実家をどうにか綺麗にしたい
思えば石化魔法というのも不思議なもので。あれなんの石なんでしょうね?
さて、ゴーレムのパーツ補給のめどは立った。
私は昨日の作業の続きで、調べ終わった二階のゴーレムの残骸を、壁際に寄せる作業をしながら考えた。
まぁ、実際にやってくるまでにどれくらいかかるかはわからないけど、来ることがわかっていさえすれば、やらなきゃいけないことは減る。
私は頭の中のチェックリストのうち一個、『ゴーレム修理の材料を手に入れる』に丸印を付けた。
ちなみにこの下にはずらずらとジャンルが違う項目が続くばかりじゃなくて、ゴーレム修理の項目自体にもツリー式で『パーツを適正な大きさにする』『適正な命令を与える』『量産する』なんかのゴーレム関連が続いてる。
うええ、果てが無い。果てが無いよぉ。
うんざりした気持ちになりながら、次にすることを選ぶ。
んじゃま、次は……ダンジョンの中を綺麗にすることでもやろっか。
コボルトたちはここにいる間に、庭園を整えて行ってくれた。
使ったところを整えたとか、世話になった部屋だからというのが理由だったけど、在り難い。
これで園丁がいなくても、しばらくは庭園の綺麗さは……だめじゃん!
その考え方が駄目なんだって!
猶予を多く見積もるな!
……パーツが届いたら、まずは園丁のゴーレムを数体作ることにしよう。
んー、ダンジョンの壁自体は私が修理するとして、清掃。
やっぱりスライムを連れてくるところからだけど、私は外には……あ、修理一号。
あれなら外に出られるし、スライムを見つけて捕まえてくるだけなら、いけるんじゃない?
水場に行かせて、スライムを探して、何か箱に入れて持って帰る……いけるいける。
単純な命令の組み立てだから、やれそう。ちょっとだけやる気がわいた。
善は急げだ。
私は停止させたままのゴーレム、修理一号のところへと急いだ。
コボルトたちが来てから放置したままだったから、その日数分の埃をかぶり始めた額の魔石。
指先でその埃を……あっぶな。
柔らかい指じゃないんだった。
服の裾で魔石の表面を拭ってから、指をそこに載せた。
「命令」
さて。
「第一段階、もっとも近い水場へ移動。第二段階、その場でスライムを捜索」
順番に命令を重ねて行く。
同時に、イメージも流し込む。
どう動けばいいかの指針として。
イメージとしてはプログラムを組んで、戦闘中はそのプログラムをもとに自機を動かすタイプのゲームの入力パートに近い。
始まっちゃったら、後は想定通りに動いてくれるのを祈るだけの。
「第三段階、スライムを捕まえ、保持」
そこでちょっと止まる。
入れ物、何を持たせよう。
とはいえ、私が思い当たる入れ物なんて雑用に使ってるバケツが幾つかか、隠し部屋の空き箱くらいしかない。
バケツじゃ溢れちゃうだろうし、空き箱とはいえ私が入れるくらい―――というかあれ、たぶん『私』のボディの収納箱だったやつだな―――だから、行きは軽くてもみちみちにスライム詰めたら、持って帰るのは難しそうだ。
中で暴れたらバランスとりにくいだろうし。
第一あんまりあの箱、汚したくない。
「第四命令、スライムを保持したまま、帰投。第五命令、入り口を入ったところで停止」
結局、持ったまま帰ってこさせることにした。
これで逃げられたりするようなら、改めて道具を考えよう。
トライアンドエラーだと思えばいい。
「実行」
指を放すと修理一号は起き上がり、整備室を出て行った。
よしよし、動きには何もおかしなところはないな。
それじゃ帰るまでは、壁の修理が可能かどうか、一階の壁ででも試してみようっと。
……しかし、このダンジョンができてから、刀傷みたいなものはあったけど、ここまで砕けるなんてねぇ。
さて、穴が開いた壁の修理。
穴が開いたというか、抉れてるというか……。
イメージとしては石の壁。それも一枚板の石の壁。
硬い岩盤を芯に持つ山をくりぬいてできたダンジョンに近いといえば近い。
そんな石がへこむほどなんだから、どれほどの衝撃を喰らったのやら……これヒビが内部に届いてるかも調べた方がいいかもしれない……。
そう思いながら、私は穴に、庭園から取って来た泥を詰め込んだ。
片手を元の壁に、もう片方の手は泥の壁に。
そして、石化魔法を発動させる。
泥の壁は手の下で、周囲と変わらない石になる。
石と一口で言ったって、何種類もある。
石に変えるというより、石に置換するのに近いかもしれない。
だから、特定の石にしたいなら『お手本』に手を触れさせておくのが一番いい。
石の組成はかなり複雑だってことは日本で知ったけど、この方法自体は昔からある。
逆に戦闘に使うようなのは、頭の中にある石のイメージを使うから、灰色の『石らしい石』になる……てか、コンクリートに似てるんだよね、あの石。
……ダイヤモンドに変えられないかな。
でかい鉛筆の芯ができるのが関の山かもだけど。
さて、もう見た目はわからない。
剥がれないようにしっかり埋めたけど、空洞できてないよね。
軽くたたいて異常がなければ一か所完了。
……うん、いけそう。
ちょっと手間暇魔力はかかるけど、方法はこれでいいってわかったんだ、いい方向いい方向。
腰を上げて次の穴に取り掛かろうとしたら、足元にあったゴーレムの残骸にけっつまずいた。
と、やっぱりこれも頭砕けてる。
魔石目当てなら頭を砕くのが一番手っ取り早いとはいえ、……普通はゴーレム相手にそれをやろうなんて考えもしない。
『私』があそこまでの損傷被ってたあたりで、なんとなーくは思ってたけど、こりゃよっぽど腕が立つ奴だったんだな。
もしそれが集団でこのダンジョンの復活に気が付いたとしたら、せっかく実家再興したとしてものの十分で全滅ってことになりそう。
そこまで考えて、私は寒くも無いのに体を震わせた。
ぞっとしないわけがない。
なんとかそういうのに、再び目を付けられないように再興を進めなくっちゃ。
気を取り直して次の穴も、同じように塞いでいく。
雑念が混じったけど、一度発動した魔法はつつがなく効果を発揮した。
よしよし。
ちょっと叩いてみたけど、完全に一体化してる。
体のだるさをもとに、魔力消費を計算すると、一日に五か所くらいは埋められるかな?
魔石を齧れば第一階層の半分くらいは今日中にはいけそうだけど……うん、泥が足りないな。
仕方ない!
皇女様の庭園をハゲさせるわけにはいかないからね!
『これ』がいいわけであることを十分承知の上で、私はひとまず残り三か所の補修に回った。
魔石を噛み砕くなりして体内に入れれば、魔力は回復する。
だけど魔石は、食べ物じゃない。
食べ物じゃない物を、食べるのに近い行為で体内に入れるのに、私は抵抗があった。
人間じゃないからできること、で、私は『人間じゃない事』を自覚したくなかった。
無事、スライム一匹を連れ帰った修理一号の足元が泥まみれで、「泥が無い」という言い訳が粉砕されることを、この時の私はまだ知らなかった。
そうだね!
水場の足元が湿ってないなんてこと、ないもんね。




