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奥津城守の帰還  作者: みかか
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実家を守るためなので

ゴブリン決着です。

 走る。

一気に距離を詰める。

さっきと同じ要領だと自分に言い聞かせながら。


 横からゴブリンの頭を殴りつけた。


「ギャアっ」


 何が起きたか、わからないうちが勝負だ。

状況を理解させるな。


 だが、こちらの二人組の方が手練れというやつだったのだろう。

一人目がやられているうちに、二人目は咄嗟に前へと駆け出した。

私の手が届かないところから、二人目は松明を掲げてこちらを観察している様子で、動かない。

……冷静なのか、それとも単にこっちの動きを待っているのか。

私は手に持っているままの石を、振りかぶって投げた。

石は二人目の頭をかすめ……外した!

松明にあてるつもりだったのが悪かった。


 それが呼び水になったんだろう、残るたった一人のゴブリンは悲鳴を上げながら逃げ出した。

逃がすわけにはいかない。

私は近くの残骸から似たような大きさの石を二つ掴むと、それを追いかけた。


 灯りが要らないのは、私にとっては有利。

足音がどうしても出てしまうのは、私にとっては不利。

ダンジョンのバックヤード階層ゆえの部屋や区切りの多さは、あのゴブリンにとっては有利。

私がそれを把握しているのは、あのゴブリンにとっては不利。

どこかに身を潜めて、私の足音をやりすごし、入り口に戻るのが最善手だろう。

だが灯りがあるかぎり、私に見つかってしまうというくらいは考えるはずだった。

だがこの暗闇の中で迂闊に灯りを消せば、どうなるかもすぐに考え付くはずだ。

まさか自分が、ホラー映画の怪物の立ち位置に立つなんて思いもしなかった。

灯りを隠せる遮蔽物の影でも探すだろうか……いや。


 視界の端に、ちらちらと炎が揺れた。

灯りは、あそこ。

でも、あそこの部屋じゃない。

私はわざと足音を高くして進む。

暗闇に視界を閉ざされない目は、「灯りが置かれている部屋」のすぐ前にも別の部屋の入り口があるのも、見える。

そう、ふたつの部屋の入り口は、廊下を挟んで向かい合っている。

その入り口の陰からなら、顔を出さなくてもたぶん灯りの揺らめきや、遮る影くらいは見えるだろう。

私はわざと後ろ向きになって進んだ。

歩調は変えない。

一歩、伺うように。

二歩。もう少しかな。

三歩。立ち止まる。

松明の灯りを背にして、待つ。

……ほら。


 ゴブリンが顔をのぞかせた瞬間、私はその顔目がけて石を投げつけた。

石を追いかける形で私は前に進み、しかし部屋に入ったところで飛び退った。

私の目の前を、鉈がギロチンじみて振り下ろされる。


「ギィッ?」


 困惑する声の方へと、残る石を叩きつけた。

ぐしゃんと潰れる感触で、終わったのを確信する。

警備用ゴーレムの手足に指が無い、特に手は球状の理由を初めて知った気がする。

この手ならなるほど、振り回すだけで十分武器になる。

修理一号のもとになった園丁ゴーレムのような、繊細な指はかえって「もたない」。


 私は肩の力を抜いて、耳を澄ませた。

このあたりからはもう、足音らしいものも、気配も無い。

それでも一応、私は地下一階と、第一階層すべての部屋を見て回った。

さすがにあの後に侵入してきた奴はいないでしょ、とは思いたいんだけど……。


 ありとあらゆる、ゴブリンが隠れられそうな場所を覗いて回り、気配も無い事を確認しながら入り口まで戻ったら、そこには停止している修理一号がいた。

今日のスライムはやたらと大きく、頭全部を覆ってしまっている。

ちょうどいいや、このスライムにゴブリンを片付けてもらおう。

修理一号に臨時の命令を与えて、スライムを載せたまま、第一階層の奥、ゴブリンをそのままにしている場所まで移動させた。

食べ物のあることを感じ取ったのだろう。

移動させなくても、スライムはそれの上にべちゃりと堕ちた。

すぐに溶かしてしまえるような強力な酸じゃないだろうけど、匂いがし始める前になんとか四体分終わらせられるかな?

もう一匹くらい、これ担当にしようかな?

ゆるゆるとゴブリンの体全体を包み込む動きに、私は少し考えた。

あんまり血の味覚えさせて凶暴になられるのも、困るしなぁ。

ひとまず、この一体はこのスライムに任せて、私は修理一号を綺麗にするために整備室へと連れて行った。



 今日は、疲れたなぁ……。

修理一号の泥を落としたら、今日はもう沐浴しなくちゃいけない時間になっていた。

壁は順番に直していってるけど、今日はゴブリンの対処でおっそろしく時間取られた。

基本的に、腕力は問題ない。問題なかった。

……汲み上げたバケツの水で、私はしつこいくらいに手を洗った。

落ち着け落ち着け。思い出せ。

『私』自身は侵入者と何度も戦ってきたじゃないか。

十七年間の柔らかい手と、平和な暮らしを学習してきたことがこんなに影響するなんて、『私』は考えもしなかったんだろう。

十七年でこれ。

もし一生分なら、どうなっていたんだろう。

つくづくと、飛び道具、特に銃や弓矢が、戦闘というもののハードルを下げたことを理解した。

あれは危険だ。

攻撃用の魔法も似たようなものだろう。

手に、死が伝わらないという意味では。


 手を洗うのを止めて、新しくもう一杯汲み上げた水を頭からかぶる。

冷たい。

そう思いはするけど、冷たさを感じ取ってるんじゃなくて、冷たいと判断してるね、これは。

ますます私は人間じゃないことを実感して、気が重くなりながら、布で身体と頭を拭く。


 別の事、考えよう。

そうだ、防犯カメラとか監視カメラとか、そういうものなんとかできないかな。

機械的な仕組みでは無理でも、魔法的なもので代理させられなかったっけ。

侵入が早くわかるにこしたことはないし。

何かないか、明日から考えてみようっと。


 ほんの少しだけ上向いた気分で、私は皇女様の所へと、今夜の務めに向かうのだった。

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