彼らの物語 8
ちょっとそろそろ不穏…
がば、とケンは身を起こした。
慌てて手を見てみると……何も、無い。
周りを見てみれば、レベルアップと生き返りを行う復活の間だった。
横の寝台には、ミヤとナオが横たわっている。
レベルアップのときには部屋まで戻されるが、生き返る場合はこの間に息を吹き返すまで寝かされているのが常だった。
「……っ」
ケンは頭を乱暴にかきまわした。
「全滅かぁ……」
選ばれた者にしか、行うことのできない特定地点での甦りとそこへの帰還。
セーブ地点、あるいはリスポーン地点はこの部屋に設定されているようで、しかしなぜか、別の地点を設定したり、上書きすることはできない。
とはいえ、必ず生き返ることはできるし、そもそも三人はこの『お城』こそが生活の拠点なのだから特に不便はなかった。
寝台の上で、ケンは足を曲げ伸ばしした。
最後の記憶の中で固く凍りついた足。
仲間たちの体が折れていったように、おそらくは折れただろうケンの足もきちんと治っている。
生き返る、あるいはゲームで言うリスポーン。
初めてではないけれど、慣れたといえるほどの回数を重ねたわけではないものは、彼の神経をひどく疲弊させた。
少なくとも体はがちがちに強張っていて、生き返ったついさっきまで、死んでいたんだろうなと考えてしまう。
「……ぅ」
隣の寝台のナオが呻いて、咳をした。
ヒューっと音を立てて息を吸い込んで、ようやく瞼が開く。
「……ごほ」
次いで、ミヤも息を吹き返したようだった。
ぎゅっと、何かに耐えるように体を丸めて、固まる。
生き返るときはいつも三人一緒だから、ミヤが目を覚ましたときには必ずこうすることを二人も知っている。
必死で息を整え、死んだ時の恐怖を乗り越えている、と知っている。
もう何度もそうしてきた。
「……」
やがてその背の緊張が和らいだ。
「ミヤ」
「……うん」
ナオの呼びかけに応える声も、いつもと変わらない。
だが、まだだ。この状態のミヤは、まだ空気がぱんぱんに入れられた風船と同じ。
「子どもたち!」
それを打ち破るように、扉をあけ放って『賢者様』が駆け込んできた。
中の気配から、護衛の騎士が覚醒を知らせたのだろう。
「ああ、ああ、なんてことを、私は。情報が少なくて、怖い思いをさせてしまったね」
「いいえ! 力およばず、ドラゴンを退治できませんでした……」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
口々に謝る彼らに、『賢者様』は首を横に振る。
「本来はもっと調べてから行ってもらうべきだったね。あの川は穀倉地帯の水源として、急を要するとはいえ、無茶をさせてしまったのは私だから」
そうして一人一人の頭を撫でて労ったあと、言葉を続ける。
「それでもあのドラゴンを上流から追い払うことはできたよ。だから、あなたたちは失敗なんかしていない。大丈夫」
手のひらのぬくもりに、三人は肩を震わせた。
ミヤはぽろぽろと涙をこぼしはじめる。
失敗したと思った、その落ち込みを慰められて、それが沁みないはずはない。
特に、子どもの柔い心には。
「あのドラゴンは王家の斥候隊が行方を追うことになるなら、そのときまでは力を蓄えよう。さぁ、いつまでも石の寝台では痛いだろうからね、部屋に戻ろう」
復活の間は入るときと出るときに別の扉を使うのが決まりとなっている、その決まりを守って、『賢者様』が出るのも出口の扉だ。
ローブの背中を追う形で、三人は復活の間を出た。
騎士たちが頭を下げる中を、いつも通りに回廊を通り庭を横切り、塔の自分たちの部屋へと歩く。
『お城』の中とは言え、いわゆる貴族が歩くような道を通ることはない。
とはいえ、明るい回廊を使ったりと、バックヤードを思わせる道ではないのだけれど。




