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奥津城守の帰還  作者: みかか
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撃退せよ

 入り口から入る光が陰る。

前の時のような呼びかけは無い。

どうやら最初から、戦闘目的らしい。

私は前階層の回遊型警備ゴーレムに起動命令を出す。

地下階層は整備室からお茶を持ってくるときに閉ざしてあるし、これで戸締りは問題ない。


「何者か」


 私はあくまで淡々と、なにごともなかったかのように呼びかける。

応えは当然のようになく、ゴブリン特有の、聞き取れるのは感情だけという喚き声がするだけ。

私は呼吸の代わりに数を数える。

いち、に、さん。

きょろきょろとゴブリンは入ってくるなり、中を見回す。

見張り号で見た人間は入ってきていない。

こいつが判断力を持っているからだろうか。

し、ご、ろく。

その目がこちらを見た。眼を見開く。

私がなんなのかを考えている……? 動きが止まっている。

なな、はち、く、じゅう。

ゴブリンはその手にこん棒を握っていた。

前回はもっと獣じみた動きをしていたし、背筋も猫背よりさらに曲がっていた。

だけどこいつは人間のようにまっすぐだ。

前々回の、本来のゴブリンはその中間くらい。


 私のそんな観察をよそに、ゴブリンは手のこん棒をたしかめて、ぐっと歯を食いしばったようだった。


「ガァアアアア!」


 喚きながら、ゴブリンはこちらに殴りかかってきた。

正面からそれを鉄棒で受け止めるが、見た目通りの馬鹿力。

だけど……なにか……

棒を使ってつばぜり合いの姿勢からゴブリンの力をいなし、流す。

たららを踏みかけたゴブリンは、足の力任せで踏みとどまって下から殴りつけてくる。

自分が下がる足音を遠くに聞きながら、さきほどの違和感に確信を持つ。

こん棒の戦い方じゃない。

むしろ剣の使い方に近い、人間の戦い方だ。


 ぞっとする。

こいつ、人間入り? ありえる、けど……。

考えるうちにもゴブリンは踏み込んでくる。

音をたてて振るそれは、やはり殴るものより斬る動き。それなりに形になっている。

しかし人間の気合いの叫びというより、やはりゴブリンの叫びなのはどういうことなんだろう。

わからない不気味さは、前の獣みたいなゴブリンと同じだ。

わからないのは……これを殺したらどうなるかということも、ある。


 再びもちこまれたつばぜり合いに、私はゴブリンの目を覗き込んだ。

眼自体はゴブリンのもの。

だが前に侵入してきたゴブリンには無い、『怯み』に共存する強い意思がある。

怯えながらも退かないそれは、しがらみに捕まった人間にしかないもの。

どうしようもない。どうもできない。だから退けない。……そういう自棄さ。


「ギャウ!」


 威嚇のような叫びは、何を言っているのかわからない。

何か話しかけているような気もするが、語気が荒い。

ろくなもんじゃないだろう。


 つばぜり合いの状態から、少しだけ腰を落とし、バランスが崩れた所を狙って蹴り飛ばす。

ゴブリンは小さな悲鳴とともに後ろに下がったが、すぐに姿勢を立てなおした。

前の奴とは違って、逃げに入らない。

武器を持たされている事ともあわせて、やはり最初から戦うつもりで入ってきたようだった。

ゴーレムとならば私から逃げて奥へ行く。

ナオを探すのも同様に。

ならば誰と、なんて考えるまでも無い。

こいつは私と戦わせるために、ここに入れられた。

人間が入ってこないのは、戦況の観察か、ゴブリンが逃げないための見張りか。

……いやな気分。

そっと、門番用ゴーレムを起動させる。

かすかな音とともに、彼らは出入り口の前に立ちふさがって、中を見れなくした。


「ガァッ!」


 叫びをあげてゴブリンが殴りかかってきた。

上段からこん棒の重さをたたきつけようとする、その両肘を鉄棒で打つ。

肘を狙った打撃は、痺れと、それ以上に痛みを生む。

耳障りな悲鳴がゴブリンの口からあがった。


 そのまま私は突進して、ゴブリンの腹を薙ぎ払う。

踏みこんだ足に力を籠め、鉄棒さえしなりそうな力で振り抜けば、大きななりはしていてもゴブリン。

吹き飛んで床でバウンドした。


 ……一息、つく。

正直な所、私はあの蜘蛛に苦戦した時から、さほど強くなったとは思っていない。

もともと『私』たちは直接戦うようなことはほぼ無い。

そういう用途ではないからだ。

攻撃用の魔法だってろくに使えない。

だが木の棒を金属化したものを作れただけでも、戦うことができるようになったのは、単に力が強いだけ、その力を棒という形で指向性を持たせられることができるようになっただけ。

バケツでばらまいていた量の水を、強力な水鉄砲に入れて使えばどうなるかを考えればわかりやすい。

『力が強い』というシンプルな強みは応用が効く。

その力を一点、あるいは一か所に乗せて全力で殴るとどうなるか、という答えが、今ゴブリンの体に結果として表れていた。

棒が当たった個所はべこりとへこみ、外に出血こそないけれど、外に出ていないだけということはわかる。

人間と同じ骨格ならあそこは肋骨。

砕けて折れた肋骨は、きっと爆発で割れ散ったガラスと同じことになったろう。

内部で守っていたものに、逆に襲い掛かる所まで同じに。


 ゴブリンの呼吸がおかしいから、損傷は肺まで及んだか。

ごほ、とゴブリンが血を吐いた。

ヒィヒィと何か言っているこれは、涙をぼろぼろ流している所から見て命乞いか。

やっぱりこれ、中身はゴブリンじゃない。

ゴブリンは、自分が反撃できる余力があるうちに命乞いする。

―――なぜって、相手が武器をひいた瞬間に殺すために。

こんな、手を止めてもらっても死ぬしかない状況まで粘らない。


「何を言っているのか、わからない」


 わからないふりをして、鉄棒の先端で胸の、心臓のあるあたりを突いた。

先端が床に着く感覚。

……庭園に戻る前に、全部洗ってしまわなくては。

読んでいただきありがとうございます。

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