間に、ぼんやりした魔力が見えるあれは……よしよし、持ち帰ってもらったゴーレム化用の魔石は、上手くいったみたい。
此処の位置を目的地として組み込んで、いわば帰還命令の形でプログラムしたんだけど、動き自体はまっすぐ進むようになっていたから、ルートによっては駄目な可能性もあったんだよね……。
海を渡るとか、山を越えるときに細い道で足を踏み外すとか。
でも三体、三十個も纏めて届いたってことは、そこそこ安全な道のりであったらしい。
それに届くこと自体が、あの一行が無事避難先まで行けたってことでもある。
ひとつひとつ検品してみても、全部頼んだ通りの大きさだし、綺麗に整えられた丸石だった。
さすがの仕事ぶり。
おっと、一個に手紙らしいものがくっつけてある。
途中で落ちないようにだろう、解くのにも苦労するほど細い紐を何重にも巻きつけた、丈夫な封筒だ。
開けてみれば、納品書と手紙が一通。
納品書はきちんとした書式で、品名と代金が書かれていた。
手紙の方には、コボルトのゾトたちが無事に避難先に着いたこと、今の環境なんかが書かれていて、私はかなりほっとした。
便りが無いのはよい便りともいうけれど、こういう経緯ならある方がありがたい。
私はついつい、作業を放り出して手紙を読みふけった。
子どもたちも面倒見のよい家にそれぞれ引き取られていったらしい。
コボルトは犬の獣人だからか、受け入れる性質があるようだった。
それから、それから……先日みたいに蜘蛛が乗りこんで来たら危うい集中っぷりで、私は手紙を読み進めていたが、ある一文でそれが止まった。
―――自分たちの受けた仕打ちを、他の鉱山へも警句として回すつもりだ。
……正直、彼らが人間の侵攻を受けた日の話を子どもたちから聞いたときは、耳を疑ったものだった。
一瞬で、一発で、坑道全域を焼き尽くす魔法なんてものが、此の世に有る物だろうかって。
それに坑道内部に町を作っている以上、粉じん爆発みたいなことが起きないような対策もとっているだろうし。
けれど、地球の坑道でだってそういった事故は起きる。
そういう風な状況を創り出す方法を、どこかで手に入れたのかもしれない、そう判断した。
現時点での対処は、今までのコボルトたちの戦法を捨てて、坑道の外に出ることしかないらしい。
当然、それは強力な防壁をわざわざ捨てることと同じ。
今お世話になっている鉱山でも、理解はしてもらえているが、この方法は危険なので早急に別の方法を考えなくてはならず、頭を悩ませている、と。
そうなるだろうなぁ……。
たとえていうなら堅固すぎる建物の内部での爆発だから、身を隠せば爆風からは逃げられるだろうけど後を追ってくる熱で、というのは容易に考えられる。
って、あれ? 構造的にはうちも似たようなものなのでは?
考え込むうちに、そんなことに気づいてしまった。
そういうのの対処法、こっちも考えておかなくっちゃ。
それにしてもゾト、コボルトの機密的なことを私あてに書きすぎなのでは?
そう思っていたら、ちゃんと終盤に書いてあった。
曰く、世話になり、また大事な取引先である私に、再度の襲撃で取引が急にダメになることがあるかもしれない、という不安を持たせないための進捗報告でもある、と。
コボルト真面目だな?
とりあえずその真面目さは、取引先としてはありがたい。
信用してほしいって思って貰えてるってことだからね。
そして最後に宛名として書かれていた言葉に、私は変な声を上げた。
曰く、『乳母殿』。最初の書き出しだと、ダンジョンのゴーレム殿、だったんだけど!
「……乳母殿、かぁ」
そう思われたかぁ。
今までそう呼ばれたことはないし、十七年の人間生活で培ってきた、乳母という言葉へのイメージがどうにも自分に繋がらなかった。
『私』は名前を持たない。
私の名前は人間としてのものだから、こっちの世界で使うつもりはない。
だからコボルトたちの前では名乗るという事はできなかった。
考えてみれば……御役目としては、そうなのかもしれない。
彼らは、ここが皇女様の陵墓であることを尊重してくれたから、そう思ってくれるんだろうと思えた。
遠い昔の死者を未練たらしくいつまでもと、そう考える者もいるだろうからこそ、大事にしてくれる見方はうれしい……。
私は、乳母殿という呼び名をありがたく受けることにしよう。
……ああ、いけないいけない。
手紙と納品書を丁寧に畳み直す。
これ、何か文箱みたいなものがないか、隠し部屋を探してこなくっちゃ。
それから、送ってくれた石で、まずは園丁を復活させよう。
コボルトたちが整えて行ってくれた庭園は、そろそろ私の間に合わせの手入れじゃ、みっともないことになりつつある。
あっちこっち飛び出す枝やら、伸び始めている雑草の気配を思い出しつつ、私はひとまず一個、丸石を持ち上げた。




