実家の防犯は大事
結局ゴブリンの『後始末』はあの大スライム一匹に任せることにした。
もしあれでゼラティナスキューブなりに急成長しても、一匹なら私だけでも対応できると判断したから。
今は二人目に取り掛かってる。
そっちも大変だけど、防犯カメラの方も進めていかないと。
もし可能なら、絶対便利だしね。
ぺとり。ぺと、ぺと。ぺとり。
それはそれとして、私の思考とはまったく別に、体の方は壁の修理にいそしんでいた。
きちんと中の空気を抜きながら泥を塗りこめないと、一体化するように石化させても中空のある石みたいにもろくなるからね。
泥をすっかり壁に塗りこんで、上から手で売って空気を抜く。
すっかり穴を覆い尽くせたら、考えるのはいったん中止。
手を当てて、同じになるように石化させる……よし。
確認のために上から叩いたら、右手からも左手からも同じ音がした。よしよし。
とはいえ、穴ぼこはあちこちにある。
あのスライムがすっかり消化しきるのと、私がこの辺りの修理を終わらせるのと、どっちが先かみたいになってきたなぁ。
さて、次の穴、と。
防犯カメラ、どうやろうかなぁ。
近いのは、昔ファンタジー小説とかで見た遠見の魔法かなぁ。水晶玉とか使う奴。
千里眼とまではいかなくても、視点固定で入り口辺りが見えるようにしてたら……って、基本的な事忘れてた。
私、というか『私』の習得済みの手持ち魔法に、遠見の魔法に類する魔法、無かったはずだ。
あると便利なのに、なんで『私』、習得してないんだろ。
じゃあ……
私は目の前の、普段の穴三個分の泥を突っ込まなきゃならないだろう大穴に思いつく。
何か入れられそうなくらいの大きな穴。
実際に、ここに私の予備ボディみたいなものを作って埋め込んでみるの、どうだろう。
この体からは抜け出ることはできるわけだし……いや、やめとこ。
これはダメ。
よく考えたら、完全に生き埋めだわ。
人間の感覚からすると、恐怖以外の何物でもない。
本気の「かべのなかにいる」だよ、没、没。
考えを振り払って、私は泥を穴に詰め込んで、石化させる。
後でおかわりの泥を持ってこなくっちゃ。
でも、視界そのものの拠点を置くってのは悪くないような気がする。
カメラと考えは似たようなものだしね。
まぁ、カメラそのものを作るのは無理なんだけど。
はー……人手って大事なんだなぁ。
そもそも、回遊型警備ゴーレムが入り口辺りをうろうろしてたから、その子たちが相手してる音でわかったもんなぁ。
繰り返しの作業が終わると、私はバケツを持って立ち上がった。
修理一号から落とした泥は、入り口近くにスペースを作って置いてある。
もしそれなりに知能があるモノが入ってきたらぎょっとするか、不審物として調べるか、あるいは泥に擬態した何かだと思って攻撃を仕掛けるかもしれない。
そんな光景を想像して、思わず笑いながら泥のスペースまで戻り、その山にバケツを突っ込む。
「どっこい、しょー!」
バケツ一杯に泥を満たし、それを強引なくらいの力で引き上げる。
ぼたぼた落ちる、泥の雫。
今着てるこの服、作業着にしちゃってるけど、それなりに綺麗な服だったから跳ね返りの『水玉模様』が気になるなぁ。
『私』の遺産みたいなものだし、使い潰すにしたって、ちょっとこの使い方はって思われそう。
そんな風に考えながらも、作業を止めるわけにはいかないから、その水玉が増えるのを甘受するしかないんだよね。
手を泥だらけにしながら私は穴を埋める作業を続けた。
結局、まだ魔石をかじる決心はつかず、私は今日も穴ぼこ五つを埋めるだけで別の作業に移る。
今日の分の新入りスライムを、担当させる箇所への移動。
修理一号からの泥の採集と、清掃と状態のチェック。
肉食させてる大スライムの消化状況のチェック。
庭園の清掃。
そんな毎日の仕事をこなしているうちに、ふと最上階の隠し部屋……『私』が、私のいない間にすっかり倉庫にしてしまっていたあの部屋を思い出した。
あそこ、私が知らない物ばっかりだったし、本棚もあった!
「物がある生活」が普通だったから、すっかりスルーしてたけどあそこ、もしかしたら何かあるかもしれない!
私は仕事を済ませるなり、隠し部屋へと向かった。
扉の向こうは相変わらず、物を適当に棚やら箱やらに収めました、という大雑把な収納で、何をどこにしまっているかまったくわからない。
とはいえ、物が溢れている様子でもなく、活動するスペース自体はちゃんと確保されてる。
妙に生活感のある倉庫、みたいな感じ。
暗闇でも見える目で良かった。
この倉庫を灯り無しで何か探すなんて無理だ。溢れていなくてもそれくらいの量はある。
……でも、そもそも『私』は物をあまり必要とはしない。
いや、服とかそういうものは駄目になれば調達してたけど、最低限だった。
なのにこの部屋には、私が今の今まで必要としなかったような物がたくさんある……。
商人でも呼んでた? いや、商人なんてこれないよここ。
服を調達といったって、ゴーレムに原料を採取させて、自分で作るくらいのもの。
そうやって作った服だって、……こんなに上等な服じゃなかった。
私はあらためて、自分が適当に選んでいた服が、十七年以上前の自分にとっては上等なものだったことに気づいて、申し訳なくなってしまった。
それから、本。
とはいえ本と呼ぶには少し薄いかな。分厚いノートくらいのもの。
それこそ日本じゃありふれてるもののひとつだけど(だからこそ、こないだひょいひょい筆記具持ち出したんだけど)、こっちじゃそもそも書くための紙にあたるものが、それなりに高かったはず。
本なんて写本を自分の手で作るか、写本師に依頼するのが普通の、印刷がまだまだの世界だったはずだ。
おかしい。おかしすぎる。
……ありそうなのは、このダンジョンに挑戦した人間が全滅して荷物をとりあえず纏めている、とかなんだけど、それはなにより本や服といったここにある物の種類が否定する。
武器防具やそれにランタンといった、ここに挑むなら持っていて当然の物がまったく見当たらないし。
とりあえず、出所は後で考えることにして、私はそこに並ぶ本にどんな物があるかを調べてみることにした。




