彼らの物語 6
いい子たちなんですよ、ほんとに。
「賢者様」
「賢者様」
「賢者様」
軽やかなノックの音に続いて、騎士が開いたドアの向こうに居た存在に、彼らは歓声を上げた。
「みんな、レベルあげおつかれさま。より強くなったね」
ローブを着、そのフードを深くかぶった人物は、彼ら三人にとっては学校の先生のようなものだった。
親はおろか兄弟姉妹祖父母もおらず、地球の日本を知っているのはお互い三人だけの状況では、頼りになる大人、ちゃんと話を聞いてくれる大人というだけでどれほど心強いか。
まして『賢者様』は彼らを庇護してくれ、魔王を退治するまでバックアップしてくれるというのだから、頼りにしないはずがない。
「『王様』はゴブリンを退治できたことにたいそうお喜びだよ。これで民の往来が危険にさらされずにすむとおっしゃっていた」
『賢者様』の年齢は、体型を隠すローブや顔を隠すフードのせいでわかりにくいが、彼らにとってはおおよそ「ずいぶんと大人だ」と判別できる程度。
男にしては高く、女にしては低い声で、男女の別はわかりにくい。
背の高さも男にしては低く、女にしては高い。
つまり、見た目ではどんな人物かを推しはかることはできないといえた。
だが彼らは「見た目で人となりを決めつけてはいけません」という教育を受けていた。
日本では標準的な道徳教育。
ゆえに、彼らは素直に、自分の受けた扱いから「この人物は信頼できる」と判断していた。
「何匹か逃げたものもあったらしいけれど、先日のような大集団になるまではおとなしくしているだろう、と騎士団は判断しているよ。安心しておくれ」
「あ、……やっぱり逃げてたかぁ」
「おや、全滅を狙っていたのだね。でもああいった場所では、どうしても打ち漏らしが出てしまうからね、仕方ない」
右も左もわからない異世界で、ただただ彼らを守ってくれている『賢者様』の役に立ちたい、と。
「ミヤ、君の守りの魔法は見事だったよ。馬も御者も無事に帰ることができた」
「ケン、魔法の方向性を咄嗟に思いついたそうだね。その発想が大事だよ」
「ナオ、火力の高さに、護衛の騎士が驚いたそうだよ。その調子で学びなさい」
なにより『賢者様』はよるべなき彼らを認めて、褒めてくれる。
三人が最も飢えているものを、与えてくれる……。
「さて、次の命令があるまで、またしばらくかかりそうだ。そろそろ新しい魔法を覚えてみるかい?」
「はい!」
「はい!」
「がんばります!」
ましてや、もっと褒めてくれるようなチャンスを与えられたなら。
「ああ、君たちは本当に心強い。君たちなら、勇者の敵討ちも必ず果たせるだろう。……さぁ、これが新しい魔法だよ」
三人それぞれに、羊皮紙が一枚ずつ。
びっしりと書かれた文字には、彼らのまだ知らないものもある。
これを推測しながら魔法を組み立てていく、というのが彼らの魔法の学び方であった。
「ではまた明日、同じような時間に。それまでに、わかるところまでそれぞれで進めてごらん」
口々に返事をして、各々が手に有る「魔法」を見つめて解読を始める。
その様子に『賢者様』は立ち去り際にひっそりと笑ったようだった。
「わかる?」
「うーん……ここ、炎の魔法とちょっとにてる」
「でも、呼びかけるものがちがう。炎は二回くりかえしたけど、これ一回だ」
「俺がわかるのはここ。たぶん色の名前だと思う」
「あ。赤く赤くの所? うん、語尾が同じだ」
「あと、花の字も同じ。炎の時みたいに花にたとえてるの、きっと」
彼らは自分たちに与えられた宿題を、頭を付き合わせて解き始めた。
それは、彼らが本来であれば受けるはずだった授業の光景に似ていた。




