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奥津城守の帰還  作者: みかか
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自室が物置にでもなってたような

どこになにがあるかわからない、は、他人の本棚も同じなわけで。

 ダンジョン最上階の、隠し部屋。

いくつもある本棚には、厚めのノートくらいの本が何冊も並んでいる。

だというのに、目印にするべき背表紙には何も書いていない。

この世界の本っていうのは、そんなもの。

立派な表紙の本は一財産。

日本の図書館みたいなものは、たぶん王様とか上の方の貴族くらいしか持ってないだろう。

だから私は中身を確かめるのにいちいち抜かないとならなかった。


 ぱらぱらと中身を見る。

これ、歌だ。……皇女様のために書きとめといたのかな。

しかし我がことながら印刷物みたいな字(この概念は日本で手に入れてきたものだけど)だわ。

同じ字は、全部同じ筆跡。

点を入れる位置や文字の角度がまったく同じ。

ワープロソフトの、ちょっと変わったフォントの方がまだかわいげがあるといえそうな、角ばった字。


 次、ああ、これは御伽噺かな。おぼえがある。

この、王様とかしこい村娘の話とか。

……『私』が忘れるってことは無いから、備忘録にしたっていうのもおかしな話なんだよね。

これ、さっきの歌にも言えることだけど。

他に覚えておく事でもできたとか?

それなら、そっちの方を書き留めておくような気がする。

ひとまず、次の本に移ろう。

でないと片付け中に本を読み始めた時みたいになっちゃうし。


 三冊目も御伽噺。

あ、挿絵入りだ。とはいえ、線画だけ。

本当にここに並んでる本、全部『私』の備忘録だったりして。

どんだけ筆まめなのよ、『私』。

四冊目。……んー、これは筆跡が違う。

あきらかに人間が書いたとわかる書面は、柔らかい、読みやすい筆跡だった。

たぶん腕のいい写本師が手掛けた本なんだろうってのはよくわかる。

ただし製本をしていないのは、他の本と同じだ。


 それはそれとして、中身はすごくまっとうな魔法の教本だった。

魔法の初心者が、その次の教本にするくらいのレベル。

これくらいなら手に入れやすい物だろうけど……いや、でも、やっぱり納得はいかない。

だって、本当にこれを手に入れる手段が思いつかない。

私のつてでいうなら、コボルト一族みたいな人達に頼めば手に入れられるだろうけど、このダンジョンにそんな人……こういう本を手にした人が、来るようなものだろうか。


 もやもやしたまま、使えるものはないかと一枚一枚、ページをめくっていく。

火球の魔法……ああ、派手で花形の魔法だから、最初の目玉にするよね。

まっすぐ飛ぶ、雷撃の魔法……これも利便性があるしね、中級者は欲しがるよね。

石化はやっぱりまだこのレベルだと入らないか。

浄化。あ、これこの間にあったら、お湯沸かす手間なかったな。

後で勉強しとこう。これは欲しい。

ええと、「使い魔を造る」……あれ?

そこまでめくって、私は違和感に気づいた。

なんかこのあたり、癖がついてるような気がする。

もう一枚、めくる。

そこにあるのは、使い魔の視界を借りる魔法。ちょうど、ここだ。

ここがぱかっと開きやすくなってる。

あ、でもこの魔法、手持ちには無いけど「使える」やつだ。

なんだろう、分裂した後の事だから記憶にないけど、『私』は後からこの魔法が必要なことでもおきたんだろうか?

この魔法を『私』が使う理由がよくわからない。

なにより、ゴーレムたちがまだ健在だったころのことだ。

わからないながらも、私はその本を持ち出すことにした。



 使い魔の視界を借りる魔法。

これを使えば入り口あたりに常駐させたゴーレムからでも情報がわかる。

本来は生き物タイプの使い魔に使うものなんだろうけど、ここにいる他の生き物って、スライムだからね。

幸い、ゴーレムでも問題なく使えそうなものだからアレンジして使うことにしよう。

そんなことを読みながら考えて、整備室まで歩いていたら、消化作業中の大スライムにつまずいた。


「あ」


 ぼにゅにょにょん。


「ご、ごめん」


 ぶるぶると、私がつまづいたことで体を震わせていたスライムの、そのつまづいたところを撫でた。

普通、スライムっていったら、ぬるりぺとりつるり、そしてぐにゃり、なんだけどこの大スライム、なんだか硬めの弾力を得ているような気がする。

それこそ、普通のスライムなら千切れないおもちゃのスライムって感じなのに、こいつは今、表面サラサラでマイクロビーズのクッションくらいになってきてるような、気が。

ゴブリン食わせた影響かなぁ……。

グミキャンディーくらいで止まってくれるといいんだけど、なんて考える。

……いや、あのときたしかに欲しいとはいったけど、この大スライム、ゼラティナスキューブへの道を歩み始めてないよね……?

こころなし、さらにでかくなってきてる気がしなくもないし。

撫でてる手に触椀を絡みつかせて来ないことからして、私は「たべられないもの」認定されている事だけはたしかだけど。


 整備室につくと、私はさっそく作業にとりかかることにした。

動き回るようなゴーレムを、今作ることはできない。

じゃあ、動き回らない、小さなゴーレムを造ればいい。

見れば見るほど悲しくなる残骸の山の中から、警備ゴーレムの腕と拳を選びだし、それから整備室備え付けの工具を取りだす。

本来は専門のゴーレムが担当する作業だから、私が使うにはやや大きい石鑿だけど、なにしろ背に腹は代えられない。


 警備ゴーレムの拳に指は無いから、腕に載せればちょうど柱の上に球を載せたような形になる。

頭と胴体に見立てるには充分。

あとは、胴体の下部になる、肘のところをちゃんと立てられるように平らに削ればいい。

動かすのを考えるのは、頭だけでいいし。

そっちは球状だから、手首部分のすり鉢状のところで受け止められる。

ちょっとずつ、ちょっとずつ。石鑿で削っていく。


 ……。

…………。

これ、今日の、壁修理、終わらせといて、よかった、かも。

さすがに素材そのものが硬くて、なかなか考えたようにならない石材に、私はそんなことを思った。

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