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奥津城守の帰還  作者: みかか
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蜘蛛、おことわり!

なかなかにバトルって難しい

 蜘蛛は天井からじっとこっちを見ている。

投げ網で狩りをする蜘蛛は目がいいらしい。

表情がわからない、というか無いけど、やたらでかい一対の目と視線が合い続けているのは気味が悪い。

反らしたのは、私。

【目的】まで一気に走り抜けようとする私を包もうと、また網が伸ばされる。

足を踏ん張って急激に方向転換したその脇を、白い塊がすり抜けていった。

まだだ。

私とにらみ合っていた間、手持無沙汰ならぬ脚持無沙汰だった蜘蛛が、後ろ手に複数の網を編んでいたのが、わずかに見えていた。

もう一回、ダッシュしながら方向を変える。

追いかけてきた蜘蛛の、その真横に有る柱の向こう側へと、柱を盾にする形で逃げた。

柱にべしゃ、と網がぶちあたる。

……用心深いやつ!

まだ、前脚で網を広げてみせている。


 エントランスの鬼ごっこは、柱が鍵だ。

遮蔽にすることもできるけど、反面、蜘蛛ならこれを伝って降りてくる。

その方が糸でぶら下がるよりも速いし安全だ。

こと、蜘蛛にとっての残弾があるならば。


 私はジグザグに、柱の陰に隠れながら目的の物までを走る。

目的の物、見張り一号の頭!

固定されていないから、絡んでいる糸を引きはがせばそれだけで持ち上げられる。

入り口を視界に収められる、庭園の扉の横……いる!

網に白く覆われてるけど、設置したのと同じ場所に、でっぱりがある。


 もう一度、柱のぐるりを回って裏側に隠れる。

疲れて脚を止めたようにして、今までとは逆に蜘蛛を引き寄せる。

こい、こい。

天井にぶら下がるんじゃなくて、柱に足を移せ……

今だ!


 私の真上に位置を取ろうとした蜘蛛を柱の裏側に残して、私はダッシュをかけた。

ごめん、見張り一号! あとでちゃんと修理するから!

見張り用ゴーレムの頭、握るには大きなそれを蜘蛛の網の上から持って、私は急いで引きはがそうとする。

ちょうどガムテープのような、粘着物が剥がれる音とともに、小型ゴーレムの頭は体から持ちあがる。


 くらえ!

だけど振り返ったそこに、追いかけてきているはずの蜘蛛の姿は無い。

気配に上を見るより先に、足が前に出た。走れ!

私の頭をかすめるようにして、細い脚と、そこに掛けられた布のようなものが通り過ぎる。


「あ」


 たったそれだけの衝撃なのに、足がもつれる。

スローモーションのように、周囲がゆっくり見えた。

そのまま降りて追うよりも、効率がいいと判断したんだろう。

蜘蛛は再度、私の真上まで忍び寄っていた。

そしてその前肢には、引き伸ばされた投げ網がある。

完全に姿勢を崩して倒れた私は、必死で転がってその場を逃れようとした。

けれどその上に被せるように一面の白が迫る。落ちてくる。


「っ!」


 見張り一号の頭を握ったまま、私は右手を上に挙げた。

落ちてくる蜘蛛に、なんとしてでも一撃与えてやる……!

歯を食いしばる、牙をむく、そんな気持ちでただ掲げた腕に投げ網がかぶさった。

そのまま手に、蜘蛛の重さがかかる。

顎、砕いてやる!


 …………べしゃ。

湿った音に、包まれ……あれ? 重量が、おかしい。

疑問はすぐに、投げ網と一緒に溶けて、答えが顔に垂れてきた。

あんたなの?


 伸ばした形のまま固まっている右の肘を、左手を添えて折り曲げながら、私はゆっくりと身を起こす。

蜘蛛の残骸と、その上からかぶさっているスライムの中を。

そう、あのデカスライム。

食べられないとわかっているからだろうか、浮き上がるようにして、私だけスライムの外に追い出された。

スライムの表面を滑り落ちて、私は床にうずくまる。


「ありがとね、助かった」


 表面を撫でてやると、そこだけが半固体、ゼリーくらいに頑なってぷるぷるする。

これ、どういう感情なんだろう。スライムはわからない。


 どうやら、私と蜘蛛が互いしか見えない状態になってから忍び寄ってきていたらしい。

出入り口が見えているのに蜘蛛が逃げないから、好都合とでも思ったんだろうか。

スライムは音を立てないし、万一蜘蛛が察知用の糸を張っていたとしてもすり抜けられるから、蜘蛛が気づけなくても当然か。


 立ち上がってみる。うん、どこも砕けてない。

でもなんか、……綺麗になってる気がする。

確かに一度被った投げ網の痕跡は、頭にも体にも残っていない。

それどころか手に握った時には蜘蛛の糸まみれだった見張り一号の頭もすっかり綺麗になっていた。

置物やフィギュアの掃除にはスライムをかけるのが一番楽だ、ってな話を思い出した。

もちろんそっちは地球の、生きてないスライムの方だけど。

生きてる方のスライムはといえば、にょるにょると、エントランスのあっちこっちに張られた巣の清掃作業に移っていた。

に、してもこのデカスライム、ここまで来てて逃げないってことは、多少なりともここに居つく気になってるのかしらね。


 しかし、ああいう動物的なものにホームグラウンドで負けかける、というのはなかなかに由々しい事態だ。

ゴーレムたちはまだいないから、また別の蜘蛛が入ってきてもおかしくない。

ゴブリンでも数を揃えられると辛いし、蜘蛛じゃなくても絡め手を使われると対処が難しいな。

武器的なものをそろそろ考えないといけないかもしれない。

見張り一号改良案とはまた別に、考えなくちゃならない課題ができてしまった。

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