彼らの物語 7
与えられた新しい魔法は、攻撃魔法。
それから防御の魔法をもうひとつ。
小さな声で解読した呪文を少女がつぶやくと、その掌の上にぴきぴきと幽かな音をたてて、小さな氷が生まれる。
氷は小指の爪より大きくなることはなく、そのまま空気に溶けて消えてしまったが、それは呪文が小さな声であったためではなく、不完全だったため。
氷を生み出す魔法ではなく、それを利用した氷の、いわゆる矢じりをぶつける魔法だったから、途中でおさめてしまわないと部屋中があわれなことになってしまう。
この攻撃魔法を、三人ともが習得しなくてはならない。
習得できるだけのレベルアップはしたのだから。
「ゲームの勇者って、すごかったんだなぁ」
最後の一節が上手くいかない、と拳を握っては開き、ケンがぼやいた。
街から街への途中でレベルアップして呪文を覚えたら、次の戦闘から使えるのが『ゲームの普通』だったから。
これまでに覚えた魔法も同じ習得方法だったが、それでもあまりつまづいたことがなかったために、余計ゲームの便利さがうらやましくなったのだろう。
「まぁ、これがこの世界のシステムなんだったら、ちゃんとやらないとな」
「そうそう、こういう風に街に戻ってから覚えるゲームもあるって、前に言ってたよね」
ナオもまた、難航中だった。
相性が悪いのかなぁなんて愚痴りながら、読み解いた呪文のあれこれを石板に書きつけて、コツを掴もうとする。
石板にロウ石。
えんぴつのようには持てないから、チョークのように持って。
そうして書かれているのは地球の言葉、日本語の、ひらがな。
ここを強く、ここを弱く。アクセントを変えて。
ミヤが感覚でできることを、ケンとナオは徹底的に分解して、自分に合うように、自分が使えるようにしていく。
この学習法を、彼らは三人で編み出した。
ひとつの魔法を覚えるまでに、何本ものロウ石を、つまめないほどに使いつくすことになるが、それしかできないことや、そうできなければ自分たちを認めてもらえない事、もろもろの事情で三人は学習の手を休めなかった。
それに……この魔法を習得しなくては、次の大きな仕事は危険だと言われたことも、『ゲームクリア』の熱をあおった。
要は、ミッションクリアのための推奨レベルや、持って行かなくては苦労する呪文のようなものなのだろう。
敵の苦手とする魔法を覚えずに突っ込んでいくなんて、苦戦するに決まってる!
だったら、きちんと推奨レベルを守って、勝ちに行く方がいい。
三人は、まだリアルタイムアタックや、低レベル縛りプレイということを知らなかった。
ただ、自分たちしか、この国を助けることはできないという、英雄の使命感が彼等を駆り立てる。
「よし、もう一回だ」
ケンとナオは、互いに目を閉じて、呪文の暗唱を始めた。
一方のミヤは、浮かない表情で手を握りしめては開いている。
なんだか、なにかを忘れているような……そんな落ち着かなさが、彼女の中に在った。
呪文を一節忘れていないか。
新しい防御の魔法は、これから三人で読み合わせて擦り合わせる段階だが、読み違えてはいないか。
与えられる呪文が高度になるにつれて、ミヤはそうやって、一個一個、不安を潰していくのだけれど、この不安が本当に魔法の習得に関するものであるかはわからないままだった。




