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奥津城守の帰還  作者: みかか
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ゴブリンは奪う

ゴブリンに対する独自設定があります。

 ゴブリンといえば小鬼であるが、この世界においては実はゴブリンという人型の種のひとつにすぎない。

人里離れた山間などに、小規模な集落をつくり、狩りやわずかに農耕などをして暮らしている。

人間などとは接触を避け、同種と交流や交易をおこなう閉じた生活をしてリう。

人間と会わないようにしているのだから、そういった集落で暮らすゴブリンを人間が知らないのは当然といえる。

加えて、ゴブリンのある特徴が、凶暴な略奪者、人ではなく魔物というイメージをもたせることとなった。

今まさに荷車を襲う、このゴブリンの集団のように。


 容赦なく突き立つ粗末な矢や、ぶつけられる石に馬は驚き嘶いた。

山道や林道、森の中は、特にゴブリンの強盗たちの狩場にされやすい。

身を潜める場所、つまり遮蔽物が多く、開けた場所のようには動けないからだ。


「ひいいいっ!」


 何が起きたのかを悟った御者が情けない悲鳴とともに馬を走らせようとしたが、すでに距離を詰められている。

荷物は早い者勝ちが彼らのルールだ。

それと大きな肉が、ひとつ、ふたつ。

荷車を囮に捨てて逃げようとした御者の背中に矢が刺さり、さらに回り込んだ一人がその頭に、ハンマーの形にもなっていない石斧を振り下ろした。


 ギャアギャアと、カラスが鳴き交わすのにも似た歓声を上げて、ゴブリンたちは荷車の中身を奪い合う。

肉はたっぷりあるから、奪い合わずともいいが、物はそうもいかないからだ。


 人を襲うゴブリンは、人を食う。

もとい、人肉を食うことを覚えたゴブリンは相変異を起こし、二度と共同体の仲間には戻れなくなる。

サバクトビバッタなどに見られる相変異こそ、ゴブリンの『ある特徴』だった。

集落で閉じた生活をするゴブリン、いうなれば共同体型は、人とそう変わらない姿をしているが、変異を起こしたゴブリンは口が大きく……それこそ、耳まで裂けたように大きくなる。

文字通り、人相が変わる。

凶相とでも呼ぶべきそれは、人食いのあかし、もはや二度と戻れない烙印でもある。

ゴブリンの強盗団は、そういった者たちが寄り集まって生まれる。

一度そういう集団が生まれれば、後は似たような者たちがどんどんやってくるようになるし、街道を狩場にもできるようになる。


 だが、いくらか狩れば警戒されるようになるし、彼らとて四六時中ここにいるわけではない。

彼らに気づかれなうちに通り抜けることのできた運がいい者が、目撃した惨状の痕跡を行き先で伝え、帰らぬ者の消息を求める者がそれを聞きなどすれば、何が起きたかはわかる。

それによって、狩場を通る荷車に護衛がつくようになれば、ゴブリンたちは河岸を変え、別の狩場を探すのだが、このゴブリンの群れはやや大きかったし、戦力としても十分強かった。

それこそ、護衛についていた人間を倒せる程度には。


 まだ勝てる。

あと一台くらい平気だ。

護衛からは鎧も手に入った。

今日の鎧は、護衛を倒した奴のものになったが、もう一台護衛つきの荷車を襲えば、自分も手に入れるチャンスがあるかもしれない。

それに狩場を移るなら、食料なんかをため込まないといけない。

 いろいろな言い訳を連ねて移動を伸ばし、ゴブリンたちは次の得物を待つのだった。



 数日後、腹を減らしたゴブリンたちは見慣れた速さよりもずいぶんゆっくり進む馬車を見つけた。

いつもの、屋根の無い荷車ではなく箱型だ。

あの馬車は人間を運ぶためのものだということを、古参のゴブリンは知っていた。

ああいうもので運ばれている人間は、柔らかくて美味い。

危険を冒して、人間の多いところに行かなければ手に入らないようなものだ。

馬も、その手綱を持っている人間も、いつもと違う格好……なんと、馬まで鎧を着こんでいる。

これはかなり上物だ。


 ゴブリンたちは互いに言い交し、いつものように襲うことにした。

弓矢や投石器を使える小器用な者たちが、いつも通り矢や石をぶつけにかかる。

矢も石も、硬い音とともに弾かれたが、馬車自体は止まった。

 さぁ、出てくる奴らを、出てきたはしから。

わくわくと次の矢をつがえ、石を投げようとしたゴブリンたちの前に馬車から投げつけられたのは、小さな火。

それを笑おうとしたゴブリンは、口を開けた瞬間、火に覆われた。

その一人だけでは済まない。

小さな火を中心とした、小さな部屋程の範囲が、木も、それに隠れていたゴブリンたちも焼き尽くした。


 魔法使い!

彼等は慌てて、もう一度矢や石を放った。

だがそのうちのいくつかが届くのと引き換えに、さっきまで火のあった場所に水が、大質量の水が一瞬にしてあらわれ、消えた。

一瞬だけのそれに巻き込まれたゴブリンの、押しつぶされた体だけを残して。


 それでも残った者たちは、今は死にもの狂いで矢を石を打ちこんだ。

その間に力自慢の幾人かが近づいて、あの馬車を壊してくれる、あるいは御者や馬を殺してくれる。

馬車が動か無くなれば出てくるに違いない。

その希望は、逆巻く風に潰えた。

矢は届かない。

次いで、近付いた者たちが飛び上がった。

ちょうど、下から大きな手に投げ上げられたかのように。

潰れるような音が、投げ上げられた者たちの数と同じだけ、した。


 今度こそゴブリンたちは悲鳴を上げた。

何が起きたのかわからない。

また、放り上げられる。わからない。

次は二か所に居た者たちが放り上げられた。わからない。

犠牲者が目の前に落ちてきた者は、自分と同じ形を喪った姿を見ることになった。

こうなれば欲を押しのけて、ゴブリンたちに共通して湧き上がったのは恐怖だ。

殺される、ではなく、死んでしまう。

一人が逃げ出したのを皮切りに、次から次へと逃亡に移る。

見えない手の攻撃は完全にランダムだった。

狙いを定めているとはとうてい思えないが、それでも一回に必ず一人は投げられる。

てんでばらばらに、彼らは狩場であった場所……今では彼ら自身の狩場となった場所から逃げ出した。

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